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そういうことだからそういうことなのか、でも言わせてもらう

俺はその刀をよけきれなかった。
今、奴の刀が俺の額に触れようとしている。
今!今!今!
来る!
そう思いながら待つ。
あら?
どうしたんだろう?
もう来てるはずなのに刀が当たった感覚が無い。
ああ、すでに死んだっぽい。
なぜなら全感覚が無い。
視覚も聴覚も触覚も嗅覚も味覚も。
うどん屋でうどんを喰ってる最中に切りかかって来られたからわかる。
出汁を感じない。
香りも感じない。
うどん屋のグツグツも聞こえない。
箸を持ってる感じがしない。
目なんか黒とか白とかで覆われてるとかそういうのではなくて、もう無い。
うどんが見えない。
さて、どうしたらいいんだろう。
今からどうすれば?
無いなら無いで俺自身も消えたらいいのになんなんだろう。
待ってればいいのかな?

結構待ったけど何も起きない。
これはひどい。
何もないから何もない!
何もないなぁ。
死神とか三途の川とか閻魔とか何もない。
なるほど、受け止めた。
ようするに死んだら何もないんだ。
そういうことなのか。
自分は物分かりが良いほうだからわかった。
何もないんだ。
こういうの怒る人だったら怒ると思う。
どないせいっちゅうんじゃい!ってなると思う。
理屈じゃないからしょうがない。
そうだからそうなんだ。
なるほど、もう何ににもなれないし何も変わらないし何も始まりもしないし何も終わりもしないし何もしなくていい。
そうなのか。
わかったよ。
そうなってるんだね。
いいと思う。
そうなるならそうなればいい。
怖くもないし痛くもない。
どうせ、いつかは皆そうなる。
それでも俺は思う。
残してきたあの子が心配。
あれ…?
なんか見えてきた。
血だらけのうどん屋に転がる俺の死体とひどく泣いているあの子。
向こうはこっちに気づかない。
俺の体は浮いてるし透明。
なるほど、どうも幽霊になれったっぽい。
恨めしくもない。
なんなんだこのシステムは。

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