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『とりつくしま』東かほり監督インタビュー🎤

こんにちは!映画チア部大阪支部の(なつめ)です。

長すぎた夏もそろそろ終わりそうな9月末、あたたかさを求めて訪れた映画館でこそ観たい作品を今回はご紹介します🎞



「もう一度、この世を見つめることができるとしたら」

自分の死後、日常の中のある「モノ」になって、自分の大切な人のそばにいることができる世界で起こる、少し寂しいけれどあたたかい4つの物語から構成された映画『とりつくしま』。

東直子さんの短編小説「とりつくしま」を原作に、娘さんである東かほり監督が脚本・監督を担当された映画です。

今回は、東かほり監督へのインタビューの模様をお届けします。
ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです!


『とりつくしま』ポスター


東かほり監督



(聞き手:なつめ、まる)

チア部:まず、ENBUゼミナールの「シネマプロジェクト」第11弾として、本作『とりつくしま』を製作された経緯を教えてください。

東かほり監督(以下、東監督):はい。前作の『ほとぼりメルトサウンズ』(2022)という長編があるんですけど、それをプロデューサーの市橋(浩治)さんが観てくれて。それでお声がけをいただき、第11弾でやることが決まってから、どういう企画にするかっていうのを何個かパターンをお送りして。5個くらい企画を送って、その中のひとつが、この映画『とりつくしま』でした。


チア部:今回キャストは、ワークショップオーディションで選ばれたということですが、そのワークショップではどのようなことをされたのですか?

東監督:ワークショップと、数名キャスティングの方もいらっしゃるのですが、ワークショップでは2日間ある中で、まず私がその役者さんのことを知りたいというのがすごく大きかったので、1日目には、話せる範囲でプライベートな話や人となりみたいなものを聞く時間をけっこう長く持ちました。

2日目には、1日目にお聞きしたことで気になったことや良いエピソードを当て書きした脚本で演じていただきました。あとはその、もともと原作をやるっていうのが決まってたので、原作の短編の中から、なんとなくこの話はやりたいと想定をしていた、「トリケラトプス」の二人の一部であるような脚本を用意して、合いそうな方にやってもらったりとか、そういう形で決めていきました。


チア部:脚本執筆の際に意識した点はありますか?

東監督:なるべくその人らしくいてくれる人、っていうのをすごく今回意識してて。あんまり作った自分じゃなくて、そのままでいてほしいなって思える方を、自然と選んでいたのかもしれません。そのワークショップを通して、自己紹介をしてるときもかなりその人のことを見ていて、話し方とか。緊張したときに出る癖とか、そういうのをメモしていて、それを逆に演技の中にいれてもらうっていうのをやってもらいましたね。

©ENBUゼミナール


チア部:東かほり監督のお母様であり、歌人、小説家の東直子さんの短編集「とりつくしま」が原作ということですが、どうしてこの原作を基に映画を作ろうと思われたのですか?

東監督:「とりつくしま」が11編の短編小説なんですよね。これくらいお話があったら、ワークショップに来てくれたいろいろな人たちそれぞれに合う年齢やキャラクターがあるかなと思いました。人数もたくさん出せるし、お話もすごく合っているのかなと思って選びました。

©ENBUゼミナール


チア部:監督も今おっしゃったように、映画では4つの物語で様々な人間関係が描かれていますが、私はこの映画を観て自分の母のことをすごく考えました。

母という存在は、自分をこの世に産み落とした存在であり、自分が成長すると同時に老いていく存在であり、そんなふうに血縁でつながっているからこそ、自分の生き死ににも強く関わっている存在であると思います。

東監督のお母様である東直子さんの小説を原作としてこの映画を作られたということで、脚本の執筆段階から恐らくたくさん対話を重ねたり時間を過ごされたりしたのだろうと思います。その過程で、とりわけ母親との関係性や、生死について考えたことや感じたことはありましたか?

東監督:死生観みたいなことは自分の中で映画を撮るときに、特に長編を撮るときにはテーマにしていることが多くて。それは多分死後のことに興味があるからだと思います。死後って誰も言葉にできない世界だから、死ぬこと自体は怖いことなんですけど、気になる存在、場所ではあって。そういう世界を描きたかったんです。

母という存在は、確かに自分を産み落としているっていう意味でとても大きい存在ではあるんですけど、似てる部分が多すぎて、30歳くらいまではかなりぶつかってきました。全然この人を理解できないって思ってたんですけど、今35歳になって、やっと心から尊敬できるようになれたというか、ちゃんと目を見て話せるようになりました。母も多分この話を書いてるくらいなので、死後に対していろいろな考えを持っていたり、好きなものが近かったりするのかなと思います。なのでこの話はすごくやりやすかったです。

©ENBUゼミナール


チア部:私自身、「死」というものや、自分が死んで誰かを残したり誰かが死んで自分は残されたりすることはすごく悲しくて寂しいものだというふうに考えています。そういったテーマを扱った作品でも、どうしても悲しさや寂しさが強く表出することが多いのかな?と思います。

『とりつくしま』でも、もちろん物語を通じてそれらが常に流れつつ、それ以上にあたたかさや優しさ、希望のようなものが充満しているように感じました。そこの描き方、バランスの取り方などについて、意識されたことはありますか?

