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ファシリテーションポルノと、ファシリテーターの北極星

ファシリテーター Advent Calendar 2018の24日目です。
(写真出典: https://www.flickr.com/photos/11016596@N08/4567287795/ )

この文章では次の状況を扱います。
・ファシリテーターは困った状況で呼ばれることがあります。
・呼ばれるという関わり方で、困った状況を打破するは難しいです。
・ファシリテーターは感動ポルノ的対応*に走る誘惑に駆られます。
・一方で、難しさの中で立ち向かうこともできます。

*感動ポルノ 感動や楽しさが煽りたてられ、エンターテインメントとして誰かの満足のために消費されること

困った状況と、難しい問題解決

ファシリテーターが呼ばれる前に何が起きているかを考えてみます。組織では困った状況が起きたとき、解決しようとする働きかけが起きます。

これを本文章では問題解決といいましょう。
問題解決では4つの疑問が浮かびます。

・問題定義
 言葉として出てくる例「何が問題なんだろう?」

・解決された状態
 例「どうなったら解決された状況といえるだろう?」

・解決策
 例「何をしたら解決できるだろう?」

・解決の確認
 例「どうしたら問題が解決できたと確信をもてるだろう?」

問題解決は難しいです。疑問は浮かびますが答えることが難しいですし、適切に答えられたと確信をもつのはもっと難しいです。この難しい問題解決が新たな問題を生んでいきます。

難しい、問題の定義

そもそも何が問題なのかを見定めるのは難しいことです。

個人の例「なんだかだるい。風邪だろうか。食べたものが悪かったのだろうか。運動不足だろうか。睡眠不足かもしれない。全部当てはまりそうだ」

組織においても問題がハッキリしていることは稀です。

組織の例「業績が悪い。マーケティングがうまくいかなかった。他社の製品がヒットしてしまった。開発のスピージが遅いのもあるだろう。ギスギスしていてうまく協力できていない。問題だらけだ」

この難しい問題の状況下であることを示すシグナルは「問題だらけという認識」があると思います。

ハッキリしない問題は合意が難しい

問題の見立てはいくらでもできます。ハッキリしない状況では解釈の幅も広くなります。加えて今までの経験や立場により、見解が大きく異なってきます。

その立場の人にとって気がかりなことを問題にあげがちですし、自分がよく知る解決策でうまく解ける問題をあげがちです。

出世コース、評価制度、抱えている仕事の量といった様々な要因によって態度や関わり方が変わります。

何が問題なのか、関係者間で合意することも難しくなります。目指す解決された状態や、解決策の合意も難しくなります。ようやく合意したと思っても不安は拭えませんし、行動が消極的であることもあります。

シグナルは「繰り返される長い会議と、微々たる成果物」でしょうか。

ハッキリしない問題は人間関係をギクシャクさせる

「解決策の合意が難しいけれど、どうにかしたい。けれどもアイツのプランに乗っかるのはイヤだ。」

そんな誰の解決策を実行するのかといった綱引きがはじまることがあります。身に見えない水面下での思惑が衝突します。

一方で、解決策の実施には両者の協力が不可欠な場合、させられる側は消極的な対応をすることで解決策の実施を簡単にくじけさせられます。能動的な関わらないだけで頓挫させられるので、意図的な妨害には見えません。解決策の実施には多大な能動的な関わりが必要である一方、失敗させるには無関心という態度で十分です。

周囲の関係者はネガティブな雰囲気を感じ取ったりするのですが、好転させるにはどうしたらいいのか分からないことが多く、話題として取り上げるのを避ける聖域(腫れ物扱い)になりやすくなります。結果として消極的な関わりになってしまいます。

ハッキリしない問題は、ハッキリしない衝突を生み、関わりづらい聖域が作られやすくなります。

シグナルは「雰囲気がギクシャクしたりする話題や、ある人とある人の同席するMTGでの不穏な空気」があると思います。

ハッキリしない問題は誰も解決できないまま数ヶ月、数年続くこともある

問題がハッキリしている場合、大抵は素早く解決策が打たれ、どんどん解決されていきます。

困った状況が組織の隅々まで広く知れ渡ったり、あるいは数ヶ月、数年と続いている状況というのは、解決が難しい問題が原因である場合が多いです。

解決ができずに何年もたってしまい、心のなかに当たり前としてこびりついてしまう場合もあります。飲み会であげられる会社の愚痴です。誰も責めたくないのに、誰かを責めずにいられません。

困り果てた人事の方や役職者がファシリテーターに依頼する

このような「ハッキリしない問題」「微々たる成果の長い会議」「不穏な人間関係」「消極的な関係者」に対して、人事の方や役職者は一つの解決策としてファシリテーションに目を向けます。ファシリテーションの効用が上記に効きそうだからです。

