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愛があれば

愛があればゴミも喰える!
と言ってゴミ箱のゴミをペロリと平らげ、どうだ!と振り向いたら彼女の姿は消えていた。
「サヨナラ」と書いたメモを机に残し。
彼女の残像かのように揺れるカーテンを見つめながら思った。
死のう。
それしかない。
ゴミもさっさと喰えるくらいだから首もすぐに吊れるさ、とタカをくくっていたら、どういうわけだか縄輪っかの前で躊躇している自分がいる。
やはり愛か。
愛が無ければ何にもできない。
無くした愛はどこにあるのだろう。
情けない男はいそいそと部屋の中を探った。
さっきまであったはずの愛。
部屋のどこを探しても無い。
今もっとも必要の無い夢ばかり落ちている。
ひょっとしてゴミ箱に間違って捨てたか?
それならさっき食べちゃった。
いや、愛があったからゴミも食えたし、その時点で愛はあったはず…。
それとも愛も無く俺はゴミを食べたのだろうか?
それだとしたら意味が無い。
何も無くてもゴミは食える?
そんなの単なる変態じゃないか。
 とにかく俺は自分の体の中に飛び込んで、ひょっとして食べちゃったかもしれない愛を探すことにした。
体内は見渡す限り真っ暗闇。
だから一度外に出てヘッドライトを取りに行こうとした。
しかし内臓か何かにぎゅうぎゅうと押し込められ身動きが取れない。
もうお腹も減ってきたしオシッコもしたい。
ムチャクチャに体をクネらして出ようとしたら繊細なんだろうか内臓らしきものから血が吹き出した。
自分の体の中だから自分が痛い。
死ぬほど痛い。
帰りたい。

それから三日間このままでいた。
そろそろ意識も薄くなってきた。
遠くから聞こえてくる自分の鼓動もだいぶゆっくり。
どうやって自分で自分の体の中に入ってきたのかすら忘れた。
暗闇の中、身動きできずただ一人。
腹が減りすぎた。
ゴミでもいいから食べさして。
ガチャリという玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
彼女だろうか。
違う。
雰囲気でわかる。
泥棒だ。
泥棒は落ちてる夢をありがたそうに拾い集めて部屋を出ていった。
その瞬間、俺は死んだ。

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