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女の人はなぜいい匂いがするのか

あれは小学校高学年の頃の出来事だった。

ある日、私が仲良くしている女の子からいい匂いがするという事に気がついたのだ。

前からいい匂いがしていたわけでもない。かと言って今日いきなりいい匂いがしだしたかというとそういう訳でもない。

私が気づいたのがたまたま今日だったというだけだ。



昔から、「女の人」から良い匂いがするというのはなんとなく分かっていた。

毎年、夏休みになると大阪のおばちゃんの家に遊びに行っていたのだが、都会ですれ違う綺麗な女の人はみんないい匂いがしていた。

可愛ければ可愛いほどいい匂いがしていた。

それは、明らかに香水だと分かるぐらい匂いが強いものもあれば、ふわっと香る程度のものもあった。香水は分かるけど、あのふわっと香る匂いの正体はなんなのだろうとずっと気になっていた。

フェロモン?のせいだと聞いたこともあったが、それは女性同士でも感じるものなのだろうか。



小学生でもいい匂いの人はいた。その子はいつもクラスの中心に居て、服装も髪型も少し派手目な女の子だ。仲良くはないので殆ど喋らないのだが、それでも席が近くなった時にはそのいい匂いが私のところまで漂ってきていて、その度に私は匂いの正体が気になっていた。

そんなある日、仲の良い友達からも良い匂いがすることに気がついた。
私の友達といえば、私と仲良くしているぐらいだからそんなに派手な子ではなく、どちらかというと大人しめな子だった。(失礼)

なのに、そんな私と同種族の筈の友達から「大人」のいい匂いがする事に、私はショックを隠せなかった。

いつの間にか、あの子は大人になっている!  置いてかれた!!!!!

この時かなり焦っていたのを覚えている。

なんとかして私も『そちら側』に行きたい!!!

いい匂いのする人たちは皆近寄り難かったが、その子なら気兼ねなく話せたので、意を決して聞いてみた。

「なんか最近いい匂いするよね??何かつけてたりするの?」

その子の返答はこうだった。

「いや、別に。」

そんなことある???

今までと同じ通りに過ごしていて、突然いい匂いに変わるか???何故????と私は少し混乱したが、その子は続けてしゃべる。

「あ、でも最近柔軟剤変えたかも。お母さんが適当に買ってるから何使ってるかは知らないけど」

柔軟剤!それは盲点だった!!

柔軟剤といえば服をふわふわにするだけのものというイメージで、私の家では不要なものとして採用されていなかったのだが、それがいい匂いと結びつくものだとは知らなかった。

良い匂いの正体が分かった私はかなり興奮しながら帰宅した。

そして興奮が冷めやらぬうちに、帰宅後早々に母に柔軟剤を使うよう勧めたが、

「匂いが嫌い。肌も荒れる」

とキッパリ断られた。

その時、私のいい匂いへの道は閉ざされたように思えた。


しかしまだ諦めない私は、代わりにシャンプーとリンスを変えるよう頼む。いつも同じメーカーのものばかりだったが、たまには違うのを使って欲しいとお願いした。この願いは無事に聞き届けられ、当時CMで見て使ってみたいと思っていたエッセンシャルが我が家に迎え入れられた。

使ってみると、思いの外いい匂いがする。自分の頭から蜂蜜の匂いがするのが楽しくて、意味もなく髪の毛を振ったりした。

余談だが、当時このシャンプーにどハマりした私は自分の髪の毛だけではなく、風呂全体を蜂蜜の匂いで満たしたい!と風呂の中に蜂蜜を持ち込み、その結果私は風呂の中で蜂蜜酔いをした。以来、エッセンシャルと蜂蜜が少しだけ苦手になった。


しばらくは匂いに満足していた私だが、しばらくすると不満が出てくる。

だんだんと鼻が慣れてきたのか匂いが感じられなくなってきた。

それに髪を乾かすと匂いが半減することが酷く気に入らなかった。

更に、これはシャンプーの匂いであって、私からいい匂いがする訳ではない。髪の毛が短い子だっていい匂いがするから、別にシャンプーは関係ないのかもしれない。と思うようになった。

その頃私は中学に上がっていた。仲良くしていたあの子とはその頃からグループが違っていて、高校の時にはその子はスクールカースト上位になっていたのでもう殆ど話していないが、今考えれば彼女が上位にいるのも納得ができる。あれは上位の匂いだった。

中学生になると部活が始まる。

私はバレー部だったので、かなり汗をかいた。

可愛い子たちは汗をかいていてもいい匂いがしていた。部活終わり、更衣室で着替える時に彼女たちを観察すると、皆スプレーをかけたり、シートで汗を拭き取っていた。

当時色々なものに無頓着だった私は、そのような商品があることすら知らなかった。夏になれば暑いし、動けば汗をかくのは当たり前、それをどうにかするなど考えた事がなかったのだ。

彼女たちに触発されて、私も同じような商品を買う。彼女たちは、新しいものが出る度にそれを買ってきていたが、私も後ろに続くように同じものを買った。

BAN、8×4、シーブリーズ、、etc…

これで、私も少しはいい匂いに近づけたと思った。

高校に入り、皆がいよいよ身嗜みに対して真剣になってくるなか、私は匂いのことだけを考えていた。

通学バスの中でハンドクリームとボディークリームを塗っている女子がいた。

『成る程、あれも良い匂いの元になるものか』

学校に着いてから、髪の毛にスプレーをかけている女子がいた

『なるほど』

私は、可愛い女の子たちをとにかく観察して、何を使っているのかを研究しまくった。

一度、カースト上位の子が私に体操服を貸してくれた事があったが、びっくりする程いい匂いがした。その子から漂ってくるいい匂いが凝縮されたような匂いだった。

『やっぱり柔軟剤の力は凄いんだ…』とその時改めて思い知らされた。



大人になった私は、自分の好みの匂いのものを探し、自分の好きなように買えるようになった。

シャンプー、柔軟剤、ボディーソープ、ボディークリーム、全ていろんな商品を試した上で厳選したものだけを使っている。

夏は制汗剤を忘れずに、

時々、香水もつける。

友人から、「いい匂いだね」と言われる事も増えた。すごく嬉しいけれど、でも私と同じ製品を使えばきっと皆同じ匂いがするのだろうと思う。

私が憧れた「女の人たち」は、もっと内側からいい匂いがしていて、他の人と被らない唯一無二の匂いがしていたと思う。私は、所詮偽物の匂いを纏っているにすぎない。

女の人はなぜいい匂いがするのかという問題は未だ解決していない。



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