見出し画像

終わらないバカンスは楽しいか。映画「パームスプリングス」感想。

公  開:2020年
監  督: マックス・バーバコウ
上映時間:90分
ジャンル:コメディ/ループ

永久にダラダラしたいメェ~

ループものの作品で面白いのは、ループしている登場人物たちがどのように考え、成長し、ループから脱出するのか、という点ではないでしょうか。

また、面白い作品というのは、良くも悪くも、私たちが生活している現実と地続きなところがあったりしまして、時にループものの作品は、我々が過ごしている日常そのものへの不満であったり、代わり映えしない毎日のメタファーであったりするわけです。

たいしてのループものの作品は、無尽蔵に繰り返される一定期間、それが一日であったり、はたまた数年単位だったりするのですが、とにかく、なんとかしてループから抜け出そう、というのが一つの原動力となっています。

しかし、一般人がループ世界に巻き込まれた時に、すぐに脱出するでしょうか。

我々が生きている現実も、大事件が無い限り、似たような毎日の繰り返しに思えたりしないでしょうか。

「パームスプリングス」は、結婚式に参加する登場人物が、その一日を繰り返す物語となっています。

バカンスを楽しむようなリゾート地でループが発生した主人公が、脱出よりも、そのループそのものを楽しむ方向にシフトしたら、という発想の中で、テンポが悪くなることもなく、ループものの面白さを最大限にだしているのが本作品となっています。

いっそ、脱出なんて考えないで、毎日だらだら過ごす、というのも、あってもいいかな、と思わせてくれます。

ネタバレあり感想

さて、ここからは、ネタバレを含めて感想を述べていきたいと思いますので、繰り返しそのものをバカンス的に思いっきり楽しんでしまうループものを既にご覧になってから、見てもらえればと思います。

本作品は、インディペンデント作品の登竜門でもあるサンダンス映画祭でプレミア上映された作品となっています。

折り紙付きの脚本の面白さがいかんなく発揮された作品となっていまして、作品を見た方であれば、その出来の良さがわかるかと思います。

タイムリープもののラブコメディとなっている本作品は、物語の冒頭では、ループにすっかり慣れてしまっている主人公ナイルズが、無双状態となっています。

「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のトム・クルーズのように、登場人物たちのわずかな動きまで覚えているぐらい、ループする一日を把握している主人公が、ヒロインであるサラに声をかけるシーンから盛り上がっていきます。

ループものの恋愛映画といえば、「恋はデジャ・ヴ」が圧倒的に有名ではありますが、本作品は、物語の後半のビル・マーレイの状態からはじまっているので、非常にテンポがいいです。

お約束はきっちり抑えておきつつ、サラという二人目(正確には3人目)のループが入ってくることによって、先が読めない展開になってくるのがたまりません。

ループものの人間関係

現実世界でもそうですが、ある程度閉ざされた人間関係の中で、その仲が悪くなるのは避けたいところです。

ましてや、いつ脱出できるかわからないループ世界の中で、男女の仲が悪くなってしまったら、目も当てられません。

「パームスプリングス」のいいところは、男女の関係にはならないようにしていた二人が、徐々に友達として仲良くなって、ループ世界を思いっきり楽しむところです。

ループ作品をみていると、登場人物たちの寄り道をする様子というのはあんまり描かれることがありません。

脱出をあきらめた主人公が、同じくループする女性と、気が遠くなるくらいの日々を一緒に過ごすというのは、ある意味幸せなループといえるでしょう。

変わらない男、変わる男

ただ、とある行動をきっかけに、ヒロインであるサラのほうが変わります

ナイルズのほうは、明日も明後日も、何も変わらない毎日でいい、と思っているのですが、サラのほうは、繰り返したくない日を繰り返している、というのが一つのポイントです。

初めのほうこそ、なぜ自分の部屋にいなかったのだろうと、軽い違和感を感じる程度ですが、物語が進むにつれて、サラが、嫌な自分自身とようやく向き合う覚悟を決める、というところが、本作品のもう一つの魅力となっています。

ループものあるあるではありますが、お金や道具などの物体は、ループの先に持ち越すことはできませんが、知識だけは持って行くことができます。

「オール・ユー・ニード・イズ・キル」では、キャラクター自身の能力は変わらなくても、ゲームの感覚で言えば、プレイヤーの操作がうまくなってステージがすすむように、繰り返すことによって、戦闘能力が上がっていく主人公を楽しむことができます。

「パームスプリングス」のサラは、決して聡明な女性ではありませんでした。

ただ、心を入れ替えたことで、無限に続くループの中で、勉強をはじめる、というところが泣けるところです。

繰り返したくない毎日を抜け出すために、毎日勉強をし、知識を蓄え、最後には、脱出の道筋を作る。

どちらかというとだらしなかったサラは、勉強をすることで顔つきまで変わっていきます。

ただ、ナイルズは、いつまでも、プールに浮かびながらビールを飲む生活を繰り返しており、まるで成長していないのもポイントです。

やがて、脱出方法を見つけた時のサラと、ナイルズは、精神的な差が生まれているように見えるところも、現実の男女の違いも反映されているようで、面白いところです。

ループは地獄か天国か

多くのループものは、精神的に削られるような過酷な描写が多くあったりします。

一か月くらいなら面白く過ごせても、いつ終わるかもわからない毎日を過ごしていたら、頭がおかしくなってしまっても不思議ではありません。

「パームスプリングス」は、ループもののお約束を適度に入れつつ、男女の違いや、ロマンティックコメディの面白さをループという構造で見事に表現した作品となっていますので、気軽に、でも、心に沁みる作品となっています。

以上、「終わらないバカンスは楽しいか。映画「パームスプリングス」感想でした!


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?