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【琉球戦のリベンジ】第8節 レノファ山口【レビュー】

中3日の連戦、これはやっぱりキツいものだ。3連戦でも疲弊していくのに、8月から始まる5連戦はどうなっていくのか…蓄積疲労による怪我の心配も考えれば、ターンオーバーの必要性は今後さらに増してくる。

琉球戦以来の平日開催となったアウェイ山口戦。沖縄では先制しながら集中を欠いた一瞬を突かれて失点、最後は息切れして勝ち越すことは出来なかった。今節も大幅にスタメンを入れ替えており、果たして今節は勝ち切ることができるのか、という一戦になる。

スタメン

長崎は前節からスタメンを6人変更。玉田、名倉、米田、徳永は3試合ぶりの先発となった。ベンチに目を向けると負傷明けの高木和、ここまで7試合フル出場していた秋野、ドリブルが武器のルーキー氣田、そして長崎U-18から昇格した選手として初めてリーグ戦のメンバー入りを果たした江川が名を連ねた。

一方の山口は前節からスタメンを3人変更して吉濱、佐藤、橋本が先発入りした。山口はとにかく若い選手が多く、初先発となった橋本は慶應義塾大学の現役3年生で20歳、梅木は福岡大学の現役4年生で21歳、河野に至っては山口ユース所属の16歳。それ以外にも20歳前後の選手が多くフレッシュな顔ぶれ。

7節終了時点で山口は20位。得点は取れているが失点も多く、攻守のバランスを模索中。霜田監督の理想はボールを握るスタイルだが、現状はボール支配率が低くハイプレスからのショートカウンターを主体としており、ボールを奪ったら手数をかけない早い攻撃が特徴。守備面では被カウンター、引いたゾーンディフェンス、セットプレーを苦手としている。

なぜ悪いボールの失い方を連発したか?

前半の立ち上がり、長崎は敵陣に攻め込み山口を圧倒する。前半4分に玉田のコーナーキックを徳永がヘディングで合わせて先制に成功、山口はセットプレー守備の脆さを早くも露呈する。山口は名倉を捕まえられず、前半8分までに4度の決定機を迎えるが何とか最少失点で切り抜ける。

15分以降は試合が落ち着き、互いにボールを握り合う時間が続く。今シーズン初めて秋野がピッチ上に立っていない長崎、秋野の役割は加藤が担うことになる。ボール保持時は1列下がって3バック化して山口2トップのプレスを回避していく。

4-2-3-1を3バックに可変する時は3-4-2-1に変化するのがこれまでの定番パターンだが、玉田が先発する時は少し様子が違う。琉球戦でもそうだったが玉田のポジションはかなり流動的で、ボールを引き出しに下がる事もあれば左右に流れる事もある。象徴的だったのは35分過ぎのシーンで、玉田が左の大外に立つことで数的優位を作っているが米田がボールを持ち運ぶスペース、澤田がフリーランして抜け出すスペースに蓋をしているという見方もできる。さらにプレスの圧が強い山口相手に3バック+1ボランチのビルドアップではボールの循環が悪くなり、サイドチェンジに手間取っている間に山口のブロックがスライドで対応できる時間を与えてしまう。澤田が裏に抜け出せないことで深さを作れず、米田と毎熊がタッチライン際に立っていても横幅を有効に使えず、山口の守備陣形がズレないため名倉が活きづらい展開になった。

前半36分、何度が攻撃を作り直した長崎だがビルドアップの出口を見つけることが出来ず、結局毎熊の縦パスをカットされて山口のショートカウンターを喰らい、吉濱に決定機を作られる。前半41分にも名倉へのパスをカットした高井がそのまま攻め上がり、再び決定機を迎えるが徳重のビッグセーブで事なきを得る。奪われ方が悪くてピンチを招いた、といえばそれまでだが、そもそもなぜ悪い奪われ方が続いたのかといえば選手の立ち位置が悪くパスの循環が淀んだためと言えるかもしれない。試合を通してサイドチェンジのパスをほとんど出せなかった事も攻撃を難しくした。

