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【ネタバレ】フリーゲーム『公衆電話』のここがすごい!ゲーム制作者が徹底解説

こんにちは。もず(@mo_x_2)です。

最近はマンガばかり描いている私ですが、数年前までノベルゲームを制作していました。

▼作品リストはこちら(よかったら遊んでね)

さてさて、フリーゲーム『公衆電話』をご存知でしょうか?

主人公が公衆電話に閉じ込められた場面から始まる、いわゆる「脱出ゲーム」なのですが、こちら……とんでもなくすごいゲームなんですよ!

▼ちなみにこちらのページで遊べます(無料、ダウンロード不要)

正直、このすごさは「プレイしてみればわかる」の一言に尽きるのですが、私も今でこそ離れてしまいましたものの、ゲーム制作者の端くれ。作る側として「ここがすごい!おもしろい!」と感動したところを熱く語りたいと思います。

なお、以降はフリーゲーム『公衆電話』のネタバレが多量に含まれます。すばらしいゲームなので、プレイ後にお読みいただくことをおすすめします。

フリーゲーム「公衆電話」とは

「公衆電話」とは加藤匠さんが2018年に制作されたフリーゲームです。

ノベルゲーム投稿サイト「ノベルゲームコレクション」で遊べます。

ティラノゲームフェス2018で準グランプリを受賞していて、2021年5月現在、ノベルゲームコレクションでダウンロード数歴代No.1の作品です

正確な数字はわかりませんが、☆評価の多さから見ても、恐らくぶっちぎりのダウンロード数なんじゃないでしょうか?

その圧倒的ダウンロード数とクオリティの高さから、ゲーム制作者(というか私)から熱い憧れの眼差しを受けています。

ゲームは、主人公の男がふと目覚めると電話ボックスに閉じ込められていた、という場面から始まります。頼りになるのは手持ちの10円3枚だけ。覚えのある番号に電話をかけてなんとか脱出をはかる。

……そんなゲームです。

このゲームがいかにすごいのか、解説していきます!

『公衆電話』、ここがすごい!

1.「やってみたい」と思わせる舞台設定

先ほどあらすじを少し紹介しましたけど、「電話ボックスから3回だけ電話をかけて脱出をはかる」っていうこの設定だけで既におもしろそうじゃないですか?

電話ボックス自体も最近見かけなくなって、なんとなく人が寄り付かない、ミステリアスなイメージがあります。本当、いいところに目をつけたな〜という感じです。

「電話をかけるだけ」「3回しかかけらられない」というゲーム性のわかりやすさも、普段ゲームをやらない層にもウケた要素ではないでしょうか。

ちなみに私が作ったゲームは同じゲーム制作者の方から「プレイしました!」と言っていただくことが多いです。それも大変嬉しいのですが、やはり『公衆電話』ばりにバズるにはゲーム制作者以外の層のプレイヤーを引き込まないとなぁと思います。

私のTwitterのフォロワーさんはゲーム制作者の方が多いので、その中で宣伝しても、どうしても閉じた世界で完結してしまうんですよね。

「別コミュニティのプレイヤーを増やすこと」、これは私が長らく課題としているところで、それにはやはりキャッチーでわかりやすく、「やってみたい」と思わせる舞台設定が必須なんだと思います。

そういう意味で『公衆電話』は本当に見習うべきいい見本ですね。

2.プレイヤーの誘導がうまい

『公衆電話』はプロローグが終わり、「電話ボックスに閉じ込められている」「電話は3回しかかけられない」とわかったところでゲームがスタートします。

あとは電話のボタンを押すだけ。どこにかけたらいいのか、ヒントはゼロです。

じゃあどうするのか?ゲームとは関係なく、プレイヤーが一般常識として知っている番号にかけるしかありません。

そして、たいていの人が「110(警察)」か「119(救急)」に辿り着きます。

ここの誘導がうまい!プレイヤーの思考回路をよく理解しています。すこぶる自然で、違和感がありません!

プロローグであえて「警察にかけてみるか……」等とわざとらしく言わせないところがとてもよいです。プレイヤーが自分で「そうだ、110なら知っているぞ!」と気づくと「自力で解いたった感」が増しますからね。これがこのゲームの「おもしろさ」につながっていると思います。

クイズでもなんでもそうですけど、難しい問題に直面した時、ヒントはほしいけどほしくないもの。できればもらわずに自力で解きたい。とはいえ難しすぎて解けないと諦めちゃう。その境目を絶妙に突いています。

ちなみに実際の公衆電話からは警察や消防には小銭を入れなくても繋がるのですが、その点もきちんと補足しているのも地味によかったです(緊急時用のボタンが壊れているとのこと)。こういうリアルとのギャップって細かいですけど気になる人は気になりますからね。丁寧に作られていることがわかります。

あと、ゲームを進めていくと思い出す番号が「実家」というのも非常にリアルですばらしい。

今時電話番号なんてケータイに登録していますから、よくかける友人であってもいちいち番号を覚えちゃいませんが、ケータイ普及前はみんな実家の番号くらいはソラで言えたものです。私もいまだに実家の電話番号は覚えています。

このあたりのリアルさも、つくづく「うまいなぁ」と思うポイントです。

3.絶妙なSF要素

ここでいうSFとは「Science Fiction」ではなく、藤子・F・不二雄の言う「すこし不思議」の方です。ゲームの置いてあるページでもタグ付けされていますね。

