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先生に塗られた青


小学生の頃、図工の時間に自分の似顔絵を描くことになった。その頃の私はちゃおを愛読していたので漫画系の絵を描くのは得意だったのだが、逆にリアル寄りの絵は全くと言っていいほど描いたことがなかったので苦手だった。
普段描く絵はそんなに下手な方でもないのに、授業で描かされた苦手な絵だけで、「この子は絵が下手だわ」と判断されたら嫌だな〜、なんて過剰に心配をしながら描いていた事を覚えている。

わたしは、苦戦の末なんとか下書きを終えて色塗りに取り掛かり始めた。この「色塗り」という作業も当時の私には苦痛な工程だった。たった12色の絵の具を混ぜた所で思い通りの色が作れるわけがない、それに水の量もどれぐらい入れたら良いか分からない。塗っているうちにどんどん紙が傷んでいって、しまいにはやぶれてしまう。下書きではまあまあ上手く描けていたものが色を塗ることによって台無しになってしまうので、私にとって色塗りは蛇足だった。
鉛筆の時点で既に完成されたものに対して、わざわざ色を塗る意味は???
どの状態を完成とするかは人それぞれの自由なのに。

そんな風に脳内で文句を言いながらも、なんとか色塗りを終えた。

紺色の制服のちょうど肩の部分まで伸びている黒い髪、長めの前髪は真ん中で分けてある。

うん、これはどうみても私の似顔絵だ。
お世辞にも上手いとは言えないが、なんだかんだいって最後まで完成させた事が嬉しかった。
描く手を止めると、先生が近寄ってきた。
「あら、もう描けたの?早いわね」
先生が私の絵をじっくりと見る。
「なかなか良いわね。でも、こうするともっと良くなると思うわよ」
そう言って先生は、たっぷりと水を含んだ筆でパレットの右端にある青と黒を混ぜ始めた。

そして、私の似顔絵の髪の部分を上から塗り始めた。
「髪の毛って真っ黒に見えるけど、実は、光の加減で色んな色が見えたりするの。こうやって、黒以外の色を混ぜることによって絵がもっと良くなると思うから、また今度試してみてね」


わたしは、頭が真っ白になった。
よく分からないけど、言葉には出来ないけど何かがショックで、酷く傷ついた。

今考えると、先生のアドバイスはとても的確だったし、自分の絵を他人に書き加えられる事は嫌なことではあるけど、そんなに傷つくような事じゃないと思う。
でも、当時の私は、自分を否定されたような気分になった事と、自分の書いた絵が「先生の描いた絵」になってしまった事が凄くショックだったんだと思う。多分。

それからしばらくして、また図工の授業があった。今度は、学校で飼っているチャボを描くというもの。先日の似顔絵のショックがまだ抜けておらず、無気力のままで描いた鶏小屋の絵は酷いものだった。色塗りは雑だし、線もガタガタ。色塗りに関しては現実の色に寄せようという気すらないのが分かる出来だった。当然先生にはこっぴどく叱られた。
「どうして真剣にやらないの?」
「皆ちゃんとしてるよ?」
私は、みんなの前で叱られた恥ずかしさと、先生にされて嫌だった事をうまく伝えられない悔しさで泣いた。

その後、自分たちが描いた似顔絵は教室の後ろの黒板の上に貼られた。そして私は、その絵を見るたびに胸がモヤモヤして、なんともいえない嫌な気持ちになるのだった。


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