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ホームウォールのある暮らし

こんにちは。寒さがますます身にしみるようになりました。クリスマス〜年末年始はだいたい繰り返し寒波が来るので、山に入るのはなかなかの修行です。悪いコンディションの中でリスク管理をしながら登り切るのは充実感がありますが、できるならコンディションの良いときに登る方がやっぱり気持ちいいですよね。僕も霧氷がびっしりついた岩を攀じるのは大好きではあるんですが、八ヶ岳にいつでも入れるコンディションにあるとどうしてもキツい寒波の日はステイになりがちのアラフォーであります。

だいたいこういう日にはクライマーはダメ人間をしているか、そうでなければジムに向かうのでしょう。僕もジムの年会員でわりとマジメに登っていた時期がありましたが、今ではジムは年に数回しか行きません。その理由の一つが、家にホームウォールがあることです。
ネットで少し探せば、家にウォールを持つことはすごく特別、というまでのものではなく(もちろんモノ好きの域には入ると思いますが)割と行われていることが伺えます。これをお読みのみなさんも、それぞれの置かれた環境の許す範囲で、家にトレーニングウォールを設置することは可能です。今日は我が家にホームウォールが作られたいきさつのお話をしようと思います。

コロナ禍で、僕は家を入手した

2020年の正月を迎えたあと、新しい病原体が日本でもじわじわと広がってきているというニュースもなんとなく他人事のように聞きながら僕は山に入り続けていました。当時はまだ職場の方の宿舎に住んでいたのですが、僕達夫婦の心配事は、宿舎が老朽化により廃止になる年限が近づいており、近々宿舎を出なければいけないことでした。宿舎がやたら古いのを良いことになし崩し的に犬を飼ってもおめこぼしを頂いていた僕達としては、犬を飼えて家賃もそれなりに安い物件があるのか、という点が不安で仕方がありませんでした。

そんな課題を抱えながらも登っていた脳天気な日々がコロナで終わりを告げると、いよいよ僕達は住居の問題に向き合わざるを得なくなりました。折しもコロナで職場から暇を出されたり在宅になったりで、検討する時間もたっぷりと転がり込んできました。犬のことを考えると、持ち家の魅力はやはり捨てがたく、コロナの閉塞感がただよう春、僕達は念願のマイホーム購入か?と浮かれていました。

最終的には、30年のローンという十字架を背負う勇気は出ず、中古の住宅を義父の別荘扱いで購入してもらい、僕達はそこの賃貸住人という姑息な節税対策代表みたいな、お気楽にして最適な八ヶ岳ライフがスタートすることになりました。犬も終の棲家を手に入れてごきげんです。クライマーとしては、せっかく持ち家(ホントは持ってないけど)ならば、家に壁くらいあってもいいじゃないか・・・という思考になるのは自然な流れでした。

入居一ヶ月で壁ができた

最初に作ったメインウォール サイズや傾斜感はムーンボードを意識した。

ウォールはすべて自分で作りました。詳しい日程は忘れてしまいましたが、6月に購入して、いくらか自分の手で断熱などのリフォームをしてから10月に入居しましたが、通販の購入履歴を見ると11月にはすでにホールドを注文しているので、入居してから1ヶ月少々でもうウォールの原型はできていたようです。今思うと随分気合が入っていたものです。
6畳の和室の天井を抜いて高さを出し、床の畳は撤去して断熱材と板材で新しく貼りました。それまでのDIYで余っていた角材をやりくりしてフレームを作り、ホームセンターで24ミリ合板を買ってきてウォールとしました。あまりの大改造で騒音は出るわ、天井を抜くとネズミの糞やらホコリやらがバラバラ降り注いで、妻とは何度も険悪な状態に陥りました(笑)一ヶ月で壁はできましたが、ホールドが高いので、日和ってなかなか買い足しができず、最初の冬は3パターンくらいの課題をひたすら登っていたような記憶があります。

