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レジェンドオブロック その1

その日、僕は1万数千円を握りしめ、上司の目の前に立っていた。

庶民の僕にとって、このお金は大事なもの。これだけあれば当時好きだったブランドのTシャツが2枚は買える値段だ。

上司は新聞紙から目線を僕に移し

「どーすんのな?」と聞いた。

「行かせていただきやす!押忍!」僕は深々と頭を下げ、手に持っていたお金を渡した。

こうして僕は、初めて矢沢永吉のライブに行くことになった。

上司(元)は生粋のYAZAWAファン。

髪の毛が長くなればキャロルっぽいリーゼント、短くすれば矢沢永吉ヘアーだった。

悩み事を解決する方法は「YAZAWAならどーする!?」と思考する、ガチガチのファンだった。

この上司が作った変なルールがあった。

一つ!男性職員は最低一回は上司とともにジムに行く事!
一つ!男性職員は矢沢永吉のライブには参加せよ!

あと何個かあったはずだが、忘れてしまった。

最若手の僕は、このルールには一切の迷いもなく「イエッサー!!!」と叫ぶ(しかなかった)のだ。

ライブ当日、参加したのは上司・別部署の上司(以下別上)、別部署の先輩二人、同期(歳は上)、僕の6人。別上の車で行く事になった。

この別上の車がそこまで広い事はなく、ただでさえでかい体の僕と同期は狭い三列目に押し込められてゲンナリしていたが、同期は高速道路の覆面パトカー探しにやたらテンションを上げていた。

やっとコンサート会場についた。が、駐車場代が高いと、やたらコンサート会場から遠い駐車場に停めることになった。いやホント遠いわ!

ここまで来て言うのはなんだが、僕には一つ懸念する事があった。

それは、僕は矢沢永吉の歌は一曲しか知らないと言う事だ。

上司にCD貸してくれと頼んだら、「買えっ!」と怒られ、同期に頼んだら「わかった!」っと言って完璧に忘れられていた。

この時はサブスクもなく、レンタル屋に借りに行かないと行けなかったが、面倒臭がりの僕はなんとかなるさーっと一曲しか知らない状態でライブに挑む事にしたのだった。

続く。


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