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演技でキスをすることについて

ドラマや映画を観ていてキスシーンに出くわすと、

わー、これ本当にしてるのかな?!
とか

こんな濃厚なキス、相手が生理的にムリだったらどうするの??
とか

思わず想像をふくらませてしまう方も多いのではないでしょうか。


私も大学生でミュージカルにはじめて出た時、

いつか恋愛てきなシーンがある役が回ってきたりするのかなー?!
ハグとかキスとか・・?

なんて、期待のような不安のような気持ちがありました。


その時が来るのは早かった

ミュージカルが終わるとすぐ、私が役者を始めたと知った大学の同級生が、
ストレートプレイに出ないかと誘ってくれたのです。

※ストレートプレイとは、ミュージカルとは違い、主にセリフでお話をつないでいく演劇のことです。

友達「一個だけ問題があるねん」

私「なになに??」


友達「キスシーンがあんねんな!!!」


おっ、おう。


まあ、私も役者になったわけですから

キスシーンごときに怯えていてはいけないですよね?


ドラマや映画で活躍する女優さんたちは、キスにとどまらず

ラブシーンとかオールヌードに挑戦していらっしゃる方も多いわけで。

たかがキッスのせいで出演オファーを断るなんて、役者あるまじき!!


と、大学2年生の真面目な私は思い、その演劇に参加を決めました。


ところが、いざ稽古場で脚本を読むと

キスではなく摂取だった

宇宙人の女性(私)が、人間の男性のつばを摂取するために
夜な夜な部屋に通い、ディープキスをするというお話。

相手のつばを摂取するようなディープキス。

ご想像いただけたでしょうか?

つまりは、超濃厚なキッスということです。


恋人でもない人となぜキスをするのか

そんな疑問が頭にでてきたら最後、恥ずかしくて仕方なくて

キスシーンができませんでした。

演出家「じゃあ、まずは軽いキスから練習しよう。ちゅって感じで。」
→できない。


演出家「あ、じゃあ男じゃなくて女の子とやってみよう。」
→女の役者さんに突然くちびるを奪われる。

私「あ・・意外といける。」

何も恥ずかしいことはなく、生理的にイヤでもなく、別にふつうでした。


演出家「お、じゃあ次は自分から奪いに行ってみて?」        
                                 →座っている女の役者さんのところに走っていき、チュッてする予定

・・・恥ずかしい。できない。

10回くらい、走っていっては諦め、赤面するの繰り返し。

演出家「人間だと思うからできないんじゃない。ほら、地蔵だと思って!」

・・・じぞう?

意味がわからず混乱したのが功を奏したのか、

無事チュッとくちびるを奪えました。


演出家「よし。じゃあ次は本番ね」
→本当のお相手(男性、以下Qさん)と向き合って座るも、即赤面。

今まではふつうに向き合って座れたのに、これからチューをすると思うと
その相手までみだらの象徴に思えてきて、恥ずかしい。


結局、この日はQさんとはチューできず
私は早くも演劇に不安を感じていました。


しかし、今回の舞台はこのキスシーンこそが肝となり、
劇全体の象徴ともなるシーンでした。

そのため、いつまでたっても稽古場で「恥ずかしくてできません」なんて言ってるわけにはいきません。

夜な夜な、稽古後の戸山公園

(早稲田大学のすぐ近くにある大きな公園。
よく演劇サークルが夜中まで練習をしていたため、近隣の人のお怒りをかい、現在は練習禁止です)

で、Qさんと話し合い。

なぜこの劇中の2人はキスをするのか?
女にとって摂取とは何なのか?

という真面目な話し合いから始まり、
とりあえず摂取のシーン、つまりキスシーンを練習するわけです。

みんなが見ている稽古場ではできないキスも、
真っ暗な公園で2人きりなら意外とできるもんです。

が、たまたま通り掛かった通行人の方々は
「公共の場所で堂々とキスしてるんじゃねー!!しかもデイープキス!!」と
さぞかしお怒りになったことでしょう。

誓って言いますが、今、29歳の社会人である私は
いくら演劇の練習だからといって公園でキスをすることはないでしょう。

しかし、大学2年生、しかも初めてのストレートプレイに怯え、
とにかくいい芝居にしたいと無我夢中だった私は

必死でした。

超大真面目に、公共の場所でキスの練習をしていたわけです。

そして、何日か摂取の練習を続けた私とQさんは、
だんだん

どうしたらより摂取らしいキスに見えるのか?

と、キスの見せ方を研究し始めます。

その頃はまだ携帯の動画機能も発達していなかったので、
撮影して見返すという辱めは受けていません。

ただ、ひたすらキスをする。

そして、感想を述べ合い、

またキスをする。


その繰り返しでした。

本当に、今から考えると一体何をやっていたんだと思ってしまうのですが

当時は大真面目でした。

しかし、そのとき納得がいかなかったのは

最初は「このキスシーンが全てを決めるんだから、もっと研究してほしい」と言っていた演出家、そして共演者やOBの方々が

だんだん私たち2人にドン引きしていたということでした。

後日、「あんなにキスの研究して、正直引いてたよーアッハッハ」

と言われた私の心境をご想像ください。

お、お前さんがキスの練習しろって言ったんだろー!!と膝から崩れ落ちたくなりました。


ただ、このキッス騒動で私が一番衝撃的だったのが

本番初日に

最前列のちょうど目の前で、母親がキッスシーンをぽかんと眺めていた

このことに尽きるでしょう。

もう本番をやる頃には、ちゃんとノリノリで?

芝居の中でキス、いや摂取ができるようになっていたのですが

まさか初日、摂取をはじめたとたん

視界に入ったものが母の顔だったとは・・


ちなみに、私の母はそのとき

・私には彼氏がいたことがない

・私は男性とデートをしたことがない

・手をつないだことがない

・キスをしたことがない

・もちろん男性の家に泊まった事なんてあるわけがない

と、本気で信じこんでいた人です。


それなのに、舞台上という公共の場、
大勢の人が見守る中で

純潔だと信じていた一人娘が

とつぜん、キス

それもただの軽いキスではなく、1分くらいの濃厚すぎるキッスを始めたという事実。

きっと受けとめきれなかったのでしょう。

その日、家に帰っても

「おかえり」しか言われませんでした。

いつもは舞台の感想をちゃんと言ってくれるのに・・


おそらく、母の中で私の摂取はなかったことになっているのでしょうね。

私は一生、あの時の母の顔を覚えていると思いますが。


いつか、もし自分の子どもが演劇をやりたいと言い出したら。

観に行く前にこっそり脚本を読んで、心の準備をしていきたいと思います。


そんな、初めての舞台上キッスの想い出。


あ、ちなみにQさんとはキスしたからといって恋仲になるわけでもなく
気まずくなるわけでもなく
今もふつうにご飯に行って演劇トークをする仲間です。念のため。


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とても嬉しいです!!頑張って書きます。
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ホテルのマーケティングを中心に、個人でお仕事をしています。うつ病やストレスが原因の体調不良の経験から、休み方が分からない方へお休みの方法をご紹介するメディア「休もう。」を運営しています。https://yasumou.com/ その他:30歳からチェロを弾いています。