超ネタバレになりますが、この「すこし不思議」の正体はゲームを進めていくうちに明らかになる「番号の頭に#をふたつ付けると過去に電話がかけられる」というギミックです。

私はこれが『公衆電話』を超名作とした大きなポイントだと思っています。

もちろん「電話ボックスからの脱出」「電話をかけられるのは3回だけ」だけでも十分面白いのですが、そこに「過去に電話をかける」というすこし不思議要素が加わると、抜群に物語に深みが出るのです。

漫画でもアニメでも「過去編」ってやっぱイイんですよね。「現在のあの言動はあんな過去があったからなのね…!」てな感じに伏線回収する、オタクが好きなやつ!もちろん私も好きです。

『公衆電話』でも過去に電話をかけることで、現在の主人公と家族・友人の関係性が明らかになります。過去への電話をきっかけに未来を変えていき、脱出へと道は開かれていくのです。

「公衆電話に閉じ込められる」というリアルな設定に対して、この「すこし不思議」のトッピング具合。絶妙ですね〜。

4.エンディングの回収させ方が秀逸

ノベルゲームを作ってて難しいなぁと思うのがエンディングの数です。

エンディングひとつの一本道だと作るのは簡単なのですが、どうしても「ノベル」の意味合いが強くなってしまいます。

やっぱりマルチエンディングこそノベル「ゲーム」!とは考えるものの、実際全てのエンディングを見てもらうのってハードル高いんですよね。プレイヤーも暇じゃありませんから。

作者としてはがんばって書いたシナリオですから、全エンディング回収してほしいところですが、プレイヤーによっては「トゥルーエンド」さえ見れればいい、という方もいるでしょう。

実際私はそういうタイプで、やりこみ要素はほとんど手をつけません。トロフィーも集めません(いいのかそれで)。

その点、『公衆電話』ではエンディングを迎えるごとに新たな電話番号の一部が明らかになるという仕組みで、プレイヤーに自然とエンディング回収を促します。

だって「イイコトあるよ」なんて書かれた番号、かけたらどこに繋がるのか気になるに決まってるじゃないですか!!!

この仕組みを知った時、「あーーエンディング回収にそういう方法があったかーー!!」と膝をバシバシ打ちましたね。次回作を作ることがあったら是非とも取り入れたい手法です。

6.作りが丁寧

最後に、『公衆電話』はとにかく作りが丁寧だということを語らせてください。これも本当にすごい。

まず、BGM。『公衆電話』では小さく虫の声がするBGMがずっと流れています。他にはありません。すごくシンプルですが、あえてたくさんBGMを使わないことで、電話ボックスから出られないんだという閉塞感が高まります。

さらに、BGMの音量は、通話中は小さく、脱出時は大きくすることで臨場感を高めています。これはプレイ中は気づかなかったのですが、作者さんが販売している開発スクリプト集にあえてそうしているとの記載があって、その細やかさに驚きました。

このディティールへのこだわりが作品全体のクオリティを底上げしていると思います。

次に、公衆電話を使う時の音。

ボタンのプッシュ音や受話器を置いた音が、またいい感じに緊迫感をあおります。妙にリアルだと思ったら、本物の公衆電話の音を直接録音したそうです。さ、さすがすぎる……。

また、細かなところで言うと、同じ電話番号に連続してかけるときは番号を入れ直さなくてよいのが親切設計だと感じました。

ゲームの特性上同じ電話番号に連続してかけることが多いので、地味に有難いポイント。

実際の公衆電話にはこんな機能はないのですが、そこはリアルよりもユーザビリティを優先したところがまた心憎いんですよね〜。

こういった作りの丁寧さは、プレイヤーは気づかないことも多いです(私もあんまり気づけないたちです)。ただ、こういった配慮があると、プレイヤーはゲームに集中できます。

単にダウンロードしてもらうだけでなく、きちんとエンディングまで遊んでもらうためには、『公衆電話』のような作りの丁寧さが不可欠なんだと思います。

まとめ

私がゲーム制作者として『公衆電話』をプレイして一番強く思ったのが

「アイディアがあればいいゲームはできる」

ということ。

私は絵も大して描けないし、音楽もよくわからないし、複雑なプログラムも組めません。ゲーム制作者としてはヘッポコです。

今の世の中、フリーゲームとは思えないような、シナリオもキャラクターもキャラボイスも音楽も、なんもかんも素晴らしいクオリティのゲームがあって、「こんなん作られたら敵いませんがな……」と思っていました。

しかし、『公衆電話』は会話とモノローグのみで構成されていて、電話のボタンのギミックはありますが、背景は電話ボックスのみで、キャラボイスどころか、キャラ絵もありません。それでちっとも物足りないことがないのです。

圧倒的なアイディアがあれば、余計な要素はなくても十分。

できないことを言い訳にせず、あるもの(スキル)で勝負しないとな……!とあらためて創作に取り組もうと思いました。

やっぱり『公衆電話』は私にとって憧れで、目標とするゲームです。

だいぶネタバレは書きましたが、それでもまだおもしろいゲームなので、未プレイの方は是非プレイしてみてくださいね〜!


最後まで読んでいただきありがとうございました!もずでした。


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