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旅も人生も、選択の連続。三重で学んだ五つの教訓。

生きていれば、誰しもが様々な岐路に立つ。進学、結婚、就職といった人生を左右するような大きな分岐点もある。車の色を何にしようか、じゃんけんでどれを出そうか、果てはファンタのグレープ味とオレンジ味のどちらを買おうかというようなごく些細なことだって立派な選択だ。

重大な選択であればあるほど、あの時、もう一つの道を選んでいたらという後悔に囚われることがある。悔やんでも戻れない過去が、誰しも一つや二つはあるだろう。かく言う私も、これまでたくさんの選択ミスを犯してきた。グレープ味を一口飲んで、「オレンジにしとけばよかったな」と思うことなんて日常茶飯事だ。

日常生活でも様々な選択を迫られるというのに、それにも増して選択の連続なのが旅行だ。どこへ行くか、何を食べるか、どこに泊まるか、決定権はすべて自分にある。選択をミスしたら最後、目的地に辿り着けなかったり、ウーロン茶を買ったはずが砂糖が入っていたり、とんでもない部屋に宿泊することになったりして、酷い目に遭うことになる。


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この写真の宿は一見綺麗なのだが、照明がデスクライト一個だけというシンプルさだった。あまりにも衝撃的で写真に撮ってしまったほどだ。激安だったとはいえ、よく調べないと大変なことになる例として、ここに記しておこう。

旅で、そして人生で、これ以上失敗を繰り返さないためにどうすれば良いだろうか。それは、これまでの成功も失敗も教訓にして今後に生かすことだ。今回の記事では、先日訪れた三重遠征を題材に私が各所で学んだ教訓を伝えよう。ぜひ、他山の石として皆さんの人生の糧としてほしい。


教訓1:自分の大事にすることに従え!

2021年3月26日、早朝5時15分。夜行バスは予定よりも早く目的地の名古屋駅へ到着した。今シーズン初めての遠征先の舞台は、三重県鈴鹿市。私の応援する東京武蔵野ユナイテッドFCは、アウェイの地で鈴鹿ポイントゲッターズとの対戦が予定されていた。

移動時間を考えても午後1時のキックオフまでには十分に時間がある。それでも敢えて夜行バス移動にしたのは、試合前にある場所へと向かうためだ。

夜行バス移動をしてでも訪れたい場所。それは、伊勢神宮だ。

日本各地の神社の頂点に立つその存在であり、古の時代から参詣という形で日本のツーリズムの原点でもあった。江戸時代には庶民の間でも伊勢参りが盛んに行われていたと聞く。試合前の願掛けというわけではないが、三重まで来たからにはやはりお伊勢さんに背中を向けて帰るわけには行かないだろう。

名古屋から伊勢までは、列車移動となる。しかし、ふと前を見ると駅へと急ぐ私の進路を、大きなシルエットが塞いでいる。

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名古屋のシンボル、ナナちゃん人形だ。しかも、なぜか某アニメのコスプレをしている。

呆気にとられる私に、ナナちゃんは語りかけてきたのだ。

「伊勢市駅まで、近鉄で行くの!?それともJRで行くの!?」


はたと我に還る。そうだ、名古屋から伊勢市までには、二つの選択肢があるのだ。近鉄線とJR線は名古屋を出発すると、桑名、津、松阪、伊勢市、そして鳥羽と時折ターミナル駅で対峙しながらつかず離れずそれぞれの線路を走破する。

最終的に同じ駅に到着するとはいえ、どちらでも良いわけではない。両者の特徴や利点を比較検討してこそ、根拠を明確にして選択をすることができるのだ。

まず近鉄だ。関西と中部とを股に掛け、日本の私鉄では最長の路線網を有する。古くから三重と愛知とを結んできたこともあり、JRと比較すると同一区間でも乗客数は圧倒的に多い。

その強みは運行本数だ。1時間に1本以上の頻度で特急が走るだけでなく、追加料金不要の急行が20分間隔で発車する。名古屋から伊勢市まで急行で2時間弱かかるものの1470円という価格設定もリーズナブルだ。

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一方のJRはかなり劣勢に立たされている。

運行本数で見ても、比較的乗客の多い名古屋ー四日市を除けば圧倒的に少ない。また2両や4両編成と短く、それだけ乗客数が少ないことを如実に感じさせる。さらに電化されていない区間や単線区間も多く、設備的にも近鉄に大きく差をつけられているのが実情だ。

しかし、今回向かう伊勢市方面に限って言えば快速「みえ」を毎時1本ほど走らせることで近鉄と戦う姿勢は示している。速度的にも名古屋から伊勢市まで1時間40分程度と、同じ特急料金不要での勝負なら近鉄の急行より若干速く競争力があると言えるだろう。

次に、価格面で見ると名古屋ー伊勢市は2040円と近鉄の急行よりも割高だ。これには理由がある。この快速「みえ」は、途中で第三セクターの伊勢鉄道線を通過するのだ。この区間の料金が上乗せされるため、ほぼ同じ距離にも関わらず価格が割高になるのだ。

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しかし、JRも手をこまねいているわけではない。土日祝日限定の青空フリーパスという1日乗車券を使えば、伊勢鉄道の区間も含め2060円で乗り放題になる。これを使用すれば、実質的に伊勢市まで片道1000円程度と近鉄よりも安上がりだ。さらに、この時期には格安旅行の強い味方、青春18きっぷも使用できる。残念ながら今春をもってムーンライトながらは廃止となってしまったが、それでも一日快速・普通列車に乗り放題というのは強力だ。ただし、伊勢鉄道の運賃は追加で支払う必要がある。

利便性なら近鉄、上手く使えば値段と乗車時間で優位性のあるJR。なかなか選び甲斐のあるチョイスになった。

そろそろ始発が動き出す。選択に残された時間はあと僅かだ。

ナナちゃん人形が見守る中、私の出した結論。

「近鉄で行きます!!」

行きは近鉄に乗車をすることとした。決め手は朝一の急行に乗れば乗り換えなしで到着できる点だ。一方のJRは早朝に快速列車の設定が無く、伊勢市の到着が1時間近く遅くなってしまうことが致命的だった。

いくら同じ駅に到着するとしても、そこに至るまでの時間や金額は全く異なる。今回は時間優先で近鉄を選んだが、重要視するものが違えば、選択は変わるだろう。


教訓2:神頼みはするな!

