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【ショートショート②】ココア、フーフー

海風にさらされてペトペトになった髪の毛は、さっきシャワーで念入りに洗い上げた。
今日という貴重な時間は、サラサラで過ごしたい。

シャワーを浴びて一段落とはいかない。
ここから、さらに大事な保湿ケアの時間。

基本のスキンケアの合間に、緊急のリップケアは欠かせない。唇にたっぷりのワセリンをのせ、その上からサランラップパック。
付け焼き刃でも、最後に悪あがきはしておきたいの。

「このラップ、あとちょっとだなー」なんて眺めてるときに、あ、と思い出した。

そろそろココアを作らないと。

彼は普段甘い物を口にしない。
だからお土産も、甘いものは買わない。
しかし何故かココアは別らしく、ビターな大人向けの味ではなく、砂糖のたっぷり入った甘いのが好きみたい。お風呂上がりにココアを飲むのが日課なんだって!

美味しいココアを淹れる。
これが、本日最後のミッション!!

いつもの量をスプーンで計り鍋に入れる。炒るように少しだけ温めるとふんわりと香りが立ってくる。火を止めて牛乳をイン。ペースト状に練ったココアに砂糖と牛乳を加えて、ゆっくり混ぜながら温める。

彼がシャワーから出て着替える音が聞こえる。

急がなきゃ。
沸騰寸前で、鍋の火を止める。

んー、まだちょっと熱々だなぁ。

彼はドライヤーをかけ始めた。

よし、フーフーして冷まそう。

私は氷の精。
氷のように冷たい息を吐くことができる。
フーフー。フーーッ。

氷の精になりきり、一気にココアを冷ましにかかる。

「あー、さっぱりしたー」
フーフーしてるところに、彼、登場。
「あれっ、どうした?そのヒマワリの種を頬張るげっ歯類みたいな姿」
「げっ歯類?リスって言ってよー」

石鹸の香りを纏った彼が隣に座ると、少しだけ逃げたい気持ちになる。誘ったのは私なのにね。

添い寝の夜は、これから。

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