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長いかくれんぼ - お兄ちゃんにあいたい

ある日、さっきまで庭で遊んでいたはずのお兄ちゃんがいなくなりました。

大きな声で「お兄ちゃん」と呼びましたが、返事はありませんでした。

私は大変なことになったと思いました。お母さんに知らせたところ、顔色がみるみる変わりました。

私たち家族7人は、一晩中お兄ちゃんを探し続けました。でも見つかりませんでした。

次の日も、また次の日も、私たちはお兄ちゃんを探し続けました。

道で出会う人、近所の家の人、離れたところに住んでいる人々など、出来る限り多くの人にお兄ちゃんを見なかったかと聞きました。

それでも、お兄ちゃんを見つけることが出来ませんでした。

「お兄ちゃんは今頃何をしているんだろう。どこにいるんだろう。もしこれが長いかくれんぼだったら、すぐに出てきて欲しい」

そう思いました。

お兄ちゃんは貧しい私たちのために、ある農家で働いていました。とっても働き者で、お兄ちゃんのおかげで私たちは毎日家族で食事をすることができました。

お兄ちゃんはいつも私たちに冗談を言って笑わせてくれました。

私はそんなお兄ちゃんが大好きでした。

「ああ、何やってんだろうなぁ」

そんなある日、ある人がFacebookの写真を見してくれました。

よく見ると、それはゴミ捨て場の写真でした。

次の瞬間、私の顔は真っ赤な火がついたように燃え上がり、体が震え出しました。

たくさんあるゴミの中に、男の子が横たわっていました。

その男の子は、見覚えのあるTシャツを着ていました。

すると、その写真を一緒に見ていたお母さんも、妹たちも、お父さんも大きな声で泣き始めました。

そこに写っていたのは私の大好きなお兄ちゃんでした。

私の中から、涙が吹き出してきて、何度も何度も目をこすっても、次から次へと涙が出てきて、その写真がよく見えなくなりました。

でも、私はその写真を見つめ続けました。

お兄ちゃんは、シャツがめくれ上がっていて、ズボンも少しずれ下がっていました。

よく見ると、お兄ちゃんのお腹に大きな縫い傷がありました。

「あぁ」

そして、その後にこのゴミ捨て場に。。。

私は思いっきり叫びました。何を叫んだか覚えていません。そして、思いっきり泣きました。体が爆発しそうでした。

「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」

私たち家族は、その写真の中のお兄ちゃんに向かって叫び続けました。

後でわかったことですが、お兄ちゃんは誰かに腎臓を取られていたのです。お腹の傷はそのためにできた傷だったのです。

ここでは皆が貧しいので、お金をもらうために、自分の腎臓を売る人がいます。

でも、なぜお兄ちゃんは腎臓をとられていたのだろうか。

お兄ちゃんは貧しい私たちを助けるために、自分の腎臓を売ろうと思ったんだろうか。

もしそうだとしたら、お兄ちゃんは腎臓だけとられて、お金ももらえず、捨てられてしまったんだろうか。

それとも、お兄ちゃんの気持ちに関係なく、無理矢理お兄ちゃんにそんなことをしたんだろうか。

私の心の中の深いところから、大きな炎が燃え上がりました。

「お兄ちゃんにこんなことをした人に復讐をしたい」

そんな言葉が口から出てきました。

でも、そんな言葉を言っても、私たち家族の寂しさや悲しさは消えません。

小さな部屋の中で家族で食事をしているときにお兄ちゃんがいないことに気づき、毎日涙が出てきます。

夜寝ている時も、お兄ちゃんが何度も夢に出てきます。そのお兄ちゃんは昔のようにニコニコ笑っています。

「お兄ちゃん!」

私は、思いっきり走ってお兄ちゃんのところに行こうとしますが、いつも近くに行くとお兄ちゃんは消えてしまうのです。

そして、目が覚めると、私の布団はぐっしょりと濡れているのです。

「お兄ちゃんに会いたいよー」

まさか、こんなに悲しい思いをすることになるとは思いもしなかったし、

こんなに生活が貧しくなるとは思ってもいなかったし、

この土地にやってきた私たちに、ひどい言葉を言ってくる人たちがいて傷つくことになるとは思わなかったし、

本当に、どうしたらいいかわからない。

美しいのは過去の思い出だけ。また、過去に戻りたい。

私たちは、そんなことを思いながら毎日生きています。

私たちは、家族を助けるために、近くの食材店の野菜や果物の皮を向いたり、畑に行って仕事をしたりしながら生きています。

その畑では、昔お兄ちゃんが働いていました。

「こんなに大変な思いをしながら、お兄ちゃんは私たちのために働いてくれていたんだ」

そう思ったら、また涙が流れてきました。

「お兄ちゃん。。。」

⭐︎

以上は、実話に基づいたフィクションですが、このようなことが、今、中東のレバノンで実際に起きています。

シリアからの難民がシリアの周辺に避難し、生活しているわけですが、昨今のコロナの状況も合わさり、そこでの生活は想像を絶する極限状態なのです。

国際的な人道的な支援も行われていますが、どんどん増加する避難民と拡大する貧困問題は、その深刻度を加速化させています。

この待ったなしの状況に対して、私たちは一体何ができるんだろうか。

こうした人々と共に生きる命として、何ができるんだろうか。

野中恒宏

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