電験3種 2021年度 理論 問6 直流回路

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直流回路の抵抗を切り替え,流れる電流を求める問題です。電源の性質さえ問題文から読み取れれば,計算は難しくありません。

(前提)直流安定化電源とは?

直流安定化電源は,設定された電圧と電流のどちらがが上限となるめいいっぱいの電気を流す装置です。例として,上限値を問題文の通り100A,20Vに設定したものとして具体的に計算してみましょう。

①0.1Ωの抵抗をつないだ時
・抵抗に100Aの電流を流すために必要な電圧は,100A×0.1Ω=10Vとなります。10Vは電圧の上限値以下なので,出力することができます。
・仮に20Vの電圧を出力したとすると,電流は20V÷0.1Ω=200Aとなります。200Aは電流の上限値を超えているので,出力することはできません。
したがって,実際の出力は,100A,10Vとなります。抵抗を多少変化させても電圧の上限まで余裕があるので,電流は上限である100Aのまま電圧だけが変わり,この状態を定電流モードと呼びます。

②1Ωの抵抗をつないだ時
・抵抗に100Aの電流を流すために必要な電圧は,100A×1Ω=100Vとなります。100Vは電圧の上限値を超えているので,出力することはできません。
・仮に20Vの電圧を出力したとすると,電流は20V÷1Ω=20Aとなります。20Aは電流の上限値以下なので,出力することができます。
したがって,実際の出力は,20V,20Aとなります。抵抗を多少変化させても電流の上限まで余裕があるので,電圧は上限である20Vのまま電流だけが変わり,この状態を定電圧モードと呼びます。

(解答)

0~t1 [s]のときは問題文の通り100A(抵抗がR1=0.1Ωのみなので前提①の状態です)なので,まずt1~t2 [s]のときを考えてみます。

スイッチ1が「開」,スイッチ2が「閉」なので、回路図は下記左図のようになります。

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ここで,赤線はスイッチ1が「開」のため電流は流れないので無視できます。また,青線は,並列に抵抗0Ωのいい道があるのにわざわざ0.8Ωの険しい道を通る物好きな電子はいないので,電流は流れず,こちらも無視できます。
これを踏まえて書き直すと,真ん中の図になります。R1とR2が直列につながっているので,抵抗値を足して合成すると、右の図のように直流安定化電源に0.2Ωの抵抗一つがつながっただけの回路になります。

あとは,(前提)のように100A,20Vの直流安定化電源に0.2Ωの抵抗をつないだ時を考えます。
・抵抗に100Aの電流を流すために必要な電圧は,100A×0.2Ω=20Vとなります。20Vは電圧の上限値以下なので,出力することができます。
・仮に20Vの電圧を出力したとすると,電流は20V÷0.2Ω=100Aとなります。100Aは電流の上限値以下なので,出力することができます。
電流と電圧,どちらの上限で計算しても100A,20Vとなり,つまり電流電圧ともに上限いっぱいの状態です。

t2~∞ [s]のときも同様に回路を変形すると,1Ωの抵抗一つがつながった回路になります。

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これは(前提)②と同じ状態なので,電流は20A(ちなみに電圧は20V)です。

したがって解答は②になります。

(蛇足1)選択肢から解答を絞る

選択肢を見ると⑤だけが異質です。ほかのグラフはt1,t2でステップ状に電流が変化しているのに対し,⑤はt1からt2の間,徐々に電流が下がっています。コイルやコンデンサのない,抵抗だけの回路で徐々に変化することはありません
しかも一定の傾きで下がった電流がt2でちょうどある値(20A)になっています。これは絶対にあり得ません。スイッチ1を開いた時点で,何秒後にスイッチ2を開くか決まっていないため,傾きが決められないからです。
百歩譲って,コイル又はコンデンサを含む回路で,t1とt2の間に十分な時間がある(t2がずれたとしても,すでに変化が落ち着いている)という条件がついていれば,右図のようなグラフはあり得ます。

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⓵もかなり不審です。最初から最後まで変化がありません。もちろん抵抗の値とかによってはありえますが,これが正解なら作問者はかなりひねくれてますね。
実際には,t1~t2の時の電流を計算して⓵か②に絞り,t1~t2の時に電流電圧ともに上限なので,t2で抵抗を大きくすると電圧の限界で電流が下がるだろうと予想すれば,t2以降の計算はしなくても②を選べます。

(蛇足2)並列に接続された抵抗と導線

回路の変形で

また,青線は,並列に抵抗0Ωのいい道があるのにわざわざ0.8Ωの険しい道を通る物好きな電子はいないので,電流は流れず,こちらも無視できます。

なんて書きましたが,本当でしょうか?

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左の図が,0.8Ωの抵抗とスイッチ2を抜き出した図です。
閉じたスイッチは0オームの抵抗と同じなので,真ん中の図で0Ωの抵抗についてオームの法則で式を立てます。0Ωの抵抗にかかる電圧をV [V] ,流れる電流をI0 [A] とすると,
V [V]=0 [Ω]×I0 [A]=0 [V]
となります。
次に右の図で0.8Ωの抵抗についてオームの法則の式を立てます。電圧は0Ωの抵抗と同じV [V]=0 [V]なので,流れる電流をI1とすると,
I1 [A]=0 [V] / 0.8 [Ω]=0 [A]
となり,0.8Ωの抵抗には電流が全く流れないことがたしかめられます。

別の考え方として,合成抵抗を使ってもいいでしょう。
並列につないだ抵抗r1 [Ω],r2 [Ω] の合成抵抗R [Ω]は,
1/R=1/r1+1/r2
となるので,r1=0.8,r2=0を代入すると,
1/R=1/0.8+1/0=1.25+∞=∞
両辺を逆数にして,
R=1/∞=0
となるので,合成抵抗0Ω,すなわち0.8Ωの抵抗を無視していいということになります。

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