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【7000字レポート】 心理系大学生がオンライン授業が始まったいま、思うこと

このnoteは「新型コロナウイルス感染症拡大が大学生の学生生活へ与える影響について」アンケートの結果をまとめたものです。 
そして本企画は、いくつかの大学にて非常勤講師としてお勤めなさっている公認心理師、臨床心理士の中村洸太さんと心理系の大学生・大学院生への支援などを行なっている団体であるMOSSとの共同で行いました。
新型コロナウイルスの影響で、例年とは違う自体に、 学生だけではなく、大学の教職員の皆様も混乱の中で過ごされていると思います。 こうした先行きの見えなさを情報共有することで、 安心感に繋がったり、何か対応策のヒントになりましたら幸いです。

MOSS代表 村田尚貴

こんにちは、公認心理師・臨床心理士として活動をしております中村と申します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大から、2020年4月7日には、東京、大阪など7都道府県を対象に緊急事態宣言が出され、16日には全都道府県を対象へと拡大がされました。多くの大学が通常の授業等の実施を中断せざるを得ない中で、学生側にも多くの不安や状況の見えなさがあるのではないかと思い、オンライン授業等について思うことの緊急アンケートを行いました(2020年4月25日から30日)

しかし、結果をまとめているうちに5月25日までには全都道府県において、緊急事態宣言が解除されました(遅々としてすみません)

とはいえ、まだ大学構内への入構を止めている大学も少なくはありませんし、オンライン授業が本格的に始まった中で感じていることは、4月末の時点とは変わってきているかもしれません。その意味で、一つの記録として本アンケートの結果をまとめていきたいと思います。学会発表レベルではないので、お手柔らかにお願いします。


1.アンケート回答協力者の属性

(1)回答者の所属する大学の所在地
東京都(11名)大阪府(3名)、奈良県、神奈川県(各2名)、山形県、埼玉県、三重県、兵庫県、岡山県、広島県(各1名ずつ)でした。

大学の所在地の都道府県はどちらですか?


(2)所属している大学

国公立大学(6名)、私立大学(18名)でした。

あなたが所属している大学は次のうちどれですか?


(3)回答者の学年

大学2年(2名)、大学3年(3名)、大学4年(3名)、修士1年(7名)、修士2年(9名)でした。

あなたの学年は?


2.4月時点の大学の状況について

(1)授業の開始状況
4月末時点、アンケート回答協力者のうち、大学が通常通りに始まったのは1名であり、その他の23名の大学は通常通りには始まっていない状態でした。


(2)4月末時点の授業開始状況について
大学の授業が何らかの形で始まっていると回答した学生は24名中19名でした。ただし、オリエンテーションのみの実施、課題のみ出されている、ゼミや論文指導など限定的な形での実施はされている、など限られた形での開始が多かった様子が伺えます。

いいえと回答している場合にも、可能性によってはこのような状況を「始まっていない」と認識している場合もあったことが考えられます。


3.オンライン授業に関して学生が思うこと

(1)オンライン授業の実施形態
授業があると回答している場合での実施方法は、オンラインでの実施が5名、課題のみの場合が1名、オンラインと課題の実施の場合が10名、オンラインと課題での実施の形態が最も多く見られていました。

大学によって授業形態は様々なようですが、ZoomやMicrosoft社のTeams、Google Meetなどのビデオツールを用いたオンラインでの同時双方型、アップロードされた動画や音声入りのパワーポイント資料を視聴するオンデマンド型、提示された資料を読んで課題を提出する課題学習型の3形態のいずれかの形での実施が多い様子が伺えます。


(2)オンライン授業での使用ツール

オンラインで使用されているツールで最も多かったのはZoomの13名でした。次いで、Microsoft社のTeams(10名)が多くみられました。同社のSkypeも利用が見られていた(1名)。その他、YouTubeやWebEx、Google classroomなどのビデオツールの利用も見られていました(各1名)。ビデオツールでは無いが、パワーポイントに音声データを入れて配布する形などもあるようです。

4月6日に立命館大学が使用しているポータルサイトmanabaがサーバーダウンした例に見られるように、サーバーに負荷がかかる方法については、なるべく控えるようにアナウンスがされている大学も少なくないようです。ツールや授業形態、ポータルサイトなどについては、各大学によっての方針がある場合が多いようです。

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(3)オンライン授業を受ける場合の環境面における困難や不安

