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高齢新人ドライバーは、アリかナシか

夫が定年退職後に、まずやりたいことは「車の免許を取ること」なのだという。

いやいやいや。
60歳で免許を取って、いったい何歳まで乗るつもりなのだろう。
私は自らの能力を鑑みて、自分の返納時期は65歳位かな、と思っている。
一般的にはどれくらいなのかと調べたら、令和3年の免許返納年齢の全国平均は、74歳だった。

夫が平均値まで車の運転をするとして、免許を使うのは14年だ。
たくさんの時間とお金をわざわざ使って、たかだか14年のために、高齢ドライバーとしてデビューさせていいものだろうか。

視力も反応速度も、若いころとは比較にならないほど衰えているだろう。
夫がケガするだけならまだマシだが、他人様を傷つけることがあったらと思うと怖い。
車が生活必需品である田舎に住むわけでなければ、公共交通網とタクシーで何とかなると思うのに、なぜ今さら免許が欲しいのだろうか?

夫に訊いてみると、今年の1月、私がコロナに罹患し、39度の高熱で病院を徒歩で往復した時に「車があればなあ」と思ったのだそうだ。
うーん。
気持ちはありがたいが、この先、もし似たようなことがあれば、救急車を呼んでほしい。

私は、運転歴25年ほどになるが、もし立場が逆ならば、確実に救急車を呼ぶだろう。
身内がケガや病気で辛そうにしていると、だいたいの人は、落ち着いているつもりでも、心の余裕をなくす。
そんな状態に加えて、乗せている病人が、意識を失ったり、吐いたりしたら、パニックになってしまうことは必然の成り行きだ。
パニクった新人高齢ドライバーの車に乗せられる方が、私は怖い。
39度の高熱より、そちらの方が死に近いところにいる気がする。

私のためなら免許はいらないから、と説得してみたのだが、
「俺は、いついかなる時でも沈着冷静だから」
とか、
「俺は鍛え方が違うから、運動神経がお前よりはるかにいい。だから大丈夫だ」
とか、諦めるつもりがなさそうだった。

ところが、先日の東北旅行で、夫は免許を諦めた。

理由は、この時運転していた友人の説得だ。
霧の中、車線をふさいでノロノロ運転を続けていた、前の車のドライバーを指して
「飯田さんが、今から免許を取るということは、こういう迷惑ドライバーになるってことですよ」
とズバリ言ってくれたのだ。

これが未来の自分の姿だと、具体例を目の前に言われては、夫も考えるところがあったのだろう。
「じゃあ、今のところはいったん、免許はあきらめる。必要になったらその時考えることにする」
と渋々納得したのだった。

定年後の夫の夢をひとつ潰してしまったようで、少しだけ後味は悪い。
けれど、老後はとにかく、心身の健康が第一なのだ。
事故を起こして、罪の十字架を背負って生きていく、そのストレスを考えると、やっぱり60歳から免許を取りたいというアイデアには、反対したくなる。
完全自動運転の車が登場したら、その時、検討しようと思う。

**連続投稿475日目**

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