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ニートの友達が個人事業主になって、来年は親を旅行に連れていく。


 この記事では、どん底に落ちた人間を見捨てて見限らなかった時の、本人が救われたケースの話を書く。


 ◆


 友人がニートになってから、一年半近く会っていなかった。

 その友人とは普段はSNSで絡んだり、ゲイバーで遭遇することがあったら挨拶して話すくらいの仲だった。本名は知らない。けれど一緒に飲み回ったり、朝になったらゲイタウンを抜けてそこらへんの居酒屋でご飯も食べたこともある。将来について真剣に語らったこともある。

 彼はあたいよりひとつ歳上で、酒乱のケがあるゲイだった。酔ったらよくゲイバーの店子(従業員)に「俺のことビンタして! ねぇビンタして!」って言っていた。あたいは彼に愉快なおっさんという良い印象を持っていた。

 実際、彼は愉快だった。
 ゲイバーのトイレでゲロを吐きながら「ううぅ、おかわり……」って言っていた過去も思い出す度におもしろい。彼の人間性を象徴するエピソードだと思う。


 そんな彼の顔を一年半も見なかったのは、彼がニート期間中は飲みに出ることを控えていたからだ。

「ちょっとの間ニートになりまーす! 働く気が一切しません!」

 そういう感じのことをTwitterで呟いていたので、多分なんかいろいろ思うところがあったのだろう。だから仕事を辞めて、のんびりしたかったんだと思う。

 でも、たまにSNSを更新していたのは見かけていたので、まぁとりあえず生きてるのは生きてるんだな〜って頭の隅に彼の存在はあった。


 そしてこの前。ゲイバーで久しぶりに飲んでいるの彼の姿を見つけた。よく見かけるスーツ姿じゃなく、ラフなシャツ姿だった。

「久しぶりじゃ〜ん。元気してたん?」とあたいから声をかけると、

「うん。超元気よ。仕事始めたから飲みに来たんよ! 一緒に飲も!」

 って感じで誘ってくれた。丁度あたいも一人で飲みに来てたので、ボトルは別で、同じボックス席に着いて飲むことにした。



 久しぶりに飲みにきたお客様には、ヤケクソのお客様というものがある。

 本当は飲みに来てる場合ではないけれど、でも辛い現実から逃れるために飲みに来たり、自暴自棄になったりして来る人もいる。そもそも飲み屋に遊びに来るというのは現実から逃れるための遊興でもあるのだけど、でも行き過ぎた現実逃避は店としても少し警戒する。身を滅ぼす飲み方をするからだ。

 でも彼の場合はそんなヤケクソ感は無く、清々しくやっと飲みに来れたというような、そんな抜けた表情があった。なのであたいも頭空っぽに彼と一緒にテキトーに話して楽しんで飲もうと思った。野次馬根性で相手の事情に突っ込む必要は無い。あまり相手のことを詮索しても気まずくなってお酒がまずくなるしね。


 すると彼からだった。

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ここはあなたの宿であり、別荘であり、療養地。 あたいが毎月4本以上の文章を温泉のようにドバドバと湧かせて、かけながす。 内容はさまざまな思…

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