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やっぱり、授業はたのしいよね、っていう話。

こんばんは、しめじです。

四月の、年度初めの検診やらオリエンテーションのラッシュ、からの連休も終わり、いよいよ「普通に授業ばっかり」の生活が始まりました。

私がメインで担当している1年生古典も、いよいよ古典文法の入り口、動詞の活用の話を始めました。

扱う教材は、この間も少し触れた、宇治拾遺物語の「児のそら寝」。
単語を辞書で調べながら、細かい文法の話は概ねスキップして、まずは訳を確認して、今度は文法のことを交えながら本文を読み返す、という順序で読んでいます。

大溝、豹変。

という順序で進めていたので、序盤は結構負荷の小さい内容が続きました。
生徒も、なんだ、古典楽勝じゃんムードだったのですが。

とあるクラスで、動詞の文法の話スタート。
活用の種類は9種類。
聞きなれない終止形~已然形を持つ〇二段活用。
「じゃあ四段にしておけばよかったじゃん!」と突っ込み必至の下一段。
「いる」がヤ行であることが納得いかない上一段。
「動詞はuで終わる」という常識を真正面から打ちこわしに来るラ変。

慣れればなんてことのない動詞の活用も、初めて学ぶときはめちゃくちゃ難しく感じるもの。ま、なんでもそうですが。
好かれと思っての展開案でしたが、結果的には急に負荷を上げてしまうことになってしまったようでした。
(のちのち、未然形と連用形が活用一緒で見分けつかないとなったときに、訳が先に出来ていると判断するヒントになるのではないかと思ったので先に訳をおさえたのですが…。そこから、「○○の直前は△△形」みたいな共通点に気づけるように持っていこうと計画していました)

その日の日直日誌に「大溝先生がひょう変した」と書かれていたのだそう。
ごめんねみんな、私はそんなに優しい先生じゃないのだよ。

古典は、どうしても最初の学習負荷が大きい科目であるように思います。
1年生が多分一番大変で、そこを乗り切ると2年生、3年生とどんどん楽になっていくイメージです。
もちろん彼ら彼女らに楽をさせるのが私の仕事ではないので、憶えるもんは憶えてもらいますし、理解すべきもんは理解してもらいますが、少しでも苦痛にならないように、「お、読めるじゃん」という感覚を少しでも多く積み重ねられるように、展開案はこれからも吟味していきたいところです。

ね・・・ね・・・ぬ?・・・ぬる?

活用の種類や活用形、各活用形の働きなどをざっと押さえたら、表を丸暗記するより実際に文章に出てくる言葉に何度も当たってみたほうがよい(使ったほうがわかりやすい)と思うので、児のそら寝に出てくる43回の動詞を文法的に捉えなおしていきました。

最初はどんな語も「なんじゃこれは?」という感じですが、何度も出てくる動詞もあるので(実際は確か25種類くらい)、途中からは活用形だけ考えればよくなるので、見た目ほど大変な作業ではありません。

最初の四つほど、全員で合わせてやってみて、そこから先は、文法書とかクラスメイトを最大限活用して、自分達でやってごらん、と言って丸投げです。

ここからが、本当に面白い。

辞書を引いている時に、各語の下に書いてあった「ナ下二」とか「ハ四」が、動詞の活用の種類を表していたことに気づいた生徒が、大声でそれを私に尋ねてきます。
この1か月の、その生徒とのやり取りを思い出す限り、「どうだ、これで自分で考えなくても辞書引けば楽勝、しかもみんなに教えたぞ」みたいな感じだろうと想像されますが。

それに気づくのは想定内。
というか、40人もいたら一人くらい気付いてほしい。
「お、良く気付いたじゃないですか。では早速調べてごらんなさい」とその生徒の近くに行って促したら。

大問題発生。

「寝ざらむ」の「寝」の活用の種類を調べるべく、辞書で「寝る」を引いても出てこない。
「練る」は出てくるけど、「寝る」が出てこない。

それもそのはず。
「ねる」とは読まないから。

じゃあ「ね」で調べてみても、その子の辞書も、一緒に作業していた他の子の辞書も、活用形では載っていない(まあ、全部載せたらきりないですからね)

…手詰まり。

しまいには、辞書が○○とか言い出す始末。
いやいや、辞書は正しいですよ。
というわけで。

「じゃあ、まずはこの動詞、今の日本語だと何という動詞ですか」
「寝る、です」
「OK。後ろに「~ない」をつけると?」
「…ねない」
「古文だと、「~ない」の代わりに「~ず」をつけて考えることが多いです。「~ず」をつけても?」
「…ねず。一緒。ね。」
「見分け方は、中学校でやった今の文法と一緒です。~aず、なら四段活用。~iず、なら上二段活用、~eず、なら下二段活用です。これは、どれ?」
「下二段」
「ということになりますね。下一段は「蹴る」しかないですから。じゃあ次は、活用表にそって上から読んでみましょう」
「ね(未然)…ね(連用)…ぬぅ…? ぬぅ???」
「はい、終止形は寝(ぬ)です。続きは?」
「ねる」
「いやいや、よく見て」
「…!? ぬる?? ぬれ??
「はい、連体形は「ぬる」、已然形は「ぬれ」です。ということは、何で辞書を引けばいいですか?」
「ぬ! って先生、もうナ行下二ってわかったから辞書引く意味ないじゃん」
「意味がないとまでは言いませんが、古文だと辞書引くために先に終止形を自分で見つけ出す必要がある時も多いですからねー」

もう、この、終止形が「ぬ」一音だと気づいた時の顔、連体形が「ねる」じゃなくて「ぬる」だと知った時の顔が、もうたまらなく素敵でした。
目がぐりんと開くくらい驚いてくれました。
本当に素敵な表情です。そして、多分もう「寝」の活用に関する問題が出たら、きっとこの子は間違えないでしょう。

こうやって、少しずつでいいから、日本語のディテールに迫っていって欲しいな、と心から思います。まだまだ、入り口の入り口ですからね。



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