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part2の人たち

雑然としたアメ横のメイン通りから1本入った道沿いの地下に、むかし昇龍part2という中華料理屋があった。

昇龍の餃子はべらぼうにおいしい。本店は餃子好きな人が行列を作る人気店だけど、思い出が多いのは昇龍part2(以下part2)という支店のほうで、こちらは3年ほど前になくなってしまった。

part2は本店より空いていたので、行列の嫌いな父によく連れて行ってもらった。アメ横で買ってもらった駄菓子の袋を提げて茶色い階段を降り、薄暗くてタバコの匂いのする廊下の椅子で少し待った後に鈴のついたドアをあけると、ちょっとコワモテの店員さんたちが「ッシャーイ!」と迎えてくれた。

私は天津麺(シンプルな醤油ラーメンによく焼いたカニ玉がのっている)が好きで、家族で2皿頼む餃子と一緒によく食べた。餃子はゲンコツを細長くしたくらいの大きさ。すごく大きいのが1皿に5個ものっている。野菜多めの具がぎっしりつまって、皮はもっちりぱりっとして、天津麺と一緒に食べると幸せな気持ちになった。

店内はいつもにぎやかだった。おじさんたちの大半はビールをやりながら店内のテレビで野球を見たり、本棚の美味しんぼだとかを読んだりしていた。おじいさんおばあさんも餃子をおいしそうに頬ばっていた。私達みたいな家族連れはラーメンやら焼きそばやら頼んで分け合ったりしながらいろいろ食べていた。

店員さんたちはちょっとコワモテだけど、きっと優しい人たちだったと思う。一番印象に残っているのはいつも機嫌のいいウエイターのお兄さんで、鼻歌と一緒に料理を運んできてくれた。「ふふふ〜ん...はいっワタシの天津麺!」といった感じ。小学生の頃、こんな大人になりたいな〜とぼんやり思ったけど、今考えるとチャラい人だったかもしれない。子どもを楽しませようとしてくれるくらいだからチャラくてもいい人だろうとも思う。
レジのおばちゃんもすてきだった。怒鳴り気味で注文を通すのを聞くのが好きだった。小さかった頃は帰りにペコちゃんの絵のついたペロペロキャンデーをくれて「バイバーイ」とお見送りもしてくれた。

ときどき思い出して昇龍に行きたくなる。だけどなかなか行きたい時に行くことができない。本当はpart2に行きたいけどもうないし、今は地方に住んでいるので本店にも気軽には行けなくなってしまった。

2年ほど前、上野の博物館で南方熊楠展を見た帰りに友達が「なんかおいしいもの食べたい」と言ったので、じゃあ昇龍に行こう!と提案した。その頃にはもうpart2は無くなっていたので、ガード下にある本店に行った。
本店は改装してあった。ピカピカの店内にソワソワしたけど餃子は変わらず美味しかった。頼んだ料理が小さなエレベーターで二階の私達の席に運ばれてきて驚いたけど、店員さんたちは変わらずシャキシャキしていて嬉しかった。嬉しかったのでビールを飲んだ。昇龍も私もちょっとだけ変わった。

あの頃part2にいた人たちはどうしているだろうか。part2で母に「コーラ飲んでいい?」と聞いていた私も、part2の人たちも少しずつ変わっていると思うけど、皆元気だったらいいな。

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