社会人1日目

社会人になる日が来ようとはまさか思っていませんでしたがなんと今社会人の肉まんですどうも。

あああんつらいつらいつらい!!
世の大人たちはなんでみんな平気な顔して働いているの!?

みたいな感じのことを5分に一度は考えながら働いている。

明日も仕事だ。
クッソ働きたくねえと思っている。

働かないと生きていけないのは世の原理なわけだが、たまにこの原理をフルシカトしている顔の可愛い女や一体全体なにをしてるのかよくわからない小太りの男やらがいて思わず天を仰いでしまう。

それにしても出社初日はとんでもなくつらかった。
どれくらいつらかったかというとデスクで思わず泣いてしまうくらいつらかった。

遡ること一か月前、新型コロナウィルスの影響で新入社員研修が中止になり自宅での研修となった。

自宅で研修なんて誰もやらん!!つまり休み延長!!ワーイ!となっていたところに大量の研修書類が送られてきたためたいそう驚いたが一切やらなかった。
誰の目も光っていない自宅でまじめに資料を読むなんて初めから無理な話なのだ。

当たり前に誰もやらないと思っていたので、同期に問題の答えを聞かれたときは冗談かと思った。
内定者サイトでも質問が飛んでいる。どうやらみんなやっているらしい。

深く反省し、やらねばと思った。
そしてそう思いながらなにもやらない日々が続き、とうとう出社初日がきた。
学生時代、夏休みの宿題は9/1に「忘れました」といい9/2から徐々にこなしたりしていたためなにもやっていないことに不安はなかった。

そんなことよりも私は歳の近い先輩(田中圭)に軽い冗談を言われたりコーヒーをもらったり2人きりで残業をしてラブハプニングがおきたりする妄想で胸がいっぱいだったのだ。

楽しみな気持ちが体を急かし、職場に向かう足取りも自然と早くなったおかげで、30分前には営業所についた。
ついこないだまで2分前にタイムカードをきったりしれっと5分遅刻したりしていた私が、だ。
はやる気持ちでドアを開けた私は目を疑った。

そこにいたのは、「おっさん」だけだったのだ。
見渡す限りのおっさん。
ここは、女と若年層が姿を消した何百年後かの世界か?いや、ちがう。2020年の春だ。

"超高齢化社会"私の脳裏にはその言葉がはっきりと浮かぶ。

所長が言うにはここは平均年齢が1番高い営業所らしい。
私の配属先を決めた人間を呼び出して小一時間ほど理由を問い詰めたいが新卒にそんなことできるわけがない。

膝から崩れ落ちそうだったが幸にも書類に目を通すよう言われたため自分のデスクに座った。

まっさらな紙には難しい文言が明朝体でたたずんでいる。その背景にあるのはまるでおじいちゃんのジャンパーのような無機質な灰色のデスク。

ついこの間まで海外旅行に行ったりバイト先でAmazonプライムを見ていたのが遥か遠くに感じられる。
私はもしかして終着点についてしまったのか。
私の人生における最高地点は気づかぬ間に過ぎ去ってしまっていたのだろうか。

私の豊かすぎる感受性はおっさんしかいない現実を突きつけられたことによりもうボロボロである。

歳の近い先輩(田中圭)が一人もいない、いや、それどころか"若い"人間がいない。
ここに田中圭はいない。そう悟ると同時に、私の甘い新卒一年目の妄想はガラスのように砕け散り目からは涙が溢れ出た。

それを止める術はなかったが、コロナ対策のマスクのおかげで人知れず泣くことができた。
出社1時間で泣いているの、全国に私しかいないのではないか。そう思うとさらにつらくなった。

怒られたわけでも、嫌な奴がいたわけでもない。
あんなに楽しみにしていた先輩(田中圭)がいなかっただけのこと。でもうら若き乙女にその打撃はじゅうぶんである。

なぜだ。ヤリマンだったことへの報いなのか。
神は私から若い男を取り上げたもうたのか。

先輩(田中圭)がいないとなるとそこはただただ無機質な空間だった。
まさか爺さんと何かあるなんてことは万に一つ、いや億に一つもない。

決められたことが決められた順に、この先も一糸乱れず行われていくであろう空間に耐えられなかった。
この決められた順序をただ繰り返す日々が死ぬまで続くのだろうか。

気が狂いそうである。

可愛い感じのキャリアウーマンになり、高い基礎化粧品を使いブランドロゴが輝く口紅を颯爽と持ち歩く女なってやる、そう思っていた。

専業主婦になりたいと言っている友達に「旦那の稼ぎ頼りにしちゃダメだよ!」などと偉そうに進言したりしていた。

それなのに、そんな私だったのに、なんかもうチフレでいい気がしてくるのだ。色つきゃ同じ。爺さんしかいない場所に毎朝行くより家にいるほうが何倍も幸福ではないだろうか。