オンライン授業を受けるにあたっての環境面に関する困難や不安について尋ねると、自宅の電波が良好ではない(8名)、オンラインでの授業が集中できる環境がない(8名)という声が最も多く見られました。
これまでであれば、大学に行きさえすれば受けられていた授業を受ける環境を自らで作らなくてはいけない困難さがあるように思います。

そのほかにも、電波の容量や通信費の不安に関する声も寄せられていました。機器についても、使用する機材が古いことやカメラ付きのPCを所持していないことによる不便さに関する声も見受けられていました。実際、機器の古さゆえに、新しいアプリなどをインストールすることができなくて困ったなどの声もオンライン授業開始後に実際に筆者も耳にしました。

また、自宅で授業を受ける場合に、家族からの理解を得ることの難しさや、加害的な家族と同居している場合に自宅で大学の授業を受けることの不安を感じている声も挙げられていました。

今までは大学に行きさえすれば授業が受けられていたのに、自分で授業ごとに準備をすることの手間に苦労している人も少なくないのではないかと思います。特に、同じ大学であっても、教員によって授業の実施や課題の出し方も異なる場合も少なくなく、対応に混乱している学生も少なくはないのではないでしょうか。

また、オンライン授業の場合には、「自分の顔を見ながら授業を受ける」という機会もあり、そこに抵抗を感じる声も数件見られていました。

一方で、新しいやり方に対して、可能性を感じている声もあり、動画視聴の場合は途中で止めたり、戻したり、自分のペースで学習ができることについてメリットを感じている声も聞かれました。

一概にオンラインでの授業が困難ばかりということではなく、今後の大学における授業のあり方自体が大きく変わっていくことにも繋がるのかもしれないと感じています。


(4)オンラインでの授業への感想

すでに、オンライン授業が始まっている学生の感想で、最も多く見られたのは、他の人の反応が見えにくい(9名)というものでした。ついで、受講生同士の会話が困難、コミュニケーションが少ない、集中が困難(各6名)という声が多く見られました。
まずは、コミュニケーションの課題が大きいようです。教員とのコミュニケーションが困難(3名)という声にもあるように、オンラインでの授業という慣れない中で、学生同士にしろ、対教員にしろ、コミュニケーションが難しいと感じている学生は少なくないようです。オンラインでの授業を実施するにあたっては、実施する側も学生同士がコミュニケーションを取りやすいような問いかけの実施などを含め、授業を展開していくことが求められると考えられます。
ついで、集中に関する課題です。自宅でオンライン授業を受けるということで集中が困難であるという声も少なくありません。オンラインでの実施の場合に、対面と同じように90分の講義をそのまま実施するのではなく、小刻みに動画を複数に分ける、達成ポイントを具体的に細かく設けて集中を維持するなど、工夫をしていくことも必要なようです。

その他にも、先述の通り、機器の準備や場所や時間の確保など、今までであれば必要がなかった準備が発生し、授業の受け方や課題実施の方法がわかりにくい、授業によって異なるなどもあげられています。こうした理由もあるからなのか、疲れやすい、緊張するなどの声も少なくはありませんでした。


(5)オンライン授業の満足度について

実際にオンラインでの授業が始まっている人にお聞きします。_オンラインでの授業についての満足度はいかがですか?

これまでに挙げられているような点を改善していくことで、対面と同じようにというわけではないが、オンラインの特性を生かしつつ、授業を行うための改良の余地はありそうです。

とはいえ、大学の職員も、教員も準備期間が十分なく、機器の扱いや学生の状況も見えない中で手探りでの実施している様子も見られるため、教員と学生の双方にとって非常にストレスフルな状況ではあるとも考えられます。

一方で、対面で授業を受けるより緊張しないことや、質問のしやすさを利点として考える声も上がっており、オンラインだからこそのメリットを享受している学生もいるようでした。