――中3日の連戦が続くが、予想以上にキツいという感じか。
キツいですね(苦笑)。特に湿度ですね。いま、災害が起きているぐらい雨が降っている中で、急に雨が止んだあとの湿度と、まだまだスリッピーな状況で重馬場で試合をさせられていたのは本当に体にこたえるなという感じです。
(手倉森監督)

この日の玉田はボールが足元につかない、足腰の踏ん張りが効かないというシーンが散見された。気温28度、湿度84%という気候、雨を含んで滑りやすいピッチコンディションの影響は大きかったはず。下がってボールを引き出してもビルドアップを前進させることはできず、ボールを持った時には消極的な選択が多かった。それでもコーナーキックで先制点のアシストを記録し、守備でもボールホルダーへのプレスで相手を牽制した。玉田の武器をどこに見出し、チームとしてどう組み込んでいくのか、という課題をクリアできれば来たるべき5連戦6回という超々過密日程をより有利に戦うことができる。少なくとも去年同様の完全フリーマン的な使い方は得策ではないと、琉球戦・山口戦を見て思った。

高宇洋をどうするの問題

早々と先制に成功した長崎は、サイドハーフが高い位置をとってプレスに行く場面もあったが基本的にはブロックを組んで中央を固めることを優先し、隙あらばショートカウンターでトドメを刺す狙いに移行する。夏の平日のアウェイ、ただでさえコンディションが厳しい上に前半はほとんど無風だったようで、体力を無駄に使わないという選択は必然だったかもしれない。

山口も長崎同様、ボール保持時はボランチの1人が下がって3バックに可変する。サイドハーフは内側に絞り、サイドバックは極端に上がってほぼウィング化、2トップの1人はサイドに流れたり縦関係になったり、3-1-4-2のようなシステムになる。山口の中でも特にパス精度に秀でた高が中心となり、ボールを前進していく。基本的に左サイドでボールを前進させる山口、高井やイウリはボールを持てば守備を打開する能力があり何度かチャンスを作ったが、前半はカイオセザールやDFにブロックされることの方が多かった。

京都戦では庄司をケアしていた長崎だが、山口戦の高はかなり自由にプレーさせてしまった。本来であれば2トップのどちらかが目を光らせる、名倉サイドはプレスの意識を持たせるなど対策はとれそうなものだが、月曜の戦術練習が雨で実施できなかった影響もあったかもしれない。

長崎は前半の終盤に3度の決定機を招いたが、山口のシュートミスや徳重のビッグセーブに助けられ、なんとか1点のリードを保ったままハーフタイムを迎えた。

成就しないショートカウンター

後半に入っても大局は変わらず、ブロックを組んで中を固めながらカウンターを狙う長崎と、高を中心にボールを握ってイウリ・高井と両サイドバックでこじ開けたい山口という流れになる。何本かシュートを打たれるがほとんどは中を固めたディフェンスがブロックし、攻め込まれてはいるが決定機は作らせない守備を続けた。

山口は若い河野や梅木を投入してさらに圧力を強める。前線のプレスが掛からなくなった長崎は秋野を投入して3ボランチの4-1-2-3(守備時は4-1-4-1)にシステム変更、中盤を厚くする対策を取る。その直後、米田のやや不用意なバックパスを狙っていたイウリが二見にアフターチャージ、この日2枚目のイエローカードでイウリは退場になる。

前半8分までに4本のシュートを放った長崎だが、それから81分までの73分間、なんとシュートは0本。もちろん厳しいコンディションの中、先制点をとっているのだから失点しないことが第一優先にはなるが、あまりにもシュートを打てなさすぎである。

長崎は山口戦のほとんどの時間でリトリート→ショートカウンターを狙っていた。実際、手元の集計ではショートカウンターのチャンスが7回あったが、結局シュートを打てた攻撃は1度もなかった。状況を整理してみればラストパスが通らない場面が多く、あと一本のパスさえ通れば決定機という場面でのミスがあまりにも多すぎた。厳しいコンディション、滑りやすい芝の影響もあったはずだが、もしこのショートカウンターの1本でも決まっていれば試合はもっと楽に進められたはずである。