とりあえず、この無機質な空間から逃げなければ心が壊れてしまう。

本気でそう思った私は、昼休みになったら荷物をまとめて帰る計画をたてた。
帰って、本当にやりたいことをさがして、そして転職しよう。したくないことに時間を割いてる場合じゃない。いのち短し好きなことせよ乙女だよね、一刻も早くここから逃げなきゃ。

そのときの私には事務所が檻に見えていた。

なんでもいいから早く資料を読めと言いたい。

職場に爺さんしかいなかった衝撃で私の理性と知性は完全に失われていた。

そんな私を正気に戻したのは一本の電話だった。
昔ここで働いていた人間の勤務態度を聞いているようだった。

そう、前職調査である。

そのような電話は迷信だと思っていたが、どうやら本当だったようだ。  

もし、昼休みに本当に家に帰ったら?そしていつか転職活動を始めたら?そのとき私はどうなる?
電話確認をされたら?
即死亡である。
私は出社初日の昼に家に逃げ帰った女として報告されるだろう。
たった3時間ぽっち、資料を読む段階で挫折した人間を一体どこの会社が採用してくれるのであろうか。

当分逃げ場無し(^^)

時刻は午前11時30分

(あと30分で帰れる^^)と本気で思っていた私のもとにそんな電話がかかってきたのはただの偶然ではない。神よ、そこにおられるのですか?

田中圭とおっさんとのギャップのショックによりボーッとしていた脳みそは現実を見たことによって若干正気に戻り、辞める日時設定をその日の昼ではなく数年後に変えることにした。

お金を貯めて、学校に行こう、そうだ、パン屋さんもいいな、パティシエなんかもありだよな、チョコレートをおしゃれにテンパリングしてさ…あ、イラストレーターも素敵…ゆるふわでヘタウマな4コマ漫画をTwitterに載せて書籍化になっちゃったりして…それにデザイナーなんかもあり、私の道は無限大…!

こんなバカに行き場など無しである。

「資料、読み終わった?」
所長にそう声をかけられるも1P目から進んでいない有様であるため適当にはいとかへえとかそんなかんじの発音をした。
どこまで進んだの的な感じで突っ込まれるかと思いきや返ってきたのは優しい笑顔だった。

改めて冷静に周りを見ると、隣の席の爺さんはりんごを食っていた。ここはフランスか?

爽やかな風、爺さんが食っているりんごの香り。
ボンジュール、世界の車窓から。

事務所には木漏れ日が指し、コロナ対策で開けてある窓からは爽やかな風が吹いている。

なんだかここも悪くないかもしれない…
イケメンがいないからって、爺さん達みんないい奴そうだし、給料も新卒にしてはまあまあ高かった気がする。イケメンと2人きりで残業も捨てがたいが、就業時間ぴったりに帰る方が素敵ではないだろうか。

そう思い直し、午後は給料と安部からもらえる10万の使い道を考え元気を出した。

私の社会人1日目はこんな感じで終わったのだが、改めて振り返ってみるとバカ大忙しという言葉がなんとしっくりくることだろうか。

ワクワクしたりガッカリしたり泣いたり笑ったり…
一切働いた記憶がないのが不思議である。

もしこのnoteを読んでいる方の中に学生がいたらぜひ覚えておいてください、会社は学校と違い、おっさんがたくさんいます。
学校にはおっさんなんて先生しかいませんよね、けど会社は違います。
右をみても左を見てもおっさん、前にも背後にもおっさん。
田中圭なんていません。
若い男がいるだけでありがたいことです。

おっさんはキモいという固定概念を捨てずに持っているととても苦労します。
おっさんがみんなキモいわけではないということをしっかり念頭にいれ出社日を迎えましょう。

ここまで書いたところで思い出したのだが、私の営業所が1番平均年齢高いのだった。
こんなにも若い男がいないのは私だけなのかもしれない。なんだかまた鬱になってきたが贅沢も言っていられない。次の移動を楽しみに金を稼ごうと思う。

何事も自己暗示が大事である。

職場に田中圭がいないからってなんだ。
いつか赴任してくる可能性もある。来たるその日に向けてマツパとネイルとボトックスはマストでやっていこうと思う私だった。

おしまい


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