東監督:寂しさもやっぱり必要で。

例えば「トリケラトプス」のお話は、妻のこはる(演:橋本紡)さんが亡くなって夫の渉(演:櫛島想史)くんが残された状態から始まり、一人でごはんを食べながら涙を流すシーンがあるんですけど、あれは最初のほうに持ってきたかったんです。最後までためて涙を流すよりは、最初に喪失っていうものを描きたかった。本当に彼の日常を映しているという意味の涙なので、悲しさは最初にして、ラストシーンで、トラックで引っ越しさせたんです。家から出てほしかったんですよね。あれは小説にはなくて、私が映画の中での渉くんに引っ越しをしてほしい、家から出て、彼なりの何か一歩を踏み出してほしいみたいなことを描きたくて、ああいうシーンにしました。

©ENBUゼミナール


チア部:そのお話で重要な「モノ」として出てくるトリケラトプスのマグカップがめちゃくちゃ可愛いなと思って観ていたんですが、あれは元々あるカップなんですか?

東監督:あれは母が作ったんですよ。うちの母は絵を描いたり陶芸をやったりしていて、作ると言ってくれたのでお願いしました。

元々母が原作に割とうちの家族のことも入れていて、トリケラトプスのマグカップも家にあって使っていたんですよね。それは兄が博物館で買ってきたもので。映画でもそれを思い描いてたんですけど、なかなか同じようなものがなくて、結局母が作ってくれました。

チア部:じゃあ本当に唯一無二のマグカップなんですね。

©ENBUゼミナール


チア部:監督は最近、「もしかしたら、これにだれかが、あるいはあの人が、とりついているんじゃないかな」と感じた瞬間はありますか?

東監督:そうですね…。ものとしては、家の鍵!ここに置いたはずの鍵が、絶対どこかに移動してる気がしていて(笑)。まじで見つからんな、みたいな時があって。いや、ここに置いたはずなのにまた移動してる!みたいな瞬間がすごくあって…。まあ自分が不注意なだけかもしれないですけど、とにかく鍵が無くなるので、なにかとりついてる気がしている、っていうのがありますね。


チア部:私は『ほとぼりメルトサウンズ』も拝見したのですが、『とりつくしま』も『ほとぼりメルトサウンズ』も、音が特徴というか、すごく繊細な音が入っているという印象を受けました。

私は、これこそ映画館で観たいな聴きたいなっていう音たちがたくさん込められているように感じたのですが、監督は「音」という点で意識されていることはありますか?

東監督:そうですね。音はやっぱり気を付けて…、というか好きっていうのもあるんですけど。

例えば、とりつくしま係の部屋で最初にこはるさんが対面でとりつくしま係と話しているときに、渉を思い出すシーンで、回想じゃなく渉との思い出を声や音だけにしてみました。音を出すと自然に映像として想像するかなぁというのがあって。画で見なくても音で伝えるっていうのは、やっていきたいし、意識してやっている方法ですね。

あと今回は音でいうと、冒頭、本当にど頭、電車に乗って魂を運んでいるイメージで「赤ちゃんの産声を頼りに進んでおります」っていう、車掌さんのような声をいれています。それは『ほとぼりメルトサウンズ』でタケ役をやってもらった鈴木慶一さんの声です。今回は声だけ出演していただきました。あとは各話ごとに、隠れ「とりつくしま係」の声が入っています。

チア部:観ていてその、隠れ「とりつくしま係」さんの声を探すことも楽しかったです!

東監督:あぁ!気づきました?

チア部:気づきました!あと最初の鈴木慶一さんの声も気づきました!

東監督:あ~おぉ、すごいすごい!あれ、あんまり気づかれないっていう…。

チア部:そうなんですか!?

東監督:「慶一さん、どこにいた?」って言われることが多すぎて(笑)。

チア部:私はあの始まり方がすごく好きです。

東監督:ありがとうございます。あの車掌さんの、「赤ちゃんの産声を頼りに…」っていうのは、私が夢の中で電車に乗ってて、そこに流れてたアナウンスなんですよ。起きてすぐメモして。『ほとぼりメルトサウンズ』のほうもそうなんですけど、夢で見たエピソードを入れるっていうのが好きなんですよね。「あおいの」で「優しい眼差しナンバーワン」っていう芸人が出てくるんですけど、その芸名も夢に出てきた芸人の名前です。夢の中で、その「優しい眼差しナンバーワン」っていう芸人に弟子入りしてたんです。それを、「あれっ、なんか弟子入りしてたなぁ」と思って、入れました!(笑)

全員:(笑)。

©ENBUゼミナール


チア部:学生時代に観て影響を受けた作品はありますか?

