先日、問題に出した『枕草子』第三段の訳。

【お詫びと訂正】「舎人の顔がきぬ」の箇所の「きぬ」について、語の解釈を多分間違えていました。ので、問題の9を削除します。
「きぬ」は「衣」、つまり「素肌」と読むべきですね。「着ぬ」で「着飾っていない=化粧もせずにいる」と解釈しましたが、それだと「顔の」の「の」が不自然でした。
失礼しました。

こんばんは。しめじです。

先日、枕草子第三段から、助動詞の問題を出したあと、そのまま枕草子の話をしてしまったのですが、当初の予定では、一応第三段の口語訳(現代語訳)を載せようと思っていたので、今夜はその話をします。

先日出した、第三段(一部分)はこちら。

まずは、試しに自力で読んでみてください。まずはわかる言葉から。正確に意味が取れなくても、雰囲気がわかれば十分です。 

七日、雪間の若菜摘み、青やかにて、例はさしもさるもの目近からぬ所にもて、騒ぎたるこそ、をかしけれ。
白馬見んとて、里人は、車きよげにしたてて見に行く。
中の御門の閾(とじきみ)引き過ぐるほど、頭、一所にゆるぎあひ、刺櫛(さしぐし)も落ち、用意せねば折れなどして笑ふも、またをかし。
左衛門の陣のもとに、殿上人などあまた立ちて、舎人の弓ども取りて、馬ども驚かし笑ふを、僅(はつか)に見入れたれば、立蔀(たてじとみ)などの見ゆるに、主殿司(とのもりづか)、女官などの行き違ひたるこそ、をかしけれ。
いかばかりなる人、九重をならすらんなど、思ひやらるるに、内裏(うち)にも見るは、いと狭きほどにて、舎人が顔のきぬもあらはれ、誠に黒きに、白きものいきつかぬ所は、雪のむらむら消え残りたる心地して、いと見ぐるしく、馬のあがり騒ぎなどもいと恐しう見ゆれば、引き入られてよくも見えず。

では、各文毎に訳をしていきます。

七日、雪間の若菜摘み、青やかにて、例はさしもさるもの目近からぬ所にもて、騒ぎたるこそ、をかしけれ。

七日、雪の間から姿を覗かせる若菜を摘む。若菜は青々としていて、普段はそんなものをそんなに間近で見るような場所でもないので、大はしゃぎしているのが、趣深い。
(新春の菜を摘む風習が、今の私たちの「七草粥」につながっています。土佐日記などにも記述があります。ちなみに、「そんなものを間近に見るような場所でもない」というのは、おそらく貴族の邸宅だということを指しているのでしょう)

白馬見んとて、里人は、車きよげにしたてて見に行く。

白馬を見ようと言って、宮仕をしない私たちは、車を大変きれいに飾り立てて見に行く。
(里人は様々な意味がある語ですが、全体的に「宮中の人」の対義語です。ですので、その土地の人、民間の人、宮仕えをせず実家に住む人などと解釈します。また、「白馬」とは、「白馬の節会(あおうまのせちえ)」と言い、一月七日に天皇が邪気を払うという白馬を庭に引き出して開く宴のことです)

中の御門の閾(とじきみ)引き過ぐるほど、頭、一所にゆるぎあひ、刺櫛(さしぐし)も落ち、用意せねば折れなどして笑ふも、またをかし。

中門の敷居を車に乗って通り過ぎる時に、頭が、一斉に揺れあって、髪に刺してある飾櫛も落ちて、注意していないと折れてしまうなどして笑うのも、また趣がある。
(ちょっとした事で、若い女性がみんな一斉にコロコロ笑い出す光景というのは、どうやら今も昔も変わらないんですね)

左衛門の陣のもとに、殿上人などあまた立ちて、舎人の弓ども取りて、馬ども驚かし笑ふを、僅(はつか)に見入れたれば、立蔀(たてじとみ)などの見ゆるに、主殿司(とのもりづか)、女官などの行き違ひたるこそ、をかしけれ。

左衛門の陣(平安京の門の一つにある、詰所のことです)のところに、殿上人(天皇の居所である清涼殿にあがることを許された人)などがたくさん立って、舎人(召使)の弓をとって、はじいて馬たちを驚かして笑っているのを、ほんの少し見入っていると、目隠しの立板が見えて、主殿司(清掃などを担う人)や女官(主殿司に仕える人)などが行き交うのも、趣深い。

いかばかりなる人、九重をならすらんなど、思ひやらるるに、内裏(うち)にも見るは、いと狭きほどにて、舎人が顔のきぬもあらはれ、誠に黒きに、白きものいきつかぬ所は、雪のむらむら消え残りたる心地して、いと見ぐるしく、馬のあがり騒ぎなどもいと恐しう見ゆれば、引き入られてよくも見えず。

一体どのような人が、宮中で慣れ親しんでいるのだろうかとあれこれ思いを巡らせていると、宮中でも見えるのは大変狭い範囲で、召使の顔の素肌もあらわれ、本当に黒くて白い化粧が行き渡っていないところが、雪がまだらに溶け残っているように思えて、大変見苦しく、馬が跳ね上がっているなども大変恐ろしく見えるので、つい車の中に引っこんでしまってよくは見えない。
(「九重(きゅうちょう)」は宮中の別称。「ならす」は漢字で「馴らす」で「親しむ、馴れ馴れしくする」などと訳します)

こんな感じでしょうか。
貴族のお正月、ちょっとした非日常や浮ついた感じがとても鮮やかに描かれていますね。

では、今夜はこの辺で。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?