翻訳会社に気づいてほしいこと(1)

英日翻訳について書きます。個人的な関心と経験上、B2Cのトピックが中心です。翻訳/ローカライズ会社で約8年、IT企業のローカライズ部門で約8年、フリーランス翻訳者として3か月目時点での意見です。

誰のために翻訳しているの?(エンドユーザーを念頭に置く)

翻訳したものを読む一般人、つまりエンドユーザー(Webサイトを見る人、SNSの利用者、プレゼンのスピーカーや視聴者、ゲームのプレーヤー、など)を満足させたいのであれば、きちんとした日本語になっていることが大切です。その日本語のレベルは、書籍・新聞やテレビ番組などで、普段目にしているのと同じものが求められます。それ以下になると「翻訳語」として、なんとなく怪しいものとして、信用度が一気に落ちます。Amazonで買おうとしている商品の説明がヘンな日本語だったら、ちょっとヤバそうだな、買うのやめようかな、と思いますよね。

一方、翻訳を発注した人(つまり翻訳にお金を払う企業やその担当者)を満足させたいのであれば、英語が透けて見えるような「翻訳語」でOKかもしれません。翻訳業界でよく言われる「何も引かない、何も足さない」というスタイルです。(文書の性格上、このスタイルが必須の分野もあります。特許、医療、法律、などです。こういった分野では、原文の英語から逸脱すると大変なことになります。)あと、法人向け(B2B)に翻訳する場合は、原文に忠実な日本語のほうがいい(よって翻訳語でも可)と言われることもあります。翻訳されたものを社内外のエンジニアが読むときなど、ヘタに意訳したものだとかえって情報の質が落ちるからです。機械翻訳で提供されている、マイクロソフト社のサポート情報がよい例です。(情報の質はわかりません)

この「翻訳語」レベルの翻訳は、多くの場合、誰かがチェックする前提で納品されています。ですので、そのまま世間に向けて公開できる品質ではありません。私も、翻訳会社/ローカライズ会社(以下、翻訳会社)に在籍していた期間の大半は、自分が関わった翻訳がそのまま世に出るなんて想像もつきませんでした。ただ、翻訳会社にいた最後の1年くらい、誰もが知っているグローバル企業の案件を担当したときに、その狭い想像力を広げるため、IT企業のローカライズ部門に転職したいと思うようになりました。それが実現して、翻訳にお金を払う立場になり、今度は翻訳会社から納品されたマニュアルやオンライン・ヘルプを世に出す役割を担いました。これがものすごく大変でした。翻訳会社が考える「高品質の日本語」が、エンドユーザーが考える「普通の日本語」よりも劣るため、そのギャップを埋めなければいけないからです。

あれ!?そうなると翻訳を発注する側も品質に満足していない、ということになります。私が見る限り、IT企業の社員が翻訳・チェックをできる時間的余裕があれば、その翻訳作業自体を翻訳会社に外注することはありません。社内で翻訳をする余裕が無いので、お金を払って外注するのです。それなのに、納品された翻訳を延々とチェックすることになったら、お金と時間のムダです。翻訳会社が、エンドユーザーが満足する日本語レベルで納品してくれたら、翻訳発注者の仕事が減り、きっと満足してくれるはずです。この意味で、私は、エンドユーザーを念頭に翻訳すべきだと思うのです。

表記規則はどれくらい重要?(もっと大切なことがある)

ここ数か月、取引のある翻訳会社との電話会議で、企業側のスタイルガイド(表記規則集みたいなもの)と実際にその企業内で作業した翻訳内の表記規則に齟齬がある、と何度か指摘がありました。というか、これが大抵、メイントピックでした。コロンは半角で後ろに半角スペースを入れるのか、コロンは全角なのか、などなど。翻訳会社にすると重要なことかもしれませんが、エンドユーザーで気にする人はほとんどいないと思います。どちらかに統一してあれば、誰も気づかないことです。このレベルのトピックはさっさと片づけて、翻訳会社にはもっとエンドユーザーが気づく部分、つまり翻訳語の解消にフォーカスしてほしいと思います。

*スタイルガイドの是非についてはこちらに書きました。