東監督:いっぱいあるけど…私が映画学校時代に観ていいなって思ったのは、塩田明彦監督の『どこまでもいこう』(1999)です。子どもの危うい感情みたいなものを描いた作品で、最後に「どこまでもいこう」の意味がわかったときに胸がギュッとなった記憶があります。すごく良い映画です。


チア部:それでは最後に、関西の劇場でこの映画をご覧になるお客さまにメッセージをお願いします!

東監督:うちの母も父も関西人で、おばあちゃん家が関西にあるので、小さい頃は夏の間しょっちゅう行っていた、第二の故郷です。今東京で『とりつくしま』を上映していて、関西の方から観たいって言ってもらえることがあってすごく嬉しいなと思っていたので、こうやって上映できることが嬉しいです。少しでも多くの方に観ていただけたら幸いです。よろしくお願いします!



映画『とりつくしま』、
関西では、9月27日(金)よりテアトル梅田、10月18日(金)より出町座、10月19日(土)より元町映画館にて公開!

9月28日(土)にはテアトル梅田、10月19日(土)には元町映画館、10月20日(日)には出町座にて、東かほり監督ご登壇の舞台挨拶もございます!



監督・脚本:東かほり
原作:東直子『とりつくしま』(筑摩書房)

出演:橋本つむぎ 櫛島想史 小川未祐 楠田悠人 磯西真喜 柴田義之 安宅陽子 志村魁 小泉今日子
中澤梓佐 石井心寧 安光隆太郎 新谷ゆづみ 鈴木喜明 千賀由紀子 佐藤有里子 宇乃うめの 山下航平 山田結愛 村田凪 田名瀬偉年 富士たくや 富井寧音 松浦祐子 大槻圭紀 平松克美 熊﨑踊花 岩本蒼祐 大古知遣

撮影:古屋幸一 照明:加藤大輝 録音:Keefar 美術:畠智哉 スタイリスト:中村もやし ヘアメイク:山田季紗 助監督:平波亘 制作:小林徳行 スチール:西邑匡弘 編集:中村幸貴 音楽:大江康太 小金丸慧 入江陽 宣伝:平井万里子 宣伝デザイン:東かほり ラインプロデューサー:田中佐知彦 アソシエイトプロデューサー:大久保孝一 児玉健太郎 鈴木喜明 プロデューサー:市橋浩治
エンディング曲:インナージャーニー「陽だまりの夢」
制作:Ippo 製作・配給:ENBUゼミナール 
2024年/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/89分 ©ENBUゼミナール



☕️おまけ📸
映画チア部大阪支部メンバーからの『とりつくしま』レコメンド!

インタビューでも少し触れましたが、私はこの映画を観るまで、「死」というものも死後の世界もすごく怖いものだと思っていたし、誰かを残すことも誰かに残されることもすごく寂しいことだと思っていました。
もちろん今もまだ怖いし寂しいけど、もしかしたら死んだ後でもそばにいることができるかもしれない、もしかしたら少しはあたたかいものやことなのかもしれない。

生きている今のうちに、もう少し人やモノに優しくなれる映画です。
ぜひ劇場でご覧ください!
(なつめ)


映画『とりつくしま』、とってもあたたかい物語です。

原作も拝読しましたが、どちらにも共通して、ひとを想う気持ちが丁寧に紡がれていると私は感じました。気になる方はぜひ、映画のあとに原作も読んでみてください。違いを見てみたり、このシーンはこういう映像化の仕方があるのか、とか考えたりするのもたのしかったです📚
今回映画化されなかった他のおはなしも、いつか東かほりさんの監督・脚本で観てみたいなと思いました。

私はこの映画を観ていて、なぜかとりつく側ではなく、残された側、とりつかれたものを持つ側、の視線で考えてしまっていました。
だれかがいなくなっても、時間は進んでしまう。残されたひとは、それでも日々を生活していかなければならない。
だけどもし、すぐそばにある“これ”に、あのひとが、とりついていてくれたら。もし、見守っていてくれたら。
私は、そう思えるだけで、ほんのすこしだけ、前を向けそうな気がします。

また、まわりにあるいろいろなものに、実はだれかがとりついているのではないか…?と、なんだかすべてのものが愛おしくも思えてきました。たとえば中古として手に入れたもののひとつひとつに、大切なエピソードがあるんじゃないか、と。これからはいろんなものにもっと愛着が持てそうです。

この作品は4つの物語からなる89分の映画です。あまり元気がないときでも、観やすい映画なんじゃないかなぁと思います。
ぜひ、劇場でご覧ください。
(まる)


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