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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人【24】

11番ホール  プロジェクト始動②

最後にこの会合を正式に会社に認めてもらったらどうかとオレは提案した。
議論の中身は、採用されるされないにかかわらず、会社にとっても必ずプラスに
なるだろうしオレらの勉強にもなる。これには全員賛成してくれた。


そして、相談する幹部は巽部長がいいという事になり、オレに任された。
全員満足のいく会もお開きとなり、今日は二次会もなく皆帰路についた。

店を出て俺と千夏は、田之倉と由佳ちゃんと少し後ろを離れて歩いていた。
二人を観察していると、何やら楽しげに会話している。問題は何を話しているかだが、ここからでは会話の内容までは聞こえない。

「何話しているのかな?」千夏も気になるようだ。
「由佳ちゃん、会議の最初からハイテンションみたいだったけど」
「そうねえ。気持ちが昂っていたのかもね。今日の田之倉くんは、いつにも増して
格好良かったわ」
「ああ、俺もそう思う。あのまま二人でどこか寄っていけばいいのにな。ホテルに
直行とか!?」
「なんで男ってそんなことしか考えられないのかなあ・・。私は寂しいよ、大樹!」
ほんのジョーダンのつもりが、怒らせてしまったかもしれない。
駅に着いて、改札のところで解散になった、

帰ろうとしていた時、田之倉が寄ってきた。
「ちょっと由佳ちゃんとお茶していく事になったから。」照れ臭そうに言った。
「そうかあ、良かったじゃない。頑張れよ!」
千夏の方を見たら、由佳ちゃんと話をしていた。そういうことねと一人で納得した。

二人を見送った後、俺と千夏ももう少し飲むことにして近くの居酒屋に入った。
「さっき由佳ちゃん、なんて言ってた?」
「田之倉くんに誘われたって。嬉しそうだったわよ」
「そりゃあ良かった。まさか、こんなにうまくいくなんて。俺も嬉しいよ」
「私は分かっていたけどね。お似合いの二人よ」
「ハイハイ。参りました!」

「ところで、ゴルフの練習はしているの?」
「今週は行けてない。家でパターだけは転がしているけど、なかなか仕事との両立は難しい」
「あら、早くもギブアップ宣言ですか!?」
「夜も寝ながらイメージトレーニングしているよ」
「二日酔いの頭で?」
「そうなんだよ。酔っ払ってるからドライバーが当たらない」
「ばっかみたい!!」千夏とのこうした軽い会話はいつしても楽しい。

「ところで新人チームを格上げする理屈をしっかり考えないとな」
「巽部長ならわかってくれるわ。心配ないわよ」
「もし部長が賛成してくれたら、できたら部長からチームで検討するよう指示を出してもらったほうが
いいと思うんだけど、どう思う?」
「う〜ん、難しいわね。ある意味、新人社員から言い出すっていう事にポイントがある気もするし、かといって新人ごときと思われるかもしれない」

千夏はやっぱり分かっている。少し間を置いてから言った。

「ここは素直にチーム結成の経緯と方針を正直にぶつけてみるかな」
「それよ!それがいいと思うわ。部長なら話を聞いてくれるわ」

その後は、ディズニーランドの話で千夏は盛り上がり、その様子を見て俺も盛り上がった。
どうやら千夏は、スプラッシュマウンテンとかホーンテッドマンショ見たいな絶叫系が好きらしい。対して俺は高いところが大の苦手だ。

間違いなく、その類のアトラクションに強制連行される。途端に憂鬱な気分になった。田之倉の楽しそうに話す顔が、ふと頭をよぎった。

翌日、まずは榊原さんに新人チームのことを相談した。榊原さんは素晴らしいとこだと褒めてはくれたが、プロジェクトとの棲み分けを明確にしておく必要があると言った。

更に何故千夏が参加しているのかと聞かれ、本当のことを話した。
会社として認めてもらうには、このプロジェクトに必要だと思われなければならない。
そういう意味であれば、会社での社員の生活環境をより良くするための施策を
このチームで纏め、それを社屋に反映させるということであれば大義名分となる。

部長の予定は空いていたので、榊原さんも一緒に行くと言ってくれた。
巽部長に新人5人のチームを作る計画を説明した。部長は黙って俺の話を聞いていた。全ての説明が終わってから、部長は口を開いた。

「今年の新人は頼もしいね。今までこんな提案はあまり聞いたことがないな。
どうだ榊原くん?」
「はい。私も聞いた事はありません。先ほど沢田くんから説明を受けた時には、頼もしく思いました」
部長は頷いた。

「それでだ。今回のプロジェクトは、一色食品の社風を取り入れ新人を5人加えた。
それを更に進めるという事だな」部長はしばらく考えた後、言った。

「いいだろう、検討しよう。ところで君ら5人は覚悟はできているんだろうな。
今の職制に加え兼務と言う事になるし、会社の組織として認めることになるんだ。
どうかな?」
今度は俺が少し考えて答えた。ここは腹を据えて発言しなければならない。
巽部長の目をまっすぐ見て言った。