ファシリテーターが場を作り、対話を促し、プロセスで変えていく

ファシリテーターが関わり、ファシリテートしていく中で「ハッキリしない問題」「微々たる成果の長い会議」「不穏な人間関係」「消極的な関係者」といった状況は「場作り」「対話」「プロセス」等によって変化が起きていきます。

「ハッキリしない問題」は
「ハッキリした問題」へ

「微々たる成果の長い会議」は
「アイデアで埋め尽くされたホワイトボード」へ

「不穏な人間関係」は
「ほがらかな人間関係」へ

「消極的な関係者」は
「能動的な関係者」へ

さて、ファシリテーターによるイベントは目立ちます。社内から注目を集め、評価する立場の視線もあります。人事の方や、役職者の方の面子もあります。いろいろな方の「戸惑いはあるけれども、うまくいってほしい」という善意がファシリテーションのイベントを回していきます。

この注目の集まる善意はお祭りのようにエネルギーが駆け巡っていきます。
ギスギスした関係だった人同士が対話していくのを見ると感動的な様です。

駆り立てられる感動ポルノ、横たわるのは会社の未来*

この感動的な様が、人事や役職者、ファシリテーター自身が中毒に陥る感動ポルノになってしまうこともあります。ファシリテーションが効果的な場面がある一方で、思いきりマイナスに働くこともあります。

「ハッキリしない問題」は
「的確か分からないけれども関係者がひとまずほっとするハッキリした問題」

「微々たる成果の長い会議」は
「アイデアで埋め尽くされたホワイトボードにするための時間のかかるイベント」

「不穏な人間関係」は
「巧みに取り繕ったほがらかな人間関係」

「消極的な関係者」は
「ファシリテーターがいる前では能動的な関係者」

茶番かもしれません。しかし参加者はそれと感じないように巧みに役割をこなしていきます。そうして会社の未来は善意で削り取られていくことになります。問題が分かっていないからです。

*タクティクスオウガ 第三章 “駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚”より

呼ばれるファシリテーターは、はじめから負け戦

”問題解決を試みる者は、問題に巻き込まれ、自ら問題を生み出していく”

呼ばれるファシリテーションで大成功しやすいのは、ファシリテーターに依頼する人が下記4項目をハッキリ理解していて、ファシリテーションで解決できる問題であることです。

・問題定義
 言葉として出てくる例「何が問題なんだろう?」

・解決された状態
 例「何になったら解決された状況といえるだろう?」

・解決策
 例「何をしたら解決できるだろう?」

・解決の確認
 例「どうしたら問題が解決できたと確信をもてるだろう?」

ファシリテーションで解決できるかどうかは、ファシリテーターに依頼する人の、問題をハッキリと識別する力に依存している部分があります。人事では社内の不穏な人間関係や相談事が集まりやすいので、ファシリテーターの専門領域が助け船に見えることがあります。

ところが見てきたように、不穏な人間関係は、そもそも問題解決がうまくいかないことの結果おきたことでもあります。人事の方が、適切に状況を把握できるかというと難しいでしょう。

真の問題によっては始めから負け戦になります。

20年で市場規模が半分になるほど右肩下がりの業界にある会社でヒット商品を作る、少子化による児童向け製品の売り上げ減をなんとかする、副作用の無い癌の治方法を完成させる…そんな社内でコントロールすることが難しい問題です。

ファシリテーションだけで解決できるかというと無理です。

ファシリテーターの北極星

呼ばれるファシリテーターは効果的な関わった結果、下記の予見ができるかが誠実な関わり方の指標になるでしょうか。

関わることで…
・売上が上がる見立てがある
・売上になる業務時間を短縮できる見立てがある
・コストを下げられる見立てがある

これ以外の達成しても良いこともあると思いますが、感動ポルノに陥っていないかのふりかえりは不可欠と思います。

今回、関係しているけれど書けなかったこと

・従業員の業務のコントロール能力の評価
・「出資者満足、従業員満足、顧客満足」と「短期と長期」のマトリックスにおいて、どのような状況ならばファシリテーションが効果的なアプローチとなるか
・業務の状態3種 (追われている状態、学べる状態、自立をはじめられる状態)
・右肩上がり、右肩下がり、業界の趨勢の影響
・市場の健康
・財務三表から始めるファシリテーション
・ファシリテーターが陥りがちな虚栄指標
・だれも消防車を呼んでいないのであるシンドローム
・オフィスファシリティ
・プロジェクトファシリテーション
・未来会議など非日常大会議系と、日常会議系
・総務のコストパラダイムと投資の調整
・製品の良さと価格
・誤解された見える化(可視化じゃないよ、みえる化だよ)

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