伊勢市駅に到着した頃には、車窓はいつしか晴天となっていた。しかし、列車から降りて感じる風は冬のように冷たく、防寒着を持参しなかったことを後悔した。

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鉄道での旅行が全盛だった頃の名残なのか広い構内を持つ駅を出ると、駅前は観光地の最寄駅とは思えないほど閑散としていた。駅からまっすぐと伸びる目抜き通りには、昔ながらの食堂やお土産物店に混じって新しそうなカフェや飲食店も目に付くが、まだ朝方だからか開店前の店が多い。


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通りを抜けると、外宮が見えてくる。伊勢神宮には外宮と内宮とがあり、外宮、内宮の順に参拝をする。駅前は多少綺麗になったが、こちらは以前訪れた際と変わらない佇まいだ。

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神前で手を合わせ、目を閉じる。

最後に訪れた時から、随分と時間が経ってしまった。

2011年3月11日、私はこの場所にいた。

当時は学生で、春休みを利用した一人旅の真っ最中。そして参拝を終えてこの駅に戻ってきた頃に、大地震が発生したことを知った。即座に旅は切り上げとなったが、東京の自宅まですぐ帰宅する事も叶わない。刻一刻と露わになる被害状況を目の当たりにし、こんな時に家族と離れて旅をしていることに腹が立った。

それから10年。10年ぶりの来訪という事実に、時が過ぎ去る早さを見せつけられる。

「10年ぶりにここまでやってきました。おかげさまで、健康に暮らしております」

そう心の中で呟く。何一つ、神頼みはしない。「今日の試合、勝たせてください〜!」なんて願ったりしない。この願いを叶えてくれるのは神様ではなく、選手たちだからだ。


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バスに乗って、次は内宮へと向かう。以前は人で溢れて参拝するのに長く待った記憶があったのだが、参拝時間か自粛の影響かすんなりと参拝をすることができた。桜の季節とあって、本来であればもっとたくさんの参拝者でごった返していたであろう。

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内宮の周辺は門前町が栄えている。まだ朝9時を回った頃だというのに、半分以上の店舗が営業している。伊勢うどんに手こね寿司、豪勢に松阪牛なんて文字も見える。地ビールもうまそうだ。地元の様々な名産品が食べ歩きできる様子はまるでスタジアムグルメの出店のようにも見える。

多様な名物に目移りしながらも、狙うは伊勢名物、赤福だ。伊勢に訪れたことのない人でも、一度は食べたことがあるだろう。看板を眺めると、創業宝永四年の文字。西暦に直せば1707年だ。消費期限はわずか数日。当時は赤福を旅行のお土産にすることなんて叶わず、この地でのみ食べられるレア物だったに違いない。

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店内では餅2個と番茶のセットで飲食ができる。この甘さ、脳に直接作用する。番茶がよく合う最高の組み合わせだ。

窓の外には五十鈴川。この風景は、今も昔も変わらないのだろう。

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教訓3:思い込みで動くな!ちゃんと確認せよ!

参拝を終えると、いよいよこの旅の本当の目的地へと向かう。その場所の名は、鈴鹿市石垣池公園陸上競技場(AGF鈴鹿陸上競技場)。コーヒーギフトでお馴染みのAGFがネーミングライツを取得している。今更ながら地図で詳細な場所を調べると、衝撃的の事実を目の当たりにする。

「このスタジアム……なんて場所にあるんだ……」

試合会場がとんでもない場所にあるというのは、Jリーグでもよくあることだ。JFLや地域リーグの場合、シャトルバスなんて基本的には存在しない。公共交通機関やレンタサイクル、それすらもなければ何キロも歩くしかない場合だってある。

しかし、この日の目的地はそんな想像を超えていた。いい意味で。

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「駅から……とんでもなく近い……」

何と駅から目的地までの距離、400m。時間にして僅か5分。

しかし、ここで浮かれてはいけない。ちょうど良い時間に列車がなければ意味がないのだ。最寄の伊勢鉄道玉垣駅には、快速列車は停車しない。旅行者たるもの、思い込みで動いてはいけない。しっかりと時刻表を確認しなければならない。

時刻表によると、12時4分着の列車があるようだ。

「ありがとう!伊勢鉄道!」

思わず声が出てしまった。試合開始の約1時間前に最寄駅へ到着できれば、競技場の周囲を散策をしても余裕を持ってスタジアム入りができるタイミングだ。

完璧なスケジュールに感激し、まずは津駅まで向かう。津までは乗り継ぎを含めて1時間ほど。時間的にはまだまだ余裕がある。

しかし……この時には、ある事件によってスケジュールが大きく狂うことになるとは思っていなかったのであった。


さて、さかまきの身に何が起こったのか、そして試合の内容については有料部分でお話しすることとしよう。


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