アートウォール化するグラフィックファシリテーションを越えて
ファシリテーター Advent Calendar 2019の22日目です。
グラフィックファシリテーターやグラフィックレコーダーによって講演者の話を描かれたりします。2019年はよく目にするようになりました。
私の知り合いにもこれらのスキルを活かして活躍する方が増えています。
ところがイベントでは、ファシリテーションではなく、アートウォール職人になって消費されてしまっている…という懸念も生まれてきました。
そこで整理と、打開の方向性を書いてみました。
(主にグラフィックファシリテーションに関して書いています。)
あなたは誰?
Mori Yuyaといいます。テクニカルデザインからキャリアが始まり、そこから誰も引き取らないことをやっていくうちにディレクター、プロジェクトマネジメント、組織マネジメント、組織開発、経営領域に関わるようになりました。
プロダクトマネジメントやマーケティングの支援をしており、図や付箋を用いた問題解決や状況打開を得意としています。
過去下記のような発表をしてきました。
https://speakerdeck.com/moriyuya
アートウォールとは何か
ここでいうアートウォールが何を指すかを説明します。
都市空間の中で無味な背景となってしまいがちな壁に、美的な図画を描くことで、歩く人々の目を楽しませることを指します。
東京都心のビル工事現場では歩行者を保護するために、工事現場と歩道を分ける保護壁がよくあります。その保護壁に企画性が高く工夫を凝らしたアートウォールが描かれるようになってきました。
これに関連づけて、イベントを飾りたてる行為としてアートウォール化するグラフィックファシリテーションと私は呼んでいます。
下記写真は新宿近辺で見られたアートウォール企画です。無味乾燥な保護壁が特徴的な絵柄が加わることで鑑賞されうるものになっています。
※出典 「AKIRA」アートウォールの展覧会、新生渋谷PARCOのオープニングエキシビジョンで(画像ギャラリー 10/18)https://natalie.mu/comic/gallery/news/348158/1241633
参考記事
『AKIRA』アートウォール・プロジェクトの狙いとは? 渋谷パルコが仕掛ける、時代を象徴する公共アートの実験
https://bijutsutecho.com/magazine/special/promotion/19891
アートウォール創り職人として消費される3つの観点
3つの観点で見ていきましょう。
1.グラフィックファシリテーションが大型イベントの華やかな賑やかしとして消費される
2.イベント広報担当者とグラフィックファシリテーターは部分的にはwinwinで、部分的にはwinloseになっている
3.グラフィックファシリテーションの本来の効果が形骸化してしまう
1.グラフィックファシリテーションが大型イベントの華やかな賑やかしとして消費される
・イベントに関わる広報担当者の要望がある
イベントには広報関係者が関わります。イベントを成功したように見せるために、グラフィックファシリテーションの成果物が広報素材として非常に有用です。
特にプロフェッショナルな写真や図表よりも、手書き感のほうが親しみを感じてもらいやすく、好印象を与えるからです。
・グラフィックファシリテーターの要望がある
(私が知らないだけかもしれませんが)2019年現在では、多くのグラフィックファシリテーションのスキルを持つ人は、そのスキル単体ではなかなか仕事を取れません。能力が低いからではなく市場が育っていないからです。
グラフィックファシリテーターにとって、大型イベントからの依頼は自分自身の宣伝にもなり、仕事にもなるので引き受けたくなります。
広報担当者とグラフィックファシリテーターの期待が合致するというわけです。
2.イベント広報担当者とグラフィックファシリテーターは部分的にはwinwinで、部分的にはwinloseになっている
ところがイベント広報担当者とグラフィックファシリテーターの両者はwinwinのようでズレるところがあります。
イベント広報担当者はイベントへの直接参加者へのサービスももちろん考えていますが、それ以上にイベントに来ていない人たちへのアピールも重要視しています。プロモーション活動です。
一方で、本来のグラフィックファシリテーションはその場の人たちにグラフィックから刺激を与えることで、コラボレーションや思考の活性化を促します。つまり本来は介入します。
ここにズレが起きます。イベント広報担当者は成果物の作成を期待しているのであって、描き手による講演者や参加者への介入を期待していないことです。
ストレートな表現をすると描かれた成果物には関心があるが、描く人の行為には関心が薄いということです。
従順なグラフィッカーとして使ってしまっている…そういう状況の懸念を私は感じています。googleの検索結果を見てみましょう。
※google検索結果は流動的です。2019年12月時点での記事になります。
英語版の検索結果です。見比べてみましょう。
日本以外のものをみてください。
Graphic Facilitation
https://www.pinterest.jp/search/pins/?q=Graphic%20Facilitation
graphic recording
https://www.pinterest.jp/search/pins/?q=graphic%20recording
日本語の検索結果を見てみると、その成果物に共通性があるように観察できます。とくに大型イベントで作られたものの共通性です。
