期限あるマネーの経済社会への影響

eumoという電子マネーがある。
共感コミュニティ通貨eumo

株式会社eumoが運用している電子マネーであるが、私が考えるその最大の特徴は、有効期限が3ヵ月ということ。
私は、株式会社eumoの取締役を務めており、経営に参画しているわけであるが、私がこの会社で自分に与えたミッションは下記のようなものである。

共感資本社会の根源である共感価値理論の確立と社会での実践を目指す。

このミッションは、社会貢献、社会課題解決、理想社会の構築、ではなく、ポスト資本主義での新しい価値や振る舞いについて、研究し実践するといった性格のものである。

この中で「社会での実践を目指す」に関連したアクションとして、「eumoを使うこと」がある。
私自身がeumoを入手する源泉としては、
・eumoからの役員報酬は全額eumoで受け取る、株式会社eumoの株主としての配当金は全額eumoであること、eumoの電子マネーとしての仕組み上受け取る期限切れeumoの再配布ポイント、といった定期的なeumoの増加。
・法定通貨(日本円)をeumoにチャージすること、これは逐次のeumoの増加。
といったことがある。

私の経済活動では、donationは行わない形式のため、eumoは全額、自身の使用価値として使われる結果となる。

この使用価値として使うことが、有効期限が3ヶ月というeumoの性質上、一定のeffortを要する(eumoは法定通貨への変換ができないため、一方通行の貨幣的価値の流れとなるため)。

これをずっと続けていることで、eumoが、現在の経済フレームワーク(資本主義、交換価値経済、法定通貨による信用創造といったもの)を変化させてしまう可能性について認識を深める結果となっている。

この点は、頭では解っていたつもりであったが、そういう経済活動に身をおくことで、想像していたのとは異なるひらめきがあったのである。

さらに個人での消費を越え、会社での支出にも使うことで(BtoB取引)、その意味合いの認識がさらに深まってきた。

そのため、「共感価値理論の確立と社会での実践」をより進めるための試みとして、eumoの利用量をさらに増加するためのビジネスモデル(利用量増加が決済システムとしてのeumoの質の転換をもたらすとの仮説)の概念実証(PoC)を始めている。

具体的な考察をしてみる。
社会システムとして、3ヵ月で価値がゼロになるマネーが一般化したなら、貯金は不可能であるし、最大の使用価値の実現のeffortが経済活動の振る舞いとして行われる。
そのため、価値分配は個人の消費の範囲に限られるため、巨額の富の蓄積による貧富の差は解消されることになる。

このような状態は、「極めて高度な生産性の向上」の結果もたらされると考えている(そうでないと「気持ち」の問題となり、社会システムとしての持続性が確保できない→自律的でない、と考えるため)。
生産性の向上は、基本は科学と技術によってもたらされるが、そこに加えて、それらを活用する社会システムも必要になる。

どのレベルまでの生産性の向上が必要かは程度問題であるが、私見では、多くの人々が一定のラグジュアリー感を得られる程度(無理な我慢はない状態)は必要ではないかと仮定する(健康で文化的な最低限の生活水準でよいとする考え方もあるが)。

森鴎外の「山椒大夫」の最終盤(厨子王が国守となり、その権限を持って、奴隷制社会の解消施策を実施した段階)に以下のような記述がある。

「最初の政(まつりごと)として、丹後一国で人の売り買いを禁じた。そこで山椒大夫もことごとく奴婢を解放して、給料を払うことにした。大夫が家では一時それを大きい損失のように思ったが、この時から農作も工匠(たくみ)の業(わざ)も前にまして盛んになって、一族はいよいよ富み栄えた。」

社会構造の変化で言うと、資本主義(お金が価値の基盤)の前の身分制社会(身分が価値の基盤)へ奴隷制社会(人間・非人間の区分が存在した段階)から変革を遂げること、すなわち社会システムの変化により一見損をするようであるが、実はより栄えることになる、ということを言っている。

これは貧富の差が社会の成長に弊害をもたらすというマリア・クリスチーナ・ディナルディ教授の論文、OECDワーキングペーパー 『所得格差の動向と経済成長への影響』 などで実証研究された「格差が経済成長を損なう」を古い社会段階で表現したものと言える。
森鴎外がなぜ、このような記述したのかは不明であるが、あの有名な「山椒大夫(安寿と厨子王)」の中に、資本主義システムでも大きな問題となっている「格差」の解消が繁栄をもたらすことと同等な表現があったことが興味深い。

こういった考察の流れから、eumoの持つ「期限があるお金(残高が3ヶ月でゼロになる)→富の蓄積ができないため、貧富の差が生まれ難い」という性質は、仕組は単純であるが、経済学的には深い意味があると思うのである。

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