『I LIKE YOU 忌野清志郎 』(河出書房新社)

 The Smiths、Prince、そして、RCサクセション(忌野清志郎さん)、彼らは私が10代の頃に大きな影響を受けたアーティストたちである。

 The Smithsの元メンバーであるモリッシーやジョニー・マーはまだ健在だが、Princeと忌野清志郎さんは既に亡くなってしまった。4月21日がPrinceの命日、5月2日は清志郎さんの命日だ。

 清志郎さんについては今年が没後10年になる。そのこともあったのか、1冊の書籍が発行された。河出書房新社『I LIKE YOU 忌野清志郎 』だ。「OTOTOY」という音楽サイト上で連載されていた、清志郎さん所縁の方々にインタビューをした連載をまとめたものらしい。また、書籍化にあたり、連載時に掲載されたものに、新たに取材をした方を加えたとのことだ。女優のんさん、手塚るみ子さん、渡辺大知さん、角田光代さん、清志郎さんの娘さんである百世さんを覗いては、スタッフとして清志郎さんと関わった方々からみた忌野清志郎という人物像、RCサクセションはどういったバンドだったのかが綴られている。オールドファンにとっては馴染みの話もけっこうあるが、それでも、「え、これってそういうことだったの?」とうエピソードもあり、とても楽しめた。

 この本の良いところは、RCや清志郎さんの昔からのファンも十分読みごたえを感じる内容でありながら、これから忌野清志郎、RCサクセションを知っていきたいという方向けの入門書にもなっているところだと思う。この本に証言を寄せてる人からRCおよび清志郎さんの曲の中ですきな曲と、好きなアルバムをあげていってもらって、その理由を述べてもらっているのだ。RCや清志郎さんについて最近興味をもった人はどの曲を聴いたらいいのか参考になる、というガイドブック的な要素があるのは新規ファンにはありがたいことだと思う。

 取り上げられている曲の中には、RCならこれ!という定番曲もたくさんあるのだが、「へぇ、その曲を選ぶんだぁ」という方もいて、清志郎さんに接した人それぞれの中にその人が感じていた様々な清志郎さんの姿がいるっていうことも伺いしれて、その点もとても興味深い。

 あまり本文に言及しちゃうとネタバレになるので、あまり触れないでおくけれども。

 とはいえ、本文中にRCサクセションの活動として鍵となる1つのアルバムの名前が頻繁に登場するので、そのことは触れたい。1986年の日比谷野音でのライブをおさめたアルバム『the TEARS of a CLOWN』である。実は、私、このライブに行っているのだ。高校卒業後に進学のため上京した年、その時にやっとみることがかなったRCの初ライブがこれだった。この日比谷野音でのライブはRCおよび清志郎さんの陽と陰の部分がうまくかみあって表現された素敵なステージだったことは今でも記憶に残っている。これに関してのエピソードが頻繁にでてきて、その箇所についてはとても胸が熱くなってしまった。アルバム『the TEARS of a CLOWN』は色んな配信サービスでもきけるので、ぜひとも聴いてほしい。真夏の日比谷の夜空に響きわたったRCが奏でた甘いソウルミュージックは、そのライブを体験していなくても、新鮮な驚きを初めての人にもきっと渡してくれると思う。

 内容に触れすぎるとネタバレになるからあまり書かない、と先に書いたけれど、一人だけ、この本に登場する方のことに少し書いておこう。その方は近藤雅信さんという方。RCが東芝EMI在籍していた時のスタッフの一人で、当時一番RCと密に接してお仕事をされていた方である。そして、この方は今は岡村ちゃんこと岡村靖幸が所属するV4. Inc.の社長でもある。そう、近藤さんは岡村ちゃんのマネージャーをしている方なのだ。RCの東芝EMI時代はRCの絶頂期でもあった。その時代をともに過ごしたこの方の証言はかなり読み応えがある。そして、この方がなぜ、現在、岡村ちゃんのマネジメントをしているかの理由が語られていて、そのことで、清志郎さんが日本の音楽界に蒔いた種が芽吹いて、今現在、ほかのアーティストの活躍へとつながっているのだな、というのがとても腑に落ちた。そして私はRCの音楽を聴いていてよかったなぁと強く思ったのである。(これは私が岡村ちゃんが好きだから、なおさら感慨深い思いになる訳なのだが)

 そうそう、清志郎さんの曲で『裏切り者のテーマ』というのがあるのだけど、この本を読んだ後に聴くと、とても味わい深い面白い曲と感じられる。この曲の歌詞は清志郎さんのよくも悪くも実直で素直な気持ちが現れているのだが、歌詞に登場する「裏切り者」に対しての怒りが前面にですぎてて、ちょっとこの「裏切り者」さん気の毒だなぁと感じてしまう部分もあったりしたのだけど、この『I LIKE YOU 忌野清志郎 』を読んだ後に聴くと、ああ、清志郎さんはこの「裏切り者」さんのことがとても好きでその人が遠い場所に行って寂しかったんだなぁ・・・ていう解釈が新たに生まれたのだ。その点がわかったことでもこの本を買って読んで良かったと思う。

 清志郎さんのような反骨にあふれた気概のある、でも甘くて優しいソウルマンが今後でてくるかはわからないけど、今の時代にこの本がでたことはとても重要だと思う。忖度なんて言葉がはやってしまうこの時代には。

 清志郎さんが亡くなって10年たって、その間に3.11も起きて、政治も景気もよくわからず混沌として、私たちの生活には不安がすぐそばに横たわっていたりするが、RCを聴くことで不安な未来の中に希望を感じられる、そのことに繋げることができたらいいなと思う。

 そんな思いが感じられる一冊だった。


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