また、本アンケートの対象である心理学を専攻する学生ならではなの不満として、実習や心理検査などの授業については、不安を抱えている学生も一定数みられました。

満足度の理由

▶︎ 満足群
・対面より緊張しない感じがある。
・先生と生徒との距離が全員一定な気がして、質問しやすい
・効率的である
・便利なツールがあるので、それを利用して有意義にしようという先生の姿勢がうかがえる
・対面の方がいいが、不自由さは感じていない
▶︎ 不満群
・「これで授業してるっていうんだなあ」という感じ
・急いで取り繕ったような内容
・仕方がないのは理解しているが、先生方も手探りでスムーズにいかない
・必要な教科書や書類が手元になく、十分な学習を得られない
・実習がメインになる学生には、オンラインだけでは補えない部分がたくさんある
・オンラインで顔を合わせていると言ってもやはり空気感などの面で不安がある
・授業の内容としては満足しているが、オンライン上でのやりとりなので、人との触れ合いが無機質なものに感じる
・満足はしているが、疲弊する
・ネットの接続により講師の声が聞こえないときもあり焦る。
・オンラインで済むのならば、高い学費を払って日中に大学に通う必要性を感じない。
・学費など返還は難しいかもしれないが、使ってもいない施設の維持費用を通常通り払いたくない
・どうしても表情が見えない(カメラがない)等の理由で、対面よりいまいち頭に入って来ない
・講義を実施していただけることはありがたいが、質を保つのは困難だと感じる
・対面して行わないと実施できない講義に関しても延期されているので、通常の半分以下の講義しかできていない
・演習形式の授業で実際の用具に触れられない場合は今より不満を感じると思う


(6)学習がしやすいオンライン授業は?

オンライン授業は、先述の通り、同時双方型、オンデマンド型、課題学習型の3つに分類できる場合が多いようです。授業内容に応じて実施方法を分けていってほしいという希望が最も多く見られました(8名)
また、同時双方型にしろ、オンデマンド型にしろ、90分程度の授業をまるまる実施するよりは、10分から30分程度の時間での実施を希望する声もそれぞれ見られました(各4名ずつ)しかし、90分程度の講義を希望する声もある(4名)ため、講義の内容によって時間についても考えていくのが妥当と思われます。


(7)教員への要望
教員への要望については次のような声があげられています。
【機器や接続への要望】【授業の実施方法】【動画の配信方法】【合理的な調整の配慮】に分類してまとめてみました。

▶︎ 機器や接続への要望
・接続などの確認で時間が取られないことが最優先
・ヘッドセットマイクで耳に直接機械的な音声が入ってくるのは凄く辛い
・機械に疎い学生もいると思うので、オンラインで授業するときは苦手な人への配慮や、苦手な人のペースで進めていく必要があるのではと思っています
・先生方もしっかりと機器の使い方を学んでおいて欲しい
・この授業はZoom、別の授業は、teamsのように媒体を分けられると混乱する
▶︎ 授業の実施方法
・他の学生と話し合える機会があるといい
・目的や目標といった1つ明確に目指すものを提示することが良いと思う(課題、レポートなど)
・顔はみえる形にした方が良い(顔出し無しだと集中していない話を耳にする)
・質問しやすいので、リアルタイム型の授業を中心にして欲しい
▶︎ 動画の配信方法
・録画授業を配信してほしい。大切なことを生配信で言われても聞き取りづらいことがある。
・先生側の音声のトラブル防止
▶︎ 合理的な調整への配慮
・学習の質は下がってしまうのはしょうがないが必要なサポートを得られにくい場合もあると考えられる


4.緊急事態宣言下で学生が思うこと

(1)大学生活の不安
大学生活の不安全般について、自由記述によって記載を下いただいたところ、非常にたくさんの自由記述をいただきました。このことからも不安を抱えている学生が多いことが考えられます。特に、心理系の学生にとっては、資格取得やカウンセリングの経験を積むための「実習」に関する不安の声がもっとも多く記述されています。
ここでは、【大学生活について】【授業料について】【卒業論文や修士論文について】【実習について】【アルバイトについて】【卒業後について(資格含め)】の6つに分類してみました。

