
第10号 脳卒中後の痙縮に対する治療①チーム医療として取り組むボツリヌス治療
社会医療法人ささき会 藍の都脳神経外科病院
リハビリテーション部 理学療法士 君浦 隆ノ介
ボツリヌス治療の知識と効果、そしてチーム医療としてとり組んでいくことの重要性を紙面にまとめました。4つの動画も収録
1章 脳卒中後痙縮の定義とメカニズム
2章 A型ボツリヌス毒素製剤について
3章 当院のボツリヌス治療の取り組み
4章 ボツリヌス治療のタイミングについて
はじめに
2025年、世界人口の2人に1人が脳卒中を発症する時代を迎える1)。脳卒中は、要介護認定の原因疾患1位であり、全体の約20%を占める。日常生活に影響を及ぼす脳卒中の多様な症状の中で、経過と共に増悪する痙縮の影響は大きい。脳卒中後に生じる痙縮の発症率は約38%2)とされ、脳卒中の発生率から、このまま行けば2025年には世界的には約16億人の脳卒中後痙縮患者が発症すると推計される。これは他の要介護認定の原因疾患の割合と比較すると認知症、老衰、骨関節疾患を上回り、脳卒中後の痙縮に対する今後の対策が急務であると考えられる。
リハビリテーションにおいて、脳卒中後痙縮は、起立動作や歩行動作の阻害因子となりうる、また、上肢のリーチ動作や把持動作に影響を与える。増悪の程度によっては、リハビリテーションによって回復した運動機能やADL能力を低下させる可能性がある。このように痙縮の出現は、要介護状態や寝たきりなどADL能力低下、QOL低下に影響を与えてきたが、有効な治療法がなかったため、その治療に難渋することが多かった。
この危機的状況であった本邦では、既に欧米諸国では実績のあったA型ボツリヌス毒素製剤(製品名:ボトックス®)が2010年保険承認された。これにより、従来の痙縮治療に比べ、より安全で簡便かつ効果的な痙縮治療が実施できるようになった。
当院では2011年より痙縮に対するボツリヌス治療と、治療効果を高めることを目的としたチーム・ボツリヌスを導入した。以降、我々は2011年7月1日~2017年6月末までの6年間で1000件以上のボツリヌス治療を実施してきた。また、この治療を実施した患者の多くは、当院のリハビリテーション・サービスを併用している。これらの経験を基に、脳卒中後痙縮のボツリヌス治療とそのリハビリテーションについて、考察を交えながらご紹介させていただきたい。
目次
1章 脳卒中後痙縮の定義とメカニズム
Ⅰ 脳卒中後痙縮の定義
1.筋紡錘の感度変化中心説
2.上位運動ニューロン病変中心説
Ⅱ 上位運動ニューロン
1.外側経路
2.腹内側経路
3.脳幹網様体脊髄路
Ⅲ 痙縮の発症メカニズム
1.一次性痙縮発症のメカニズム
2.二次性痙縮発症のメカニズム
2章 A型ボツリヌス毒素製剤について
Ⅰ ボツリヌス毒素の分子メカニズム
Ⅱ A型ボツリヌス毒素製剤による効果
1.アセチルコリン・ブロック作用
2.過剰な共収縮の低下
3.中枢性効果
3章 当院のボツリヌス治療の取り組み
Ⅰ チーム・ボツリヌス
Ⅱ 急性期~回復期にボツリヌス治療を行う場合の適応基準
Ⅲ 当院のチーム・ボツリヌス
1.医師のインフォームドコンセント
2.療法士による施注前問診
3.施注前評価
4.チーム・ミーティング
5.症状別ボツリヌス治療の考え方
6.注射器と薬液の準備
7.施注(動画1参照)
8.施注後のチェック事項
9.施注直後のリハビリテーション
10.即時効果の判定
11.自主トレーニングの指導
12.ボツリヌス治療とリハビリテーションの併用療法の効果判定及び装具作製
Ⅳ A型ボツリヌス毒素製剤の効果を高める工夫
1.アセチルコリン放出量とA型ボツリヌス毒素製剤の吸収率の関係性
2.Technique of Gushing Acetylcholine(動画2、3、4参照)
4章 ボツリヌス治療のタイミングについて
Ⅰ ボツリヌス治療はいつから行うべきか?
1.痙縮の発症時期から考える
2.中枢レベルの問題から考える
3.末梢レベルの問題から考える
Ⅱ 早期ボツリヌス治療の効果
終わりに
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