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身中のタイラー

ファイトクラブが本当に好き。

初見ではほとんど意味が分からずただのびっくりオチのセクシーブラピ拝み映画かと思っていたが、胸中に燻り続けた妙な執着からことあるごとに考察記事を漁っていて、数年越しに映画のテーマを理解した。この映画は理解すればするほどに良い映画であった。


ファイトクラブの内容は非常に自己啓発的なテイストが強く、その人の社会へのアティチュードに依って好き嫌いが分かれると思う。だから、先日amazonでBlu-rayを購入して家に届いた時「ファイトクラブが家にある人ってメチャクチャ嫌だな...」と自分のことながら思った。


自分がファイトクラブが好きな理由として、自らの理想像がタイラーに近いことが挙げられる。社会に迎合せず他者の与える理想像を常に疑う。甘い事を言わず時には決断的に暴力行為も厭わない(他者への暴力ではない)。

ファイトクラブをみるまでは、いつも胸中に他者への羨望やいわゆる一般的な喜びへの盲信があった。それによってストレスを感じることも多々あった。
今ではそれは無い。なぜならそれはタイラーには無く、そんなタイラーに大いに影響を受けたからだ。

タイラーには、貯金は無く家も無く定職も無い。というか描写されている明確な所有物は3着くらいの衣服のみくらいである。別にミニマリストというわけではなく、彼曰く「何の価値もないから」。
タイラーは社会が提示する価値を信じないので劇中の、彼の物事に対する評価が非常に刺激的で映画の魅力の一つだと言える。

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前述のようにタイラーは何も持っていないが、それでいて実に充実していてエネルギッシュである。本当に価値があるのは何なのか。タイラーは̪知っており、主人公、そして観客に常に説き続ける。


常に説き続けるのだ。自分にとっては、もはや劇中でなくとも。


会社で、流行の資産運用サービスの話を持ち掛けられる。多少なりとも詳しい人間に教わるのであるから、美味しい話である。
鎌首をもたげる金銭への欲求に、タイラーは苛性ソーダをぶちまけて説く。「そんなことに何の意味がある?預金残高はお前の価値か?その金でお前は何をしたい?常に付きまとうリスクや管理の手間こそが投資ファンドの罠だ。男なら自己破壊を。」

会社で、遠距離の転勤を仄めかされる。せっかく田舎から出てきたし今の住居に慣れてきたのに...と思う。
そこへタイラーはちいちぇえ三輪車に跨って現れ、説く。
「住む場所なんかに何の意味がある?お前の人生の価値は場所がどこだって変わりはしない。お前はお前で、そこには屋根と壁がある。男なら自己破壊を。」

instagramでフォロワーが彼女とflexしている投稿を目にする。正直、羨ましい。
しかしタイラーは上裸で棒にぶら下がり、ニヤニヤしながら説く。
「悪くない女だ。羨ましいのになぜただ座っている?限りある人生の一分一秒をインスタグラムのザッピングなんかに費やして"それ"を解消できるか?お前も捕まえたら良い。」タイラーはその足でバーに行きナイスビッチに声を掛け容易くモノにする。「男なら自己破壊を。」

twitterにアップロードした作品にいいねが付かず、フォロワーも一向に増えなくて、つい不安になる。もしかしたら自分が気づいていないだけで本当はしょうもない出来なのか?自分はそんなに劣っているのか?と頭を抱える。
するとタイラーが汚いバスタブに浸かり水しか出ないシャワーを気持ちよさそうに浴びながら説く。
「フォロワーが多い奴はそんなにすごいか?フォロワーが多くて幸福そうなやつは何人居る?俺は見たことがない。お前が欲しいのはフォロワーではなく明確な基準で認めてくれる第三者だ。それに"良い作品"とは何だ?表現したい物は何だ?そこに他人の評価は関係ない。男なら自己破壊を。」


タイラーは本当に価値のあること以外何にも認めないので、次第に社会への執着や苦悩が減っていった。今では苦悩することも無い。

ただ一つ悩み事があるとすれば、たまに目が覚めると違う場所に居たり妙な集団が迷惑行為を働いていることくらいだ。


おわり

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