電験3種 2021年度 理論 問10 過渡現象

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コイルを含む回路に直流電源をつないだ瞬間からの過渡的な電流を求める問題です。

(前提)コイルの過渡現象

コイルは電流の変化を妨げるものです。
下の2つの回路でそれぞれスイッチを閉じた瞬間からの電流を考えます。

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左の抵抗だけの回路では,オームの法則で求められる電流が瞬時に流れます。
右の抵抗とコイルが直列になった回路では,電流は0Aから徐々に増え、最終的にはオームの法則で求めた電流になります。
電流が一定になるまでの変化している状態を過渡状態、電流が一定になった状態を定常状態といいます。定常状態ではコイルは無視できます。つまり,ただの導線と考えてよいということです。

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コイルのインダクタンスが大きいほど電流の上がり方が緩やかになります。具体的には、スイッチを閉じた瞬間における電流のグラフの傾きがE/Lであらわされます。この時の傾きはRには関係ありません。なぜならスイッチを閉じた瞬間の電流は0なので,抵抗による電圧降下がない(=抵抗を無視できる)からです。

(定常状態)

過渡現象の問題の解き方の定石として,まずは定常状態でどうなるかを考えます
コイルは定常状態ではただの導線なので,回路は直流電圧源と抵抗だけで考えることができ,オームの法則により電流はE/Rとなります。
図2より、R=1Ωのとき,定常状態における電流が3Aなので、電圧は3Vだとわかります。問題のR=2Ωのとき,定常状態における電流は3V/2Ω=1.5Aとなります。これを満たす選択肢は(4)または(5)です。

(スイッチを閉じた瞬間)

スイッチを閉じた瞬間の電流の増え方(傾き)は電源電圧とインダクタンスで決まります
この問題では,抵抗のみを変化させ,電圧とインダクタンスは変化させていないので、傾きは変わりません。(5)は傾きが小さくなっているので不適であり、正解は(4)となります。

(蛇足1)時定数

RL回路の電流をあらためて見てみましょう。

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ここで、定常状態での電流はコイルをただの導線としてオームの法則でE/R、t=0の時の電流の傾きはE/Lとなります。
実際は傾きが徐々に小さくなり定常状態の電流に近づいていきますが,仮に最初の傾きのままだったら何秒で定常状態の電流になるかという時間を使って過渡状態の時間を考え,この時間を過渡回路の時定数と呼びます。
時定数をT [s]とすると,傾きはYの増加量÷Xの増加量なので,
 E/R÷T=E/L
 T=L/R
となります。
Lが大きいほど時定数は大きくRが大きいほど時定数は小さくなります。極端な例では,Lが0(つまりコイルではなくただの導線)なら時定数0なので瞬時に電流が定常値になります。また,電圧は時定数に関係しません。電圧が大きいほど最初の傾きは大きくなりますが,最後に到達する定常電流も大きくなるからです。
LやRを変化させたときの電流のグラフと時定数の関係を下に示します。

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赤のグラフを基準として,Lを大きくすると青のグラフのようになり,定常電流は変わらず電流の傾きが小さくなるため,時定数が大きくなります。Rを大きくすると橙のグラフのようになり,電流の傾きは変わらず定常電流が小さくなるため,時定数が小さくなります。

(蛇足2)コンデンサによる過渡現象

コイルと対になる素子にコンデンサがあります。コンデンサと抵抗を直列にした回路の過渡現象を考えてみます。

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⓵スイッチを入れた瞬間は,電流がコンデンサの充電に使われるので,あたかもコンデンサがないかのように電流が流れます。この時の電流は,電源電圧E [V]と抵抗R [Ω]のオームの法則によりE/R [A]となります。
②コンデンサに電荷がたまると,コンデンサに電源とは逆向きの電圧Vc [V]が発生するので,抵抗にかかる電圧はE-Vc [V]となり,オームの法則により電流は(E-Vc)/ R [Ω]となります。充電が進むとコンデンサの電圧Vc [V]が大きくなっていくので,電流は小さくなっていきます。
③さらに電荷がたまってコンデンサが電源電圧まで充電されると,抵抗にかかる電圧はEーE=0 [V]になり,電流も0/R=0 [A]になります。

スイッチを入れた直後,最初の電流の傾きのままで電流が下がっていったと仮定したときに電流が0になるまでの時間すなわち時定数を求めるとCRとなります。
Cが大きいほど時定数は大きくRが大きいほど時定数は大きくなります。極端な例では,Cが0(つまり瞬時に充電完了するほど小さい)なら時定数も0なので瞬時に電流が0になり,事実上電流は流れません。Cが無限大(永遠に充電し続けられるほど大きい)なら時定数も無限大なので,永遠に電流が流れ続けます(コンデンサではなく導線をつないだのと同じ)。Rが0なら,無制限に電流が流れるので,すぐに充電が完了するため時定数は0,Rが大きいと,あまり電流が流れないのでなかなか充電が終わらず時定数は大きくなります。電流がLR回路の時と同じく電圧は時定数に関係しません
CやRを変化させたときの電流のグラフと時定数の関係を下に示します。

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Cを大きくすると,最初の電流は変わらず電流の傾きが小さくなるため,時定数が大きくなります。Rを大きくすると,最初の電流はRに反比例して小さくなりますが,電流の傾きはRの2乗に反比例してもっと小さくなるため,時定数が大きくなります。

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