令和いらねえ吊り輪ホットケーキ/2020年4月22日

 2020年4月22日、本秀康さんの3冊目となる画集「MOTO HIDEYASU
MUSIC BOOK 〜 本秀康 音楽イラストレーション集」がPヴァインから発売になった。

 前作からは12年ぶり。これまで本さんが出してきた画集のなかではいちばんサイズも大きく、作品のテーマも音楽に絞られている。もちろん、「レコスケくん」をはじめ、もともと本さんの仕事の多くは音楽ファンに知られたものだけど、今回は「12年」というこのスパンで本さんに生まれたあたらしい意欲と関係が大きく作用している。

 つまり、この12年で本さんが興味を持ち、自分の身近にいるインディー・アーティストたちとのつながりを持ち、やがて自身で7インチ専門レーベル「雷音レコード」を立ち上げる過程が、この画集にはある。それはそのまま、ぼくのライターとしてのこの10数年の興味や仕事とも重なっているのだ。

 本さんから編集を担当してほしいと正式に依頼を受けたのが去年の12月。画集の編集は初めてだったけど、大好きな本さんの仕事なので光栄に感じて引き受けた。本のデザインも岡田崇さんにやってもらえることになり、心強い布陣になった。

 じっさい、編集といっても、この場合は本さんにやりたいヴィジョンがあるので、ぼくの仕事は交通整理と若干の肉付けみたいなもの。誌面の構成という点では、岡田さんのデザインにまかせてほとんど問題がないので、すごく恵まれていたと思う。

 実作業は今年に入ってからで、4月頭に校了。校了前のドタバタがつきもののぼくとしては、めったにないスムースさだった。

 誌面に対談を掲載することになり、本さんの要望で、カネコアヤノ、前野健太、髙城晶平(cero)の3人が決まった。取材は3月の後半にそれぞれ行った。カネコさんと本さんとの対談が、結果的にはぼくにとって現時点では最後の対面取材になった。

 色校正が出た4月初旬、Pヴァインに本さん、岡田さん、Pヴァインの井上さん、ぼくの4人で集まった。それがこの本を作った4人が顔を合わせた最後の日(あくまで現時点で)。前にも書いたと思うけど、「この本がお店に並ぶのを見ることはできないだろうな」という話がそのとき出た。その時点ではもうだれもそれをジョークとは感じてなかった。

 考えてみるとすべてがぎりぎりで、状況に飲み込まれてしまう時点で逃げ切れたとも言える。対談も、入稿も、あとひと月、いや半月でも遅い進行だったらアウトだった。

 前野くんと本さんの対談終了後、なぜかトンカツを食べようということになり、その道中でふたりが雑談しているあいだにとても重要なエピソードが出てきて、そのくだりはトンカツ後に立ち話を録音してもらい、対談に加えることができた。そういうことも含めて、この本についてのぼくらの悪運は強いほうだった。

 現状では通販対応しているレコード・CDショップや書店での販売に限られている。店頭でぱらぱらとめくってもらって吟味してほしかったという気持ちはある。とはいえ、ぼくらの強運がなんとかここでもうまく機能して、この本を広く遠く飛ばしてくれないかと願う。

 奇しくも、4月22日は、カクバリズムから藤井洋平「I wanna be your star」とShohei Takagi Parallela Botanica「ミッドナイト・ランデブー」の7インチ・シングルが発売された日でもあった。本さんの画集にも何度か登場するポニーのヒサミツのサード・アルバム『Pのミューザック』も同日発売。

 ぼくが信頼している4人のリリースがおなじ日に重なるなんてね。ちょっとした記念日だった。ぐうぜんだけど、ひさびさに友人とじかに話す機会があって、それもうれしかった。何気ない会話が、どんなビールよりもうまく感じた。

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