対する山口はショートカウンターから6本のシュートを放っている。山口の狙いは単純明快で、ボールを奪ったら上がってる長崎のサイドバック裏を突くことを徹底していた。長崎がここまで上げた13得点のうち、カウンターから決めたのは北九州戦のルアンのみで、あれも自陣のクリアボールを繋いだロングカウンターだった事を考えればショートカウンターでの得点はいまだにないと言える。すべての局面で柔軟に対応できるからこそ今の長崎は強さがあるわけで、ショートカウンターをチームとして落とし込めれば長崎の強さは盤石に一歩近づくかもしれない。

試合をやっていて感じたのは、自分たちのミスからの奪われ方が悪くて、ピンチを招くシーンを作ってしまったので、そこで流れを相手に渡してしまったのかなと思いました。
(米田隼也)

何が失点の原因だったか

ショートカウンターで止めを刺せないでいると、山口から手痛い反撃を受ける。77分、攻め込んだ長崎は密集状態から大竹がエリア内で中央突破を図りボールを奪われ、クリアボールを1トップ河野が収めたところがカウンターの起点になる。

防げない失点ではなかった。梅木からボールを引き受けた高に富樫がもっと厳しく対応していれば、カイオが後2歩左に立って河野へのパスコースを消していれば、河野が高に戻したパスに二見が喰いついてマークを外さなければ…失点を防げるタイミングはあったはず。

しかし何より改善しないといけないのは、やっぱりボールの失い方。数的優位でリードしてる終盤、追加点を奪えばトドメになるがシュートを打って攻撃をやりきらなければカウンターを喰らうリスクは高まる。果たして77分の大竹の場面、8人が密集しているペナルティエリア内を中央突破して得点できる勝算はどれくらいあっただろうか。大竹の無謀な挑戦はあえなく失敗に終わり、失点の呼び水になってしまった。実は京都戦の75分にもほとんど同じようなシーンがあり、中央突破を止められた長崎は荒木にカウンターを喰らいかけている。その時は毎熊がファールで止めてくれて事なきを得たが、今回は失点に繋がってしまった。

自分のボールロストでカウンターを喰らえば、マズい思って全力でプレスバックする選手が多い。まして途中出場で体力的に余裕のある大竹なら、たとえエリア内で転倒していたとしてもその後全力でプレスバックするべきだったし、少なくとも誰よりも緩やかにジョグして帰ってきてる場合ではなかった。攻撃には大きな力を発揮することを証明し続けている大竹だけに、非常に勿体なさを感じるシーンだった。

数的不利の山口にまさかの同点弾を許した長崎だが、気落ちしている感じではなかった。手倉森監督はすぐさま氣田、亀川を投入し左サイドを一気に活性化。失点から3分後の81分、コーナーキックのこぼれ球を米田が拾って難しいシュートをねじ込む。長崎にとって73分ぶりのシュートは貴重な勝ち越し弾になった。

山口も最後は最終ラインの数的同数を許容して長崎を押し込む。亀川が何度か裏を取られてやられかけるが、最後はディフェンス陣が意地でシャットダウン。ヘニキのパワープレーも凌いで試合終了、敵地で何とか勝点3を掴みとった。

さいごに

琉球とのアウェイ戦で勝点1の悔しさが残っているメンバーが今日は多く出ていたので、勝点3が取れて良かったと思います。
(手倉森監督)

なんという勝負師・手倉森、、、試合後のインタビューを聞いて、ああ確かにと思ったが玉田、名倉、米田、徳永は、ここまで唯一引き分けに終わったアウェイ琉球戦の先発メンバー。これでまた同点だったらメンタル的にどうしてたんだ、と思わなくないけどちゃんと勝ちきるから勝負師。単に「もってる」という事かもしれないけど。

3連戦くらいではあまりメンバーを入れ替えずに、スタメン組の完成度を優先させるチームもある。しかし長崎は積極的にメンバーを入れ替え、後の5連戦にむけて早目に準備運動をしている。これがイレギュラーな2020シーズンを勝ちきるための手倉森流マネジメントなのだろう。今回は勝ちきったとはいえ課題は山積、修正点を見直して次節以降に望んでもらいたい。

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