▶︎ 大学生活について
・今後オンライン授業が増えてきて、大学の存在価値が無くなってしまう
・サークルについて、満足のいく新歓活動ができない
・卒業までに単位がきちんと取れないかもしれない不安
・新しい環境、ひとり暮らし、田舎で一人で家にいることへの不安や寂しさ
・帰省したくてもできない
・親しい人と会わない生活が続くことに精神的に疲弊してしまいそう
・大学は開放して散歩する場を設けてほしい。
・クライエントさんと話をするどころではない
・先生からの連絡がもっと欲しい
・同期と会えないことで自由に会話ができないことが不満
▶︎ 授業料について
・学費減免を実施してほしい。特に施設費用など、通常と比べて安くできるのではないかと思う
・大学院は実習と、実習に対するSVが基本ですが、行われていない状況下で施設費、授業料を支払わなければならない状況に非常にストレスを感じる
学費減額署名運動を始めようとしている同級生もいて、参加しなければ排除されるのではないかという不安
・学校に行っていないのに、変わらない学費を納めなければならないのは不満がある
・フルタイムで通学しているのと同じ学費がとられるのは合理的ではない
後で失った分を全て補ってくれるのならばともかく、授業数の削減を行なったりしたらその分は返してほしい
・2週に1度の2時間のSVだけで今まで通りの学費を払うことにかなりの抵抗がある
・学費、経済面に関しては大学によって支援があったりなかったりと平等でないため全国の大学で統一をてほしい
▶︎ 卒業論文や修士論文について
・実験室実験を主に行うのですが、三回時に一度も出来なかったら卒論を書くときに戸惑うのではという不安
・修論の質問紙調査が対面で行えないこと
・論文を執筆するための調査ができるか不安
▶︎ 実習について
・実習がどの程度実施できるのかが不安
・実習時間が確保できるか
・資格取得のための実習規定時間を2年で達成できない可能性が高い
・厚労省も緩和してくれると聞いて、そこは安心している
・実習機会が減ることによる専門家としてのスキル不足
・実践経験を積めないまま専門家として社会に出ていくのが怖い
・心理実習選考試験があるはずだが知らせが来ない
・実習時間についての目処が立ってないことが不安です
・実習科目の実施についての不安
・実習についての見通しの立たなさ
・公認心理師のための実習時間がたりるのか
・2月から意気込んで実習に行っていたので何も無くなってしまって空っぽな気分である
・実習を行えていないことによる資格取得への影響
・後期に実習、修論、就活が同時並行で行われるため、持ちこたえられるか不安
▶︎ アルバイトについて
・バイトができなければ学生生活を送れない
・大学が新型コロナ対策でアルバイトを禁止したこと
・大学の方からバイトに関して禁止されているため、経済的には厳しい
▶︎ 卒業後について(資格含め)
・資格取得のための単位認定は、質が落ちると予想されるオンライン授業でもしていいのか
・来年、資格の受験や就職があるけれど、先が見通せなくて不安
・実習に何も行けておらず、本来得られるはずだった知識や経験が得られないまま社会に出ることが不安
・コロナによって心理職の就職がさらに困難になるのか


(2)その他、思うことを書いていただきました
その他、上記に含まれないことで自由記述をしていただきました。対面での支援が困難な状況だからこそ、オンラインによる臨床を学んでみたいという声や、大学の存在意義を考えた声、ここまでに回答していた中での総括的な意見など様々寄せていただきました。

・今こそオンラインによる心理支援の勉強がしたい(特に実践)が、学校側はやってくれなそうな気がするので、そういう機会が欲しいです
・家庭環境が辛い人、学校に行くことが自分にとって気晴らしになっていた人はこの時期とても辛いと思います
・このような出来事は何十年に一度なのだから、大学側も自分たちのことばかりだけでなく本当に学生のためになることをしてほしい
・自分たちの給料を守るのも大事かもしれないが、このような状況の中、苦しい思いをして学費を支払う学生も大勢いる
・給料を減らせとは言わないが、無駄な部分は排除してその分学費返還に配慮してほしい
・コロナによる影響かはわかりませんが、iPadの購入を推奨されました


だいぶ長くましたが、アンケートの回答に協力をくださった学生の皆さん、ありがとうございました。

5月に入って授業が実施されていると思いますが、その後はいかがでしょうか。

緊急事態宣言が解除されたことを受け、対面での授業が今後少しずつ再開していくことも考えられます。また、大学によっても授業の方針が変わるでしょうし、同じ大学の中でも授業によって、実施の仕方が様々であったり、そもそも大学への通学の不安がある方もいるのではないかと思います。
不安の個人差と、社会のあり方のバランスを取っていくのが、自粛解除後においては大事になってきます。この状況だからこそ、自分自身のケアを大事にしていってほしいと思います。また、その不安を一人で抱えることなくいてほしいと思います。

MOSSという団体は、こういう時期だからこそ、心理を学ぶみなさんの力になれる団体になっていくのではないかと思って私は応援しています。

アフターコロナという言葉を耳にすることも多いですが、アフターコロナにおける心理のあり方を一緒に考えていきましょう。

6月に入り、梅雨時期は気圧の変化も激しいので身体的にも負担がかかる時期です。
加えて、ここまでに蓄積された心身の負荷もあると思います。

皆さん、ご自愛専一にて精励くださいますようお願い申し上げます。

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