2021.9.23 G1 CLIMAX 31 3日目 試合雑感

◼️第2試合 30分1本勝負 Aブロック公式戦
矢野通 vs グレート-O-カーン

開始早々の奇襲に加え、切られた弁髪を改めて誇示することで、これが復讐戦であることを示したオーカーンの覚悟は良かったですね。しかしながら、良くも悪くもそれ自体が「笑い」として消化されてしまうのが矢野戦の雰囲気であり、土壌に乗るといえば聞こえはいいものの、やはりそこは矢野のフォーマットであるわけです。

しかしながら、こうした雰囲気に適応できるのがオーカーンの最大の強みであり、プロレスの系譜にありながらもオタク文化に軸足を置いたその独自性のあるキャラクターだからこそできる振る舞いであるともいえ、時折見せる格闘技のナイフの鋭さもその魅力に一役買っていますね。仰々しくも新世代のレスラーとは思えない威風堂々ぶりと貫禄もまた凄いと思っております。

最後は矢野を読み切っての大空スバル式羊殺しから間を置かずにエリミネーターでの追撃で完勝。大空スバル式羊殺し、特定の界隈限定でありながら、使うだけでコラボが発生してるようなものですし、単純な技の知名度なら恐らくフィニッシャーより上でしょう。今はもう完全に代名詞であり、魅せ技でありながらサブミッションという特異性のせいか技の格は急上昇したように思います。それと並べる形でより実戦的なエリミネーターも切り返しに対応した速射性が備わっていますし、技の練度は凱旋帰国からのこの一年で格段に上がっているように思います。あと足りないのは名勝負だけで、好勝負や印象に残る試合は多くとも、オーカーンに名勝負はありません。あとはこの部分を如何に埋めるかがオーカーンの今後の課題となるでしょう。

◼️第3試合 30分1本勝負 Aブロック公式戦
KENTA vs 高橋裕二郎

個人的には好みの試合かつ、ベストバウトに入れたいと思います。飯伏戦での大判狂わせは一つの福音を裕二郎にもたらしており、この一勝があったからこそ試合前は2連勝を期待しちゃったんですよね。リーグ戦での初勝利を願い続けた昨年とは雲泥の差があり、こういう面でも一勝の重さというのを実感してしまいます。また裕二郎がHOUSE OF TORTURE入りしたことで、ユニット内ユニットでありながらバレットクラブとの関係性にも注目の集まる一戦となりましたね。HOUSE OF TORTUREはバレットクラブから反則や乱入の要素を抽出した分離主義派のように捉えているのですが、バレクラもその系譜を辿れば外国人選手による反旗という分離主義なわけで、歴史的な面白さもありますね。その登場人物の一人として裕二郎がいるというこの面白さ。単なる判官贔屓でなく、今の裕二郎は「面白い」と胸を張って言えます。

対するKENTAは同門対決を意識するそぶりを見せつつのTo Sweetポーズ。バレクラ対決のお約束でありつつ、絆の再確認でもあり、また心理戦でもあるという、複数の文脈の乗っかった定石となりつつありますね。いやはや……それにしてもKENTAは本当に上手いですよね。裕二郎にばかり注目していましたが試合の主導権、もとい空気を支配し続けていたのはKENTAであり、その経験値の高さに息を呑んでしまいました。

場外カウントの最中に放った裕二郎へのDDTという場外弾。これであわやリングアウト負けかと思わせておいての、裕二郎を先にリングに入れることでクリーンな「完全決着」を観客にアピールするという紳士ぶり。同門対決における互いの善悪のバランスは非常に難しいのですが、ここでベビーフェイスとしての側面を躊躇なく出せるのがKENTAの凄みであり、ダークヒーロー的な支持率があるからこそなせる技でもあります。そこから一転して裕二郎をいたぶり続けることで裕二郎の反撃のターンを促すというヒールぶり。裕二郎のアピールを煽って返す形でピーターへの腰振りと、この幅の広さはニクいですよね。

一見すると先のベビーの文脈と繋がらないようでいて、観客にあるのは裕二郎に対する期待だからこそ一本の線で繋がっているんですよね。SNSに精通(笑)しているKENTAがそれを知らないはずはありません。それを抜きにしてもWWEでKENTAが培ってきたものはこういう部分での空気の読み方と視野の広さであり、先ほどのベビー的な振る舞いとのバランスの帳尻を合わせたとも見て取れるわけです。思えば最初、裕二郎の猛攻に晒されながらも「仲間だろ」と発した言葉も、そうした弱気を先にブラフとして演じることで、裕二郎の取れる役割を消しつつ真っ向勝負へと限定させたようにも感じてしまいますね。

そのような感じでベビーとヒールの両面で圧をかけつつ、裕二郎の取れる振る舞いを簒奪しながら、その裏側にある原石のような情念や意地を炙り出す。この辺りは同門ならではの同胞に対する理解に繋がっていますし、それにきっちり呼応して奮戦した裕二郎もまた素晴らしいものです。エグすぎるフットスタンプを耐え抜きながらも、go 2 sleepを切り返してのDDT。さらにインカレスラム。鋭いエルボーからのマイアミシャインと大技でラッシュをかけます。さらに狙ったピンプジュースは意外なジャックナイフ式エビ固めで押さえ込まれますが、こうした硬軟織り交ぜた攻めは本当にKENTAは上手いんですよ。裕二郎のこうした過去のフィニッシャー連発も、彼の歴史を感じて感慨深いものがありますね。

最後は最後はレフェリーブラインドをついての急所攻撃の腕を掴まれて、そのままオモプラッタで極められながらのGAME OVERでKENTAの勝利。振り返ってみればKENTAの横綱相撲であり、レスラーとしての経験値の差すら感じたため裕二郎の完敗とも言えますが、まるで通用しなかったわけではなく、全力を出し切っての玉砕なので裕二郎が弱かった印象は微塵もなかったです。むしろ贔屓目なしでKENTAとここまで対等に張り合えたことが素晴らしいですし、それをしっかりと受け切ったKENTAもまた、老獪ながらも今が一番の全盛期ではないかと錯覚してしまいますね。

熱い戦いをすれば裕二郎も十分にやれる。そうしたニーズを改めて浮き彫りにしつつ、観客からバッシングの多い急所攻撃をしっかりと攻防の中に挟むことで「これもプロレスだ」という強烈なメッセージになっているという。ここにはやはり哲学を感じ取ってしまうのです。まさにバレットクラブであることのプライドを感じる一戦でした。

◼️第4試合 30分1本勝負 Aブロック公式戦
飯伏幸太 vs 石井智宏

終わってみれば17分42秒という短さながら、攻防は濃密かつフルスロットルで、全力で駆け抜けた一戦でした。キックしてもなかなかエンジンがかからないバイクに気合を入れるような、石井のビンタ。当然飯伏も応じてヒリついた打撃戦へと展開。狂気と根性のランデブーはいつだって刺激的です。

果てのない攻防と切り返しの中、腕を捉えてのスタンディングの状態での"生ヒザ"カミゴェ。そこから崩れ落ちた石井へのカミゴェで崩れ落ちるように飯伏がