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古典の文法の話6−2 実践問題①の解答。

↑古典文法のお話をまとめたマガジンです。
今日の内容が、「あれ? そうだったっけ?」という時は遡ってみてください。

こんばんは、しめじです。

昨夜は、『枕草子』の第三段から、助動詞の問題を出しました。

今夜は、その解説をしていきます。
何番まで書くかは特に決めていません。もちろんできれば最後まで行きたいですが、字数があまりにも増えたら途中で分けるかもしれないです。では、早速。

七日、雪間の若菜摘み、青やかにて、例はさしもさるもの目近から所にもて、騒ぎたるこそ、をかしけれ。
白馬見とて、里人は、車きよげにしたてて見に行く。
中の御門の閾(とじきみ)引き過ぐるほど、頭、一所にゆるぎあひ、刺櫛(さしぐし)も落ち、用意せば折れなどして笑ふも、またをかし。
左衛門の陣のもとに、殿上人などあまた立ちて、舎人の弓ども取りて、馬ども驚かし笑ふを、僅(はつか)に見入れたれば、立蔀(たてじとみ)などの見ゆるに、主殿司(とのもりづか)、女官などの行き違ひたるこそ、をかしけれ。
いかばかりなる人、九重をならすらんなど、思ひやらるるに、内裏(うち)にも見るは、いと狭きほどにて、舎人が顔のきぬもあらはれ、誠に黒きに、白きものいきつか所は、雪のむらむら消え残りたる心地して、いと見ぐるしく、馬のあがり騒ぎなどもいと恐しう見ゆれば、引き入られてよくも見え

1「ぬ」 打消の助動詞「ず」連体形
まず、後ろが「所」という名詞なので、連体形だということがわかります。
連体形が「ぬ」の形をとる助動詞は打消しかありませんので(完了の「ぬ」の連体形は「ぬる」でしたよね)、答えが一つに絞れます。
一応前も確認しておくと、前にあるのが「近し」という形容詞の未然形ですから、接続も大丈夫ですね。

2「たる」 存続の助動詞「たり」連体形
前を見てみると、「騒ぎ」とあります。「騒ぐ」はガ行四段活用ですから、その連用形に接続しているということがわかります。
なおかつ、形が「たる」ですので、連体形だということもわかりますから、それらの条件から、助動詞「たり」の連体形だ、というところまではわかります。

用法についてですが、「り」と「たり」は、「完了で訳さないと不自然になる時以外は存続」と思っておいてください。言い換えれば、「先に存続で訳をしてみて、それで自然に訳ができたら存続」ということです。
と考えてみると、「騒いでいるのが、趣がある」となるので、存続で訳できますから、存続だと判断します。

ちなみに、「こそ」ですが、これは係助詞と言います。助詞の一種です。「今日こそ勉強するぞ」の「こそ」と同じで、強調する働きがあります。
ただし、今の日本語と一点違うところがあって、

「こそ」が出てきたら、その文末(あるいは文末に相当する、意味が切れる部分)が已然形になります。

実際に、この文も、「をかし。」ではなく「をかしけれ。」となっていますね。
こういった、特定の係助詞があると文末の活用形が変わるというルールを、「係結びの法則」と言います。
「こそ」以外だと、「ぞ、なむ、や、か」の四つがあります。この四つは、文末が連体形に変わります。

3「ん」 意志の助動詞「む」終止形
直後の文も見てみると、「里人は、車をきれいに飾って見にいく」とありますので、文脈から意志だろうな、と判断できると早いですね。
また、「と」の前はそこでいったん文が終わっていると考えられますから、連体形ではありません(=婉曲ではない)。終止形になります。
あとは、他人の動作ではないので推量ではないですし、勧誘と考えてもいいですが、わざわざ人を誘ったという内容をかなり補わないといけないですから、解釈として無理が生じます。それなら意志で十分だろうという話です。
適当も、「馬を見るのがよい」となって、「馬を見よう」と比べた時に明らかに強引ですね。

4「ね」 打消の助動詞「ず」已然形
直前が「用意せ」となっています。動詞「す」は、他の言葉と合わさって一動詞を作るというのは以前お話しした通りです。
したがって、これは「用意す」という動詞だと判断できます。

サ変の動詞が「せ」の形をとるのは未然形の時。ということは、この助動詞は未然形接続の助動詞です。
完了の助動詞「ぬ」の未然形、連用形と一瞬悩むかもしれませんが、完了の「ぬ」は連用形接続ですからね。接続が違います。

未然形接続で「ね」の形を取るものは…と考えて活用表を思い出せば答えにたどり着くはず。

5「たれ」 存続の助動詞「たり」已然形
これはもうそろそろ形で判断できると思います。
ちなみに、「ば」は、
・未然形+ば
・已然形+ば

のどちらかの接続になります。その接続によって訳し方が全く異なるので、「ば」の前の活用形は見落とさないようにしましょう。
(訳の仕方はまた今度)

6「たる」 存続の助動詞「たり」連体形
これも形で判断可能ですね。
ついでに、この直後も「こそ、おかしけれ」と係結びが使われていることもチェックしておいてください。

7「なる」 断定の助動詞「なり」連体形
後ろに「人」とあるので、連体形だとわかります。
また、直前に「ばかり」という、名詞でも動詞でもなんでもないことが来ていて、「え? そんな接続あったっけ?」となるかもしれませんが、

あるんです。

「なり」の説明ページに書いたのですが、断定の「なり」の接続は、体言・連体形意外に、「体言のような働きをする言葉」もあります。

「いかばかり」は、「どれほど」という意味になりますから、「どれほどである人」と訳すことができます。したがって、この接続は成立しているわけです。
まあ、形でわかるじゃんと思うかもしれませんが、実はもう一つ、全く違う意味を持つ助動詞「なり」が存在しているので、この接続の知識はちゃんと覚えておいてください。「体言のような働きをする言葉」にも接続します!

8「るる」 自発の助動詞「る」連体形
これも形で判断できてしまいます。そもそも「るる」の形は助動詞「る」だけです。
で、問題は用法。
助動詞「る」は未然形接続なので、直前の「思いやら」は未然形。終止形は「思いやる」になります。

何かに対して「思いをはせる、思い及ばせる」なので、これは心の動きを表す言葉です。
「る」の説明の時に書きましたが、「心の動きを表す言葉」のあとの「る、らる」は、まず自発から考えてみてください。
そして、訳をしてみて自然ならそのまま自発でOKです。

ちなみに、古典での「思いやる」は、今の私たちの「親切にする、配慮する」とは意味が若干ことなります。「やる(遣る)」は、「遠くにいかせる」という意味の動詞なので(「派遣」の「遣」ですからね)、「思いやる」で「思いはせる」みたいな意味になります。

10「ぬ」 打消の助動詞「ず」連体形

前が「行きつか」、後が「所」なので、
未然形に接続する助動詞で、連体形が「ぬ」のもの、ということになります。
あとは活用表を思い出しましょう。

11「たる」 存続の助動詞「たり」連体形
これも形で判断できますね。

12「れ」 自発の助動詞「る」連用形
まず、直後が「て」なので、連用形だと判断します。
「れ」一字で連用形になる助動詞は「る」ですね。

さて、用法はどれなのか考えていきましょう。
(結構この用法の判別に苦手意識を持っている人が多いのですが、こつこつやって慣れていけば全然苦じゃなくなりますよ)
で、文脈を考えていきます。
今の日本語とほとんど変わらない部分だけでも抜き出すと、

馬、騒ぎ、恐ろしく、見え、引っ込んで(昨日の注釈参照)、よく見えない。

以上をつなげれば、「馬の騒いでいるのが恐ろしく見えて、引っ込んでよく見えない」となります。
当然「引っ込んだ」のは、馬が騒いでいるのが怖く見えた「自分」ですので、自分の動作ですから尊敬ではありません。打消もセットではないので、可能ではありません。引っ込んだのは自分ですから、受身でもありません。「引っ込まれた」だと馬が引っ込んだことになりますからね。

となると残るはあと一つ、「自発」です。
心の動きではないですから、消去法的にたどり着いてみましたが、「思わず引っ込んでしまった」と訳せば文の内容とも合致します。

13「ず」 打消の助動詞「ず」終止形
文の最後ですから終止形。もうこれしかないですね。

以上、いかがだったでしょうか。
問題数をこなして、解説を読んでいくことで、自分が何を覚え切れていないのかがだんだんはっきりしてきます。
活用表が頭に入っていないのか、接続を覚えていないのか、どんな用法があるのか覚えれきていないのか。
そうやって「もうできること」と「まだできないこと」をしっかり自分の中で仕分けしながら、勉強していきましょう。

この考え方は、仕事でも、スポーツでも、これから先の学校の勉強以外の勉強でも絶対必要になります。一番大切なのは、自分を知ることです。

では、今夜はこの辺で。

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