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雨の降らない夜に傘をさす

今日は友人と遊んだ。
長話が過ぎたのか、友人と別れた頃には25時を回っていた。
今日はたくさん遊んで疲れているのではやく帰りたいところだが、もう電車は動いていない。
あまりこの時間に出歩きたくはないのだが、一駅分だし良いかと思い、私は歩き始めた。


何度か歩いて帰った事はあるので大体道は分かる。この辺り一帯は住宅街になっていて、
流石にこの時間になるととても静かで薄暗い。夜だから当たり前のことなんだけど、人がたくさんいる場所にもかかわらず、その姿が見えないってのがなんだか怖い。

しばらく歩いていると、前から女の人が歩いてくるのが見えた。
段々距離が近くなると、その人が女の人だと分かった。
それもかなりスタイルが良い女の人だ。
彼女も終電を逃したのかしら。

すれ違う瞬間、少し顔が見えた。
この世のものとは思えない美しさで、女の私でも少し見惚れてしまった。

すれ違った後、なんだか違和感を覚えたので振り返ってみる。
そこで、違和感の正体に気がついた。
(ああ、傘だ。)
その女の人は真っ赤な傘をさしていた。
今日は雨は降っていない。
それに夜だから日傘って訳でもないだろう、
じゃああれは何傘なんだろう

その瞬間、彼女が振り返って言った。
「月が怖くて」
にこりと微笑んだ後、また元の方向に向き直して暗闇の中に去って行った。


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