「はい、中途半端にやるつもりはありません。覚悟してやります」
「分かった。君らを信じよう。少し時間をくれ」
「部長、新人という事であれば、如月さんも営業として経験を積ませるためにこのチームに加えたらいかがでしょうか?」榊原さんが提案した。

「如月くんかあ。是非経験させたいが、それを言い出すと他の部署でも出したいと
言ってくるかも知れんしな。あまり規模は大きくしたくないだろう。5、6人が一番意見が纏まり易いしな」
千夏の件も検討すると部長は言ってくれた。
俺と榊原さんはお礼を言って席を離れた。どっと疲れた気がした。

席に戻り榊原さんが言った。
「取り敢えずは良かったわね。沢田くんもよく言い切ったわね。これで逃げられなくなったわよ。性根をすえてかからないとね。他のみんなにもしっかり伝えといてね」

巽部長の動きは早かった。社長初め関係する役員に説明し、新人4人が所属する部長とも話を進めた。俺は4人と千夏に、部長との会話の内容を伝えた。

翌日の午後、榊原さんと俺は部長に呼ばれた。席には末木課長もいた。

「昨日君らから提案のあった話だが、結論から言うと社長初め幹部の皆さんから、
条件付きだが認可をもらった。良かったな」さすが部長だ。
「ありがとうございます。ところで条件とは何でしょう?」俺は聞いた。

「大したことはない。まずは臨時職制として時限付きだ。全員今の部署と兼務。
そしてこのチームのリーダーとして榊原くんを加えること。それからオブザーバー
として総務部の白川さんを加えることだ。

チームとして動く以上、成果物を出してもらわなくちゃならん。先輩の二人がいれば、纏め方も良く分かっているし効率がいいからな。チームとして7名になるが、榊原くん頼むよ」

榊原さんもやや緊張した面持ちで頷いた。榊原さんの表情を見て、これはどうも
大ごとになったと感じた。榊原さんも巻き込んじゃったかな・・・。

部長は言葉を続けた。
「今回は一色食品さんのため検討チームだが、今後のビル建築における一つの指針
にもなりうる。いろいろなパターンを構築することができれば、提案活動でも役立つしな。
それと幹部の皆さんも、私が話した限りではとても好意的だったよ。新人のやる気に驚いていた人もいた。それだけ期待されていると言うことだ。それから、社長が君ら全員と話をしたいと言っている。急で申し訳ないが、明日17時から時間を開けといてくれ。詳細は秘書から連絡があるはずだ。以上だ。」皆席を立った。

「私がリーダーとは驚いたわ」榊原さんが話しかけてきた。
「どうも巻き込んでしまったみたいで、すいません」俺は神妙に謝罪した。
「何言っているのよ。私もワクワクしているんだから!こんなチャンスはそうは無いわ」

よほど嬉しいのか、さっきの緊張した表情とはまるっきり変わっていた。
「沢田くん、みんなに明日の社長の話の後に打ち合わせをやるから連絡しといてくれる。よろしくね」
そう言って、一色食品新社屋の計画書を読み始めた。

そういえばチームは7人だから千夏は外されてしまった。まあ部長の言うこともわかるし、後で慰めてやろう。

翌日の社長との面談は、皆緊張感に包まれていた。幸いゴルフ部に所属していた俺や田之倉は以前話をしたこともあって、少しはマシだった。そんな中、榊原さんがいてくれたことは心強かった。

社長から激励の言葉を頂いたが、俺たちが想像している以上に期待されているのが
よく分かった。そして今回のプロジェクトについて一人ひとりの意見を聞かれ、

皆それぞれの想いを伝えた。社長はじっと耳を傾けていた。
俺は、今回の引き合いの経緯から、一色食品さんの期待に答えたい、そのために何をすべきか、何ができるかを考えたことを説明した。

最後に社長から一言あった。
「諸君も知っている通り、当社も来年で創立70年になる。会社は常に変化しなければならない。というのは、知らず知らずのうちに時間の経過とともに会社というのは、固まってしまうことが多い。“固まる”と言うのは、従前のやり方が当たり前として改善しなくなる事だ。それを変える為には今までに無い発想で仕事に携わることが大事になる。
しかし言葉で言うのは簡単だが、“変わる”と言うことはそう簡単ではない。

“変わる”事に恐れを抱く者、あるいは面倒だと考える者が必ずいる。
それは、君達の先輩にあたる社員だ。ちなみに先輩社員の名誉のために言っておくと、決して否定している訳では無いからね。まだ会社に入って半年も経たない君たちには、理解することは難しいかも知れない。
だが君たちには、是非君たちの真っ白な発想を会社にぶつけて欲しいと考えている。
これからいろいろな事があるだろうが、今回のチーム発足はその一つだ」

30分ほどの面談ではあったが、社長の想いや考えを直接聞くことができ、当然の事ながら皆の士気は
俄然アップした。

社長との面談が終わってから、榊原さんをリーダーとして打合せが行われた。
冒頭、榊原さんからA4用紙5枚のパワーポイントで作成されて資料が配布された。

「改めて自己紹介するわね。榊原です。入社7年目で営業一筋でやってきました」
皆の顔を見渡しながら話を続けた。

「昨日、巽部長からチームのリーダーを拝命しましたが、私の役割はこのチームが
スムーズに進むよう協力する事と皆さんの意見を纏める事です。
よって、何も遠慮せずどんどん意見を言ってください。要は皆さんの意見であれば、私は反対するようなことはしません。意見は言わせてもらいますけどね。
それでは次に皆さんに自己紹介をお願いします。と言っても、皆同期だからお互い
知っていると思うけど、私は初対面の人もいるのでよろしくね」

