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プールを見学するための努力の話

白い無地の台拭きを
金盥で漂白するのが好きだ。
何か正しいことをしているような
気分になれる。
漂白が終わったあとの
青白くなった台拭きも好きだ。
なんだかとても清潔に思える。
そして塩素の匂いは懐かしい。
子供の頃のプールを思い出す。

プールは私が人生で初めて、
親に泣いて頼んで辞めさせてもらった
習い事である。
幼稚園の頃だったと思う。
私は水が嫌いだった。
水を顔につけるのが嫌で、
毎朝顔を洗うのも億劫だった。
水に潜るなんてどうかしていると思っていた。
目に水が入るのも、
耳に水が入るのも、
水に入って心臓が圧迫されるのも、
全てが嫌だった。

習い事は辞めればやらずに済むが、
小学校に上がれば
プールの授業は避けられない。
プールの日には
その日の体温と出欠の可否を
保護者に書いてもらった紙を
提出する決まりがあり、
どうしても見学したくて
仕方がなかった私は、
親の目を盗み
体温計を腋下ではなく
鼠蹊部に挟んで計測するという
荒技を編み出した。
こうすることで腋下で測るよりも
少しだけ高い体温が表示される。
この少しだけ高いというのがミソだ。
なぜならあまりに熱が高すぎて
病院に連れて行かれたりしては
困るからである。
学校を休んだり、
病院へ行くほどではないけれど、
プールは見学したほうが良いかもねという
ギリギリの体温を出すことが重要だった。

別の話だが
学校を休みたかったある冬の朝、
ちょっと熱っぽいかもなどと嘯いて
体温計を自室に持っていき、
エアコンの暖房の風に体温計をかざすと
温度はみるみる上昇し
42℃という高熱が表示されてしまった。
その日は確か
観念して登校したように思う。



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