それは講演者の似顔絵とキーワードで構成されている、ということです。
対して海外の方の成果物では、プロセスや構造、仕組みといった抽象的な表現が観察できます。エンジニアリングされています。
講演者の話を聞きながら講演者の似顔絵を描き、講演者が強調するキーワードを飾る…もしそうなのだとしたらグラフィックファシリテーションというではなく似顔絵+要約になってしまっているということになります。
ファシリテーターは従順なロールではなく、本来は積極的介入し、刺激を与えるロールであると私考えます。指示通りに似顔絵つくりをするグラフィック制作屋さんではないというのが私の理解です。
3.グラフィックファシリテーションの本来の効果が形骸化してしまう
似顔絵つくりをするグラフィック制作屋さんのように使われていることがあたりまえになってしまうと、それが基準になってしまいます。本来の積極的に関わろうとする人を異常な人だったり、枠から外れた人であるように見られてしまいます。
するとグラフィックファシリテーションの機会がますます得られにくくなり、グラフィッカーとしての側面ばかりが強調されるようになってしまいます。
よりよい場作りのために研鑽している方々が、能力を発揮できずに、一部の能力だけを取り上げられていくのは残念なことです。
アートウォール化するグラフィックファシリテーションを越えて
以上の状況を出発点にどのようにしていくのがよいでしょう。
広報担当者、登壇者、参加者、そしてグラフィックファシリテーターにとって好ましいことを考えてみます。
1.登壇者や参加者との相互作用の場をイベント広報担当者や主催者とともに作る
2.似顔絵以上に、構造や機能といった抽象物の視覚化を提供する
1.登壇者や参加者との相互作用の場をイベント広報担当者や主催者とともに作る
イベント広報担当者の方は都合良く使おうしているわけではないでしょう。単に効果的な関わり方を知らないだけかもしれません。ロールを知らないだけかもしれません。
発注主が「世間的に盛り上がっているから頼んでみる」ことはよくあることです。発注主に自分達の能力の本質を伝えるのは、自分達自身だと私は考えます。
登壇者や参加者との関わり方について、イベント広報担当者や主催者に積極的に関わり、共に活動することで、よりよい場作りにつながると私は期待しています。
(難しいことを一言にまとめてしまっていますが…)
2.似顔絵以上に、視覚化のプロフェッショナル性を提供する
2.似顔絵以上に、視覚化のプロフェッショナル性を提供する
登壇者は話すことに関する領域のプロフェッショナルであっても、視覚化のプロフェッショナルとは限りません。
視覚化は理解に役立ちます。言葉でよく分からないことでも、視覚化されると分かりやすくなることは多々あるからです。
話される内容の理解を促すために、話されるテーマの構造や機能の視覚化を提供することは、他の人にはできない貢献でしょう。
※視覚化によって理解が容易になったり、促される例
演繹推論(PならばQ)も、きちんと理解させようとすると難しいのだが、図にしてみれば一目瞭然である。
Qを表す円を描き、その中にPを表す円を描く( 図7-1)。これが「PならばQ」を示している。これを見れば、Pの中に含まれるもの(★)は必然的にQに含まれていることがわかる(前件肯定式)。そして、Qでないもの、つまりQの円の外側にあるもの(▲)は絶対にPにならないことも、見ただけで考えずにわかってしまう。さらに、逆もまた真(QならばP)ということがなぜ成り立たないことがあるのかも、前件の否定(Pでない)が後件の否定(Qでない)につながらないことも、この 図7-1 一つで全部わかる。
『教養としての認知科学』鈴木宏昭, 2016, 東京大学出版会
※上記の図は筆者がふりかえりについて https://qiita.com/viva_tweet_x と https://twitter.com/terahide27 の両氏と話した内容を図にしたもの
アートウォールを越えるために
効果的な視覚化の前提として、登壇者の話す領域を理解しなければなりません。理解してはじめて効果的な視覚化、そしてその場に介入できるからです。登壇者のスライドをデフォルメするだけでは視覚化のプロの貢献とはいえないと私は考えます。
登壇者に匹敵、またはそれ以上に理解することが効果的な視覚化のために重要でしょう。
ここから分かることは、グラフィックファシリテーターとは、ラーニングモンスター(ものすごい勢いで様々なことを学ぶ人)を飼い慣らす人でありそう、ということですね。
下記の領域はグラフィックファシリテーターの要件になってくるかなと思います。
・登壇者のテーマの領域の学習
・視覚化技術の熟達
・構造と機能の視覚化
・抽象化と具象化の技術
・イベント関係者と共同する技術
さいごに
視覚化は大きな影響力を持ちます。かなかチャレンジの必要な領域もあるかもしれませんが、それらを積極的に活用するような、スターファシリテーターのような方も生まれてくるでしょう。非常に楽しみです。
今回は私の理解の範囲で書いてみました。私は異なる考えを持っているという方もいらっしゃると思います。ぜひお話ししましょう。
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ファシリテーションポルノと、ファシリテーターの北極星https://note.com/mryy/n/ne07edeed10fd
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