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コンテキスト生成技術

photo by Dorsa Masghati

タフクエスチョンとはコンテキストを生成する技術

タフクエスチョンについて考えていたら午前4時を回ってしまいましたが、解決できてハッピー。以前、TOC思考プロセスの問題に対処していたときに解決していていたものでした。

タフクエスチョンの具体例をあげると「技術革新において、新旧の技術の特徴とは何か。特徴による限界は何か」です。

HDDとSSDなら機械動作と電気動作が特徴になります。HDDの機械動作の累計が待ち時間になり、これがHDDの技術的限界を特徴づけます。処理速度では機械動作部分は電気動作にかなわないため、HDDが10世代進んだとしても、機械動作が強く影響する動作、たとえば複数のデータへの同時アクセス性能ではSSDにかなわないでしょう。

前述の「技術革新において、新旧の技術の特徴とは何か。特徴による限界は何か」という問いかけは、このような特定の質を伴った推論を引き出す問いかけです。

推論にはいくつか種類があり、たとえば前方推論や後方推論があります。これらとは働かせる感覚が大きく異なっていて悩みつづけていたのですが、このタフクエスチョンが扱おうとしていたのは、コンテキストを特定する問いかけだったのです。

より精緻に表現すると「これから考えようとしているテーマに対して、これから私たちが交わす言葉の選択肢の現れかたを左右する刺激となる問いかけ」になります。つまりタフクエスチョンとはコンテキストを生成する技術でした。

私の個人的なテーマだった「技術革新において、新旧の技術の特徴とは何か。特徴による限界は何か」という問いかけは、「これから話を交わしていくうえでコンテキストを明らかにする対話の呼び水として機能する」と理解できました。よかったよかった。


コンテキストとは何か

コンテキストという用語はよく使われますが、なんとなくで使われている言葉でもあります。私はコンテキストとは選択肢の現れかたを左右する刺激と理解しています。※ベイトソンの『精神の生態学』から

たとえば、夏の夜、部屋の電気を消して寝ようとした時に「ぷーーん」と音が聞こえてきたとき、私たちは「はっと」次のような選択肢を考えます。

・電気を付けて蚊を手で叩く
・蚊取り線香を付ける
・布団をかぶってやりすごす

このときの『夏の夜、部屋の電気を消して寝ようとした時に「ぷーーん」と音が聞こえてきた』がコンテキストです。私たちの行動を誘発する刺激です。

コンテキスト生成技術

コンテキスト生成技術とは私が勝手な造語で、簡単にいえば、秩序の方向性を導く刺激を作る技術です。特定の状況を示したり、問題の解き方の方向性を暗示する技術です。

カンファレンスで素晴らしいキーノートスピーチに出会ったとすると、その日のセッションや他の参加者との会話がいつもよりも盛り上がったり、その後の自分の身の振る舞いを考えなおす経験があるでしょう。これはキーノートスピーチが秩序の方向性を導く刺激となった例です。※2


問題解決に質の高いコンテキストは不可欠

秩序の方向性を導く刺激が大切なのは、困難な問題の解決に不可欠だからです。

問題は解決に当たってコンテキスト依存性をもちます。問題もコンテキストによって簡単になったり難しくなったりするということです。私たちの能力を存分に発揮させたり、反対に認知を歪ませて解けなくしてしまったりします。

たとえば、先ほどの寝るときの蚊も羽音に気づかなかったら刺されてしまって、かゆみで悩まされることになります。羽音を別の音に勘違いしてしまっても刺されてしまいます。

どの刺激に着目するのかによって、その後、私たちから引き出される行動は変わりますし、その刺激の質によっても変わります。ここを見誤ると問題は解決できなくなってしまいます。

そのため、より効果的に解くにはコンテキストを高い質で明らかにしたり、生成する必要があります。


身近なコンテキスト生成の活用

私たちは仕事を効果的に果たすために、自覚的にも無自覚的にもコンテキスト生成を効果的に用いています。

たとえば「家で行うリモートワークでは仕事が捗らないが、物理オフィスに出社すると仕事に集中できる」という現象をよく耳にします。物理オフィスは仕事に集中する刺激を与えているといえます。

学校でもオンラインになって、生徒が家では勉強に集中できないという嘆きのニュースを目にします。

開成高校では生徒が無言のまま手元をZoomで撮影しあって勉強に集中する工夫をしており、話題になりました。

 「自宅で1人だと遊びの誘惑もあって勉強に集中できない、という生徒もいます。そこで自宅の勉強机の上で、勉強している手元だけをZoomで映し、大人数がアプリ上で一緒に勉強しているように感じられる『Zoom自習室』という取り組みをしています。パソコン画面にみんなの手元が映っているだけで、本当の自習室のようにみんなが集中している実感が湧くので、自分も集中しなきゃと思えます」
https://www.news-postseven.com/archives/20200527_1566118.html/4

クラスメイトの手元が移ったズームのギャラリーは、勉強している雰囲気を醸し出します。これも生徒の行動を特定の方向に導き刺激となっています。


コンテキスト生成の実装

仕事のプロセスを改善するといったことや、組織開発といった言葉をよく目にするようになったと思います。

より良い組織という観点から見れば、コンテキスト生成とは、質の高いコンテキスト生成を仕事環境に取り込み、人々の行動をよりよい方向に導くことです。

人の行動に作用する組織改善は、実は今までとは異なるコンテキストの生成を通じて人々の行動の変化を促そうとしたものになります。

仕事の中で生成されているコンテキストには様々な種類がありますが、一例を紹介します。

コンテキスト生成要素
物理的かつ永続的なコンテキストを生成する要素
・物理オフィス

見ているときにコンテキストを生成する要素
・仕事場に貼られている安全ポスター(ヨシッ)

読んでいるときにコンテキストを生成する要素
・会社が表現したヴィジョン

話者が話しているときだけコンテキストを生成する要素
・社長が語る今年度の目標
・プレゼンテーション


簡単にコンテキストや生成技術を紹介してきました。プロダクトマネジメント大全中巻を置いており、そちらでより詳細に紹介する予定です。

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※1 前方推論とは、googleが参入してきたらどうしますか? のような問いかけ。後方推論とは、さまざまな企業が参入しているにも関わらず、御社が競合に勝てるのはどのような理由からですか? といった問いかけ。

※2 素晴らしいキーノートスピーチは多くの参加者を刺激し、秩序の方向性が導かれた組織化が発生する。企業のリーダーシップの役目はこれを高い質で実現することになる。

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