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垂直と水平の冒険について

先日、惜しくも南米最高峰のアコンカグア登山を途中で断念して下山された三浦雄一郎さんが26日帰国し(ドクターストップで断念とのことでしたが)ご本人はきわめて意気軒高で「まだまだやれる(連呼)」「90歳でエベレストに挑戦したい」と早くも次の目標について抱負を語った、というニュース記事を見かけました。

うーん…(真顔で考え込む)どうなんでしょうね?そもそもエベレスト登山にはその危険さから、チベット側から登るには18歳~60歳までという厳しい年齢制限があり、現時点で年齢制限のないネパール側からでさえ、この遭難が起きる以前から制限が必要なのではないか?と議論されていました。

というのも、先進国の裕福な登山家が資金さえ用意できれば、かなりのハンディキャップがあっても(登山支援してくれるシェルパ族ガイドのお陰で)なんだかんだで結構登れてしまう状況があったりするからなのです。そのような商業登山の弊害(単純に遭難とか救助要請の激増)がエベレスト界隈でも叫ばれて久しいので、挑戦を手放しでは応援しづらいところです…。

それ以前に、今回の登頂断念が同行の医師によるドクターストップによると言われていることからも、ご本人の心肺や心臓に持病を抱えているのなら、なおさらもうこれ以上、登山において「標高」にこだわるのはおやめになるべきはないでしょうか?どんなに準備を整えても、高山に登れば機能の低下した高齢者の心肺では高山病の危険は避けられませんし、気温差の激しい、極度に乾燥した気候の中では、心臓の突然死のリスクも高くなります。

大体ですよ?今回、帰国後のインタビューで自嘲気味に「現在体重が90キロある」と仰っていましたが、いくら優秀なガイドやお医者さんが同行して、ご本人が意気盛んであっても、さすがにその体重(実は第一印象から「絞れてないな~…」と案じてました。。汗)では、重い装備が必要なヒマラヤや南米の高峰を自力で登るのは難しかったのかなと。…ここだけの話、本当に登る気あったのでしょうか??ファンのために無理しちゃったのですかね?

個人的な意見を言わせてもらえば、私としては「日本人は山の標高(数字)にこだわりすぎる」と思っています。さらに言えば、「山の有名さ」にも。スポンサーとかの関係があるのは十分理解できつつも、本当の意味で登山の意義は「高さ」や「知名度」で決まるものではないと思いますし。知られていない山にも難しさや面白さはあるはずだし、そもそもそんなに高いところまで登らなくても、山の楽しさを味わう方法は昨今いくつもあります。

みんなが知ってるところで富士山を例に挙げれば、単純に頂上まで登って(それにしても、バスで途中まで行って五合目からと、海抜0メートルから頂上までは同列には言えない)降りて来る以外にも、歴史的な信仰の山としての側面や、複数ある登山ルートごとの山の表情の違い、さらには「登らず」に富士山がもっとも美しく見えるロケーションを見つけて、それらの中で長距離を踏破する(=ロングトレイル)ような楽しみ方もあり得ますし。環境省トレイル初心者ガイド

いっそ、三浦さんも垂直方向への登山(標高を求める)&スキーという挑戦スタイルから、例えば水平方向のロングトレイルを踏破もしくは走破するというトレイルランのような挑戦のスタイルにシフトしては如何でしょうか?何なら、それで移動した先で山スキー滑ってもいいですし。(スキーだけのためにロープウェーやヘリで頂上まで登るのは、何も問題ないと思います。お父上の故・三浦敬三さんの99歳モンブラン滑降の挑戦と同じですよね)

※ちなみにトレイルランの世界には現在70歳(確か)で現役アドベンチャーレーサー(重量10㎏以上のテントや食料などの荷物を背負って300~500kmとかの超長距離を走るクレイジーなレースの参加者)であるマルコ・オルモというモンスター級のご老人がいます(トレラン最高峰のUTMB二連覇)。

日本がとうに高齢化社会を迎え、相変わらず中高年登山者の遭難が絶えない現状を見ても、高齢者に勇気を与えてくれる三浦さんのように有名人の方にこそ、従来の日本人の「標高&知名度にこだわる狭い山の楽しみ方」から、ロングトレイルのような「山の高さや知名度よりも、旅する行程そのものの面白さやクリエイティビティを深める楽しみ方」へ価値観の転換をリードして頂けたらとても有意義なのではないか?と思ってしまいます。(さらに、残った冒険資金は地域の林道やトレイルの整備のために寄付するとか…?)

そうすれば、日本中の津々浦々の地方にそれぞれの魅力を活かしたトレイルがどんどん増えて、それを目当てに旅する人口も急増し、地域経済も潤って雇用も増えて、ついでに原状でも混雑してる登山道との住み分けも進んで、さらに中高年が高い所まで登らなくても山の楽しみを味わえるようになるので難所での遭難も減るという!いいことずくめじゃありませんか!?(奮)垂直もカッコイイけど、水平だってカッコイイんだ、と言えませんかね?

ということで私からのご提案ですが、単に標高の数字を誇示するだけの登山から、もっと山というフィールドそのものを味わい尽くせるようなスタイルに、日本の登山アクティビティのあり方をも変えて行くようなインパクトを与えるような、そんな「垂直から水平へ」の冒険スタイルのシフトをご検討して頂けませんか?三浦さんの尽きることのないバイタリティと挑戦心は、そういう国民的イノベーションのためにこそ使って頂ければと思うのです。

…などなど、若輩者が生意気を言って申し訳ありませんが、ご健康のためにもどうぞご一考下さいますよう。以上、大急ぎで書いてしまって失礼をば。

※2019.2.25追記 当時、ご本人がどんな体調だったかの記事が出てました。…やはり結構あぶない状況だったみたいですね。しかしエベレストの時には標高6千メートルでの高度順化をしてから登頂に臨んだところを、今回のアコンカグアではやらず(→記事)にオール酸素で行く、という決断は妥当だったのか?この次(90歳でエベレストやると既に仰っているので)の挑戦も同じ手法で行くのか?は詳細に分析・検討されるんでしょうね無論。。


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