榊原さんを見ていると、貫禄というかリーダーの資質を持っているように感じる。
メンバーの自己紹介も終わり、榊原さんは配布した資料の説明をした。

「配布した資料を見てください。この資料は簡単に言うとチームを潤滑に進め、
何をすべきか、成果物は何か、そして各自の役割やスケジュールを記載した物です」
そう言って、1ページ目から説明を始めた。

榊原さんの企画力や書類作成能力は恐ろしい。昨日の今日で、もうこんな立派な資料を作ってしまうのだから。
資料の説明が進むと同時に、質問や意見が活発に出された。

新人チームに与えられた時間は約2ヶ月。そして俺の役割は一色食品のニーズを更に把握する事と、業界の動向や最新のオフィスビルの仕様調査だ。
既に2時間が経過していた。

「それじゃ、今後の進め方はみんないいわね。次回打ち合わせは、来週月曜日の5時から。それぞれ兼務で大変だと思うけど頑張っていきましょう!」
それぞれの想いを心に秘め、解散となった。

オフィスに戻ろうとすると田之倉が寄ってきた。
そう言えば、由佳ちゃんとどうなったんだろ。報告があって然るべきと思うが・・・。
「今日この後時間ある?」
「ああ、大丈夫だよ」軽く返事をして、15分後に玄関前で落ち合う事にした。

席に戻りメールの確認だけして帰ろうと思った俺は、5通の未読メールのうち、
T K Cの白石さんからきていた1通のメールを開いた。


内容は、相談したい事があるので連絡が欲しいとのことだった。早速登録してある会社の番号に電話した。
あいにく白石さんは打ち合わせ中とのことだったので、
明日電話するとお伝えいただいた。

「ゴメン、待たせっちゃったな」5分遅れで玄関先にいた田之倉に声をかけた。
「こっちこそ忙しいところ悪いな」俺たちは駅前の居酒屋に向かった。

今日の渋谷の街は、人通りが少ないような気がした。
人混みが苦手な俺は、この10分の1くらいなら快適だといつも思う。それでも相変わらず残暑は厳しくこの時間でも蒸し暑い。居酒屋に着くと早速生ビールを頼んで、3分の1ほど飲み干した。いつも思うが、最初の一口はこの上なく美味い。

「ところで話って何?」俺は切り出した。田之倉の表情が少し硬く見えた。
「実はね、プロジェクトのことなんだけど・・・。」
なーんだ、由佳ちゃんのことじゃ無いのか!?

「ちょっと自信ないんだよ」ん、どーした田之倉!
「やる気は十分あるんだけど、僕が想像していたのとちょっと違うと言うか、話が大きくなりすぎて戸惑ってる。
皆んなどう思ってるんだろう?」

みんなの前ではあれだけ堂々としていたのに、何があったんだろう?
「どう思ってるって、面と向かって聞いてはいないけどやりがいがあると思ってるんじゃないの。
田之倉もやる気はあるって言ったよね。」

「ああ、そう言ったけど。」
「難しく考えすぎてるんじゃないの?会社として俺たちのやる気を認めてくれたんだから、やるだけやって後は偉い人に任せとけばいいんだよ。上手くいかなくたって、新人の俺たちに責任なんて取らせようなんて考えてないだろし」

「そう言うものかな。どっちかって言うと、同期のみんなといい知恵が出せあえばいいかなって言う感じだったんだけどね」
意外と気楽に考えていたようだ。

「でもこうなったら、やるしかないだろ!田之倉の提案にみんなが賛同したんだし、それに由佳ちゃんも間違いなくその気になってたぜ。それに榊原さんもついてるから大丈夫だよ!」

由佳ちゃんの名前を出したせいか、田之倉の表情が柔らかくなった気がした。
やっぱり、男は女で変わるんだろうか。俺も少し変わったかも・・・。

「そうだよな。僕一人じゃないよな」
「そう言うこと!やるだけやってダメならそれまでということ。由佳ちゃんもおんなじこと言うと思うよ」

ここは、由佳ちゃんの御威光を使わせてもらおう。
「ところで、由佳ちゃんとはどうなってんの?」急に田之倉の表情が崩れた。

「何だよ、急に。」田之倉はバツが悪そうにして、
「まだよく分からないけど、またご飯食べに行く約束をしたよ」
「ほー良かったじゃん。脈ありってとこだな」念には念を入れて、千夏にも裏を取らせよう。

「千夏ちゃんにもお礼しなきゃな。大樹からも言っといてよ」
「分かった。今度ダブルデートでもするか?」

すっかり仕事の話は忘れ、今後の人生について勝手に二人で語り合った。
俺も田之倉も今が一番楽しいときかもしれない。

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