次の年に、垂壁少々と幅を変えられる人工クラックが追加され、ホールドも充実してきて今に至ります。

思い立ったら登れる幸せ。しかし・・・

クラックはフィーリングが大事。思い立ったらいつでも練習できるのは嬉しい。

家に壁ができて僕はジムに行かなくなりました。思い立つと自分で作った壁にぶら下がって自分でトレーニングを設定しては楽しんでいます。専門のドラツージムにはかないませんが、打ち付けてある木片でフッキング練習をすることもでき、アイスクライミング前にトレーニングが足りてないな・・・と思うときはアックスにぶら下がります。

特によかったのは人工クラックで、家にいながらにして基本のハンドサイズはもちろんリービテーションからチムニーまで、すべてのサイズのクラックを思い立ったら練習できるのは大きなメリットだと思います。僕は普段山のバリエーションルートばかり登っているのできれいなクラックでジャミングの集中練習をしたことが無いのですが、これで一通りの練習をしたあとで行った太刀岡山左岩稜はソロにしてだいぶ余裕を持って登ることができました。

しかし、大事なことをお伝えしないといけません…登る頻度や強度は、ジムに通っている時と比べて確実に減ってしまいました。毎日登れると思うとかえって後回しになるものですし、自分で設定した課題は新鮮味に欠けます。つまりは、食欲が湧かない、というのがぴったりきます。ホームウォールでガチつよクライマー…という当初の予想図とはだいぶちがうクライミングライフです。

生活とともにあるクライミング

薪ストーブの炎が揺れる。八ヶ岳の家はやることが多い!!でもトレーニングよりも山で薪を拾うのが楽しいならそうすればいいと思う。人生の中にクライミングがあるのだから。

ホームウォールで強強クライマーになりました!!という報告ができればよかったのですが、現実は全然です。しかし僕はこれでよかったと思っていますし、ウォールを作った価値はあったと思います。

ジムのパス会員になると、せっかく会費を払ったのだし・・・と、休日のみならず仕事終わりにも立ち寄って、自然と頻度が増えていました。上達のためには良いことですが、それで結構疲れていましたし、それに時間が取られて生活が忙しくなっていました。今思うとその当時、夫婦のバトルも多くて、それももしかしたら疲れや多忙のせいもあったかもしれません。物事、ストイックに取り組む姿も素敵ですが、思えば以前から僕の人生の基本スタンスは大してストイックなものではなかったのです。自分の好きなことを自分の好きでいられるペースで行って、周りは気にせず辞めずにすむようやっていればそれなりの境地におのずと達するのである、という気持ちで何事もやってきました。僕はもともと優秀なボルダラーになりたくてクライミングを始めたわけではなかったので、あるべき姿になった、ということだと思います。

また、持ち家を持つとやることは増えるのだと思い知りました。(なんども言いますが登記上は僕の所有ではありません)庭の草も伸びてくるし、あいてるスペースがあれば野菜も作ってみたいし、せっかく裏山で倒木がいっぱいあるので薪ストーブもやってみたい・・・と、まあクライミングも楽しいは楽しいのですが、やらなくてはいけないことや、また別の意味で楽しいことも家を持つことによってたくさん出てきたのです。クライミングをしてるときだけ生き生き前向き!そうでなけりゃダメ人間、というのもクライマーとしては潔くて魅力的ではありますが、いざ田舎に家を持って住むとなるとクライマーもそこそこ丸くなって勤勉になるしかないのです(笑)

家を持ち、ウォールを手に入れてジムに行かなくても良くなったことで、強い弱い、上手下手という話ではなくて、クライミングが生活の中に位置づけられた、という感覚があります。言ってみれば、昔のようなピュアに向上を目指す姿勢はなくなったわけですが、プロでもなく、目標グレードは?と聞かれてもわからず(というか自分の最高RPグレードもよく知らない)ダイエットもする気がなく、しかし普通のハイキングもできず壁にしがみついて、帰ってきたらまたすぐに次のクライミングのことを考えてしまう僕のようなクライマーにとってはこれで良いのです。風呂入る前に靴履くのもめんどいしキャンパ課題だけ試すか、仕事から帰って一周だけドラツーやっとくか、こんなゆるい壁ですが、生活の中にクライミングがある、という実感を確かに持っています。

壁の隅の押し入れだったスペースはDIYしてギアクローゼットになっている。クライミングの準備はとてもスムーズになった。


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