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【小説】chapter10 銀座にて

 銀座の雑居ビルの一つにある小さな画廊。僕が到着した頃には展示するものは運び込まれていて田中先生がちょうど一息ついてるところだった。

「おーありがとう。忙しいところ悪いね」

「いえいえ。学生なんか暇なんで」

じゃあ早速だけど、と田中先生がいって二人で作業に取り掛かる。ワイヤーのアジャスターを調整して作品をかけていく。立体作品の裏にブルタックを貼って立たせておく。雑談をしながらテキパキと作業をしていく。途中で先生の友人がやってきて挨拶もそこそこに黙々と作業をしていく。こういう作業の雰囲気が好きだ。まるで文化祭の前日みたいな空気が漂っている。

 お昼にサイゼリヤにご飯を食べに行く。毎度のことだが昼から酒を飲む。赤をマグナムで頼んで飲みまくる。この後も作業は沢山あるが、そんなことは気にせずワインを飲みまくる。

「そういえばこないだのグループ展の人たちと飲みに行ったんでしょ?」

「はい、主催者の方とエミさんっていう方と飲みに行きました」

「あーあの娘ね。学生時代から知ってるけどさ、真面目な娘だよね」

へーそうなのか?真面目っていう感じはしなかった。自由人っていう感じはしたけど。

「すごいペースで作品作っててさ。絵でも造形でもなんでもやってて。社会人になっても作品いっぱい作ってるもんな」

しかし、途中から合流した先生の友人、全然喋んね〜のにスゲー勢いでワイン飲んでる。負けずにガブガブワインを飲んでると先生が聞いてくる。

「なんか彼氏もいなそうだし狙い目じゃない?」

「いやーなんか彼氏はいるらしいですよ」

ふーんと興味無さそうに先生はワインのグラスを傾ける。そっかエミさんはいろいろ作品作ってるんだな。なんかプラモ使って作品作ってるのに勝手に親近感湧いてたりしたけど。
 
 ふと、自分以外に見せてる彼女の姿が気になった。カレシの前。会社で。先生たちの前で。自分の前でだけ自分にしか見えないエミさんの姿を見せて欲しいと思うのは傲慢だ。プラモデルのようにグレーのサーフェイサーで全部塗りつぶして自分の色に染められればどんなに楽だろうか。

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