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【マジカルさん爆誕】第30節 水戸ホーリーホック【雑感】

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マジカル ジュニオ爆誕記念に、ちゃんとレビュー書きました。無駄に長いです。

スタメン

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長崎は前節から3人変更、大宮戦で負傷交代した亀川のみならず米田もベンチ外となり江川湧清が22節福岡戦ぶりのスタメン入りとなった。秋の補強で獲得したCFエジガル ジュニオはベンチ入り、CB庄司朋乃也はメンバー外となった。

水戸は快勝した山口戦から2人変更、ンドカと平野がスタメン入りした。これまでの29試合で51得点とJ2トップの攻撃力を誇っている一方、43失点と守備が安定しない事が順位を伸ばしきれない要因となっている模様。チームの中心はここまで12得点7アシストの山口一真、同じく12得点の中山仁斗の2人。

前回対戦は8月23日の第14節、この時も両チーム合わせて5点入る派手なゲームになった。吉岡が先制するも前半の内に逆転される最悪の展開、ハーフタイムに監督から「後始末してこい」という檄を受けて奮起した畑と澤田の得点で再逆転して何とか勝点3を持ち帰った。2-2-4-2可変システムで押し込み、ダイレクトパスで局面を崩し、数的同数プレスでペースを握ったのが勝因となった。

進化した水戸のボール保持

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前回対戦時の水戸は4-4-2の並びを保持したままビルドアップしてくれたので簡単に前からハメることができたが、今回はやり方を変えてきた。ボランチの木村が1列下がって最終ラインに入り3バック化、両サイドバックが高い位置を取ってウィングバック化、長崎と同じく3-1-4-2に可変してボールの前進を試みていた。これが長崎対策だったのか、水戸が新たに取り組んでいる形なのかは分からない(水戸の直近2試合ではやってない気が…)が、立ち上がりの長崎は大いに戸惑うことになる。

長崎の2トップに対して水戸は3バックにすることで数的優位を確保、安定してボールを保持することができた。長崎のプレスが間に合わなければ高い位置を取ったウィングバック(外山・前嶋)を起点にし、中央を通せるなら平野に渡してからサイドに展開、長崎のサイドハーフ(名倉)とサイドバック(毎熊)が縦にスライドして喰いつくならセンターバック(角田)脇にロングボールを蹴って山口が収める(図)。長崎は後手後手の対応となったが水戸のやり方に慣れていき、飲水タイム後には守備の形も整っていった。

前半は長崎さんが前から来なかったというのもあるのですが、自分たちが狙っていたビルドアップができていた。
(前嶋洋太)

相手の形に対応していったものの、36分にはコーナーキックから先制点を献上する。マンマークで守っているはずが、なぜかファーサイドでドフリーになっている木村に折り返され、混戦から前嶋に押し込まれた。よくよく確認するとこの日最初のコーナーキックでも木村にはマーカーが付いておらず、水戸としては狙い通りの得点だったと言えるだろう。マンマークで守る以上、誰が誰に対応するのかというのは初歩的な事で、本来ならGK高木和やディフェンスリーダー(であろう)角田が確認するべき部分だったのではないだろうか。

サイドの起点作りを諦めて0トップ

エアポケットのような失点を喫した長崎だったがすぐさま反撃。前半40分、平野から木村へのパスを澤田が超加速でカット、そのまま持ち上がって行き止まりになったところでカイオに下げてカウンター失敗かと思いきや、カイオが平野を抜いてミドルシュートを沈めてみせた。最後の対応を含めて、平野の少し軽い対応は水戸にとって悔やまれるプレーだった。長崎にしては珍しく、ショートカウンター風の得点になった。

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手倉森監督はハーフタイムに交代を決断、富樫を下げて氣田を投入し玉田と名倉の2トップに立ち位置を変えた。ピッチ上に富樫も畑もイバルボもいない、いわゆるセンターフォワードと呼ばれる最前線の選手がいないのはかなりのレアケースで、エジガルが入るまでの25分間は0トップのような形になった。

後半のスイッチの入れ方で富樫敬真と氣田亮真を代えたときに玉田圭司を一番前に置いて、途中でゼロトップになってもいいような仕掛けの中で相手を翻ろうできるんじゃないかというプランがうまくいったなと。
(手倉森監督)

なぜ突然0トップなのか、誰か試合後に質問してくれれば良いのにそういう戦術的な話はほとんど出ない。なのでこれは個人的な憶測だが、手倉森監督はこの試合ではサイドの起点作りを見切ったのではないかと思った。

当ブログでは再三再四語っているが、今年の長崎は秋野を下げて3-1-4-2に可変してからは浮いたウィングバックを起点にする、もしくはライン間でターンして押し込むという形を基本戦術にしている。故にサイドバック、特に左サイドバックは組み立ての出口であり、攻撃の起点であり、上がった背後のスペースを相手から一番に狙われる…まさに戦術的な要所となっている。

不動の左サイドバック亀川が前節の怪我で欠場し、この日は本職センターバックの江川湧清が穴を埋める事になった。江川は上背こそないが妙に身体が強く、空中戦も競り勝てる、簡単には振り切られないスピードもあり、何より左足から繰り出されるパスがかなり上手い。一方、ボールを持つという点には課題があり、持ち出すドリブル、抜ききるドリブルは出せない。サイドとはいえボールを奪われれば失点に直結しかねないポジションであり、慣れないことはしない方が吉ではある。江川はここまで出場3試合で「ドリブル数」にカウントされたプレーが0回、つまりボールを受けたらパス以外の選択をしていないことになる。一方、亀川は1試合平均で3~4回ドリブル数を記録している。別に亀川>江川という話をしたいのではなく単にタイプが違うだけで、江川が左サイドバックに立つ場合はサイドで起点を作るという攻撃は手詰まりになる事が多くなる。

そこで手倉森監督は幅を使うことを諦めて単純にドリブルで前進することを選択したように見えた。氣田は持ち前の運ぶドリブルをいかんなく披露して攻撃を牽引したし、名倉・玉田は当然足元の技術が高いわけで簡単にはボールを奪われない。水戸のブロックは中央がものすごくタイトというよりは、サイドにも対応できるよう少し広めの陣形を敷いており、長崎の前線4人は水戸のブロック内でボールを受けて相手を押し込めた。前線は渋滞気味になったが名倉がシュートを打ち続け、67分には瀧澤のクリアミスを逃さず逆転弾をねじ込んだ。

エジガル ジュニオから漂う"本物"の風格

逆転直後、長崎はルアンとエジガルを同時投入する。ブラジル人が見たら「なぜ日本の2部リーグでこの2人が途中出場するの??」と困惑させてしまうかもしれない。

水戸戦では25分ほどの出場だったが、エジガルが自分の価値を証明するには十分だった。0トップ気味だった玉田と違いエジガルはセンターフォワードの位置、もっと言えば水戸センターバックのンドカと瀧澤の間に立つ事が多かった。ボールを引き出す時に左右に流れる事はあったが、基本的には中央で駆け引きを続けた。

エジガルという選手を簡潔に表現するなら「献身的な万能ボックスストライカー」とでも言うべきだろうか。上背はないが当たりに強く、一瞬のスピードもあり、トラップやシュートなどボールを扱う技術も高い。さらにプレスをサボらない、コースの切り方も上手い。何をとっても一流のエジガルだが、水戸戦で何より良かったのは変に左右に流れず中央で勝負する立ち位置(ポジショニング)の良さだと思った。

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エジガルが水戸のセンターバックと駆け引きをする事で何が起きたか。パスの出し手(秋野・角田)とタイミングが合えばDFラインの裏を取れてチャンスになる。ンドカと瀧澤がエジガルの裏抜けを警戒してDFラインを上げられなくなれば2列目との間(バイタルエリア)が空いて、氣田やルアン、名倉のような選手が活きる。水戸がライン間の間延びを嫌がってブロックを閉じればサイドのスペースが空いてくる。角田→江川→名倉と繋いでルアンが流し込んだ3点目はまさにこの形が出たものだった。ボールに直接関与はしていないけど、エジガルが江川と名倉とルアンにスペースを与えたと言っても過言ではなかったと思う。

センターフォワードはピッチの中で最も相手ゴールの近くに立っており、そのため最もプレッシャーを受ける事になる。試合の中でボールに絡めないと左右に流れたり、ボールを受けに降りてきたり、相手の圧力から離れるような位置取りをしてしまう選手は少なくない。エジガルも左右に流れてボールを収めることはあるが、基本的に中央で最もプレッシャーが厳しい位置で我慢することができる。エジガルが直接ボールに絡まなくても周りの選手にスペースや時間を与えており、まさに立ってるだけで効果的だった。

3−1で終わるかと思いきや、後半アディショナルタイムにはカウンターで自ら得点を決める千両役者ぶり。毎熊にパスを出した後、ンドカの視野から消える動きはまさにストライカーという感じで、少しだけ呉屋の姿が重なって見えた。長崎が長らく課題としているカウンターからの得点、これだけスムーズに決められたのは第2節北九州戦でルアンとイバルボが連携した追加点ぶりだったかも…エジガルがいれば万事上手くいくような、漂っているのは本物の風格だった。

致命傷になりかねない左サイドバック問題

結果的に快勝と呼べる点差になったが、内容は拮抗していた。相変わらず課題になったのはリードした後の盤石さ、ゲームコントロール力だった。ルアンのゴールで2点差をつけた手倉森監督は5バックに変えて逃げ切りを選択、なんと左ウィングバックに入ったのは吉岡だった。江川の左サイドバックは攻撃の出口にはなれないが守備に穴を開けないためまだ許容できても、当たりに強いとはいえない吉岡を左ウィングバックに置くのは流石に難しかった。吉岡はそもそも守備時の立ち位置もままならず、水戸にとっては明確な攻め所となった。

吉岡の左ウィングバック起用が予定通りだったのか、ぶっつけ本番だったのか、そこがかなり気になる。シーズンを通して依存度がずば抜けて高かったのは亀川と二見で、てっきり補強するかと思ったらやってきたのは右CBの庄司だった。最後尾の要である角田のフル出場が難しいことを考えれば庄司の補強はかなり心強いが、それよりも左サイドバックの手薄感は手当てしなくて良かったのだろうか?

イレギュラーな秋の補強は来季を見据える必要があり、昇格しても問題なく通用するJ1クラスの選手を連れてこないといけない難しさがある。まして戦術的要所である左サイドバックとなれば求められるレベルは相当に高く、移籍市場の中で十分な名前が挙がらなかった可能性もある。怪我で欠場している亀川が長引かないのであれば問題ないかもしれないが、復帰が遅れるのであれば難しい試合が続く事になる。左ではなかなか機能しない米田か、穴は開けないけど攻撃の起点にするには難しい江川か、ここへきて突然加藤聖がデビューするのか…勝ち続けることが求められる長崎にとって、今のところ最大の不安要素に見える。

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