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スクラムのプロダクトオーナーという語が強すぎる問題

スクラムで製品開発の話をするときに悩むのが、スクラムにおけるプロダクトオーナーというロールの問題です。

プロダクトオーナーとは何か

Scrumではプロダクトオーナーというロールが設けられています。スクラムガイドでは次のように定義されています。

プロダクトオーナーは、開発チームから生み出されるプロダクトの価値の最大化に責任を持つ。

https://www.scrumguides.org/docs/scrumguide/v2017/2017-Scrum-Guide-Japanese.pdf

この定義からも分かるようにプロダクトオーナーは、言葉通りのプロダクトのオーナー(所有者)というよりも、ソフトウェア開発チームが効果的な開発活動をしていくために様々な意思決定をする人と理解します。


プロダクトオーナーという語の問題

問題は、プロダクトオーナーという言葉は強すぎて誤解を生みやすいことです。

事業や製品は「開発チームから生み出されるプロダクト」だけで構成されているわけではなく、様々な領域の人々との協力によって成り立っています。

製品開発における様々な領域の部門の例
購買部門、研究開発部門、設計開発部門(ソフトウェア開発)、製造部門、マーケティング部門、販売部門、ロジスティクス部門、経理部門、財務部門、広報部門、保守部門、顧客サポート部門


事業開発や製品開発全体から見ると、スクラムガイドで紹介されているプロダクトオーナーというロールは一部分に限られています。

「開発チームから生み出されるプロダクトの価値の最大化に責任を持つ」人が、プロダクトオーナーという名前で呼ばれる…ソフトウェア開発があたかも製品開発の中心であるかのような表現のように見えます。プロダクトオーナーという語から連想される役割と、実態には乖離があります。

そしてスクラムを精通していない他部門の人には誤解されやすくなっています。スクラムガイドに定義されている以上の期待を周辺部門から受けることによって、プロダクトオーナー自身にも大きな負荷となっているように思います。「プロダクトオーナーは名前負けしている」と思われることもあります。

※「スクラムはソフトウェア開発のフレームワークであって、製品開発のフレームワークではないのでは?」という疑問があるかも知れませんが、スクラムガイドの冒頭ではソフトウェア開発に限定していません。「限定していないからといって、製品開発までコンテキストを広げるのは適切なのか?」といわれれば、確かに無理があるコンテキストかもしれません。しかし、現実にはスクラムによってソフトウェア開発がうまくなっても売上が上がらず困っている状況が起きていたりします。この状況でも、もっとうまくやりたいのです。



スクラムが定義するプロダクトオーナーにフォーカスしても製品開発で成功しない場合がある

このような文脈があり、ビジネスで必要なこととプロダクトオーナーのコンテキストを合わせることが難しく、製品開発の成功までのギャップが深いという課題意識が私にはありました。

ここでの製品開発の成功とは「お客さんに喜ばれつつ、自社の利益も確保する」ことです。

開発チームがスクラムに慣れても製品開発が成功しないのは、ソフトウェア開発だけに解決する価値がある問題があるわけではないからです。

たとえば、いくらソフトウェア上のサービスが素晴らしくても、お客さんに知ってもらって使ってもらわなければ売上にはつながりませんし(マーケティングの問題)、値付けに失敗すれば利益がでません(プライシングの問題)。

これらはソフトウェア開発よりも経済活動上の問題です。解かなければなりませんが、コンテキストの共通認識が取りにくいため、スクラム関係のコンテキストでは個人的には扱いにくいテーマでした。

たとえばサービスの価格はいくらにするかというのは極めて重要なテーマですが、私の知っている限りではスクラム関係のイベントでは知りません。課題意識を持たれている少数の人と話すのに留まりました。

ここまでのまとめ
・製品開発の領域は広いが、プロダクトオーナーの役割は絞られている
・プロダクトオーナーの実務と、利益を出すまでのギャップが深い
・上記のコンテキストの共通認識が薄いため、テーマに挙げづらい


プロダクトの善し悪しを判断できるモデルが必要

この状況を打破するために、スクラムの個別事例の話よりも「製品が顧客の問題を解決しているのか、利益はでているのか」といった善し悪しを判断できるモデルが必要だと私は考えています。モデルがあれば、土台にして話ができるからです。

モデルとは現実をどのように観察し、何を問題とし、どのように解くかを支える理解の枠組みです。

理解しているモデルの適用や、モデルの質によって打つ手が大きく変わります。モデルは私たちがコミュニケーションするためのコンテキストを提供します。

6/26-6/27に開催されたSCRUM FEST Osaka 2020では、一歩踏み出すために『アジャイルなプロダクトマーケティングワークショップ』という善し悪しを判断するためのモデルをワークショップ形式で紹介しました。


プロダクトオーナー側の活動を、個別事例ではなく、善し悪しが判断できるモデルとして扱うことは、プロダクトマネジメントの重要領域を正面から向き合うような活動です。

なかなか大変なことですが、今後も良い製品を作り、ヒット商品を生み出すために不可欠だと思いますので挑戦していきたいと思います。


プロダクトマネジメントの情報発信

具体的には7月第2週より下記活動を予定しています。楽しんでもらえたら幸いです。

1.PdM.FMというプロダクトオーナー、プロダクトマネージャーのためのラジオを課題意識を持った仲間と配信します。
2.プロダクトオーナー、プロダクトマネージャー向けワークショップを開催します。

7/9 良いプロダクトなのに売れない悩みに効くアジャイルなプロダクトマーケティングワークショップ


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