大月紫龍

少しお休みしていましたが 2023年再開しました。 再アップから始めていきます。

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最近の記事

誰かの隣の貴方を想う日

年度末の忙しさから解放された4月。新年度を迎え業務が多いことに変わりはないけれど、「終わり」の作業より「はじまり」の作業の方が、圧倒的に好きだと思う。日曜日。久しぶりの休日のタイミングを見計らって母は電話をかけてきた。今年は花粉に悩まされるとしきりに話している。相槌を打ちながらアイスコーヒーのおかわりを注いだ。ふとベランダに目をやると春を本格的に迎えた空は心地よく澄んでいて今日は洗濯機を2度回そうと決める。 就職して5年。やっと満足できる仕事が増えてきた。勤める会社ではこの

    • 心はいつもあなたへ還る

      どうしても声が聴きたくなった。 「今帰り?」 「うん。」 あなたは私の声色だけで こころのすべてを見透かしてしまう。 そろそろ独り身から脱すべき、と友人に紹介された男性と初めて食事に行った日の帰り。結婚願望もないし今はいいやとのらりくらりと言い訳していたのだけれど、どうしても紹介したい人がいると押し切られてしまった。 駅からマンションまでは歩いて3分ほどなのにまっすぐ帰る気にもなれず、わざわざ遠回りをして24時間営業のスーパーに入る。 買いたいものなんてない。 煌

      • もう一度、君に触れたい

        お昼前の横浜方面に向かう電車は比較的空いていた。小説を読みながらだと最寄り駅から約1時間の移動時間もあっという間に感じる。もっと会社の近くに引っ越したらいいのにと同僚にもよく言われるがこのくらいの距離がないと私は気持ちの切り替えができない。週に3日はテレワークだし、フレックス制度のおかげで出勤時間も自由。朝が早いわけでも混んでいるわけでもないこの電車移動が私は嫌いではない。 2月にしては暖かい日。車内の程よい暖房の効き具合で少しの睡魔が襲う。気分を変えようとイヤホンから流れ

        • あなたとの幸せ私の未来

          電話口から聴こえる声はいつもより明るかった。会食でひとつ商談がまとまりそうなのだという。間接照明にしていた明かりを昼間のそれに戻し、もちろんもう寝るつもりだったとは言わず言葉を返しながらゆっくりと茶葉をティーポットに落とす。この夜をお湯に溶かすようにそっと。彼の声を聴きながらも幼馴染の言葉が脳裏をよぎった。 その言葉が喉の奥にまるで魚の小骨のように引っかかったまま、飲み込むことも吐き出すこともできずにいる。 最初に会った時から惹かれていた。それはもう否応もなく。煙草を吸う

        誰かの隣の貴方を想う日

          ごめんねとありがとうを

          あすの準備のために実家に帰ってきた。 というのは本当は言い訳で。一緒にホテルに泊まらなくていいのかと母に何度も聞かれたけれど今日だけは18歳まで過ごした自分の部屋で眠りたかった。学習机も壁のポスターも当時のまま。部屋の隅には父のゴルフセットや母の大きな旅行鞄、使わなくなったダイエット器具などが置かれていて、それを含めてもやはり落ち着く。母が掃除や換気をしてくれるおかげで部屋は少しも傷んでいない。 大学進学で上京しそのまま就職して10年が経った。いつか地元に帰ってきたいと思

          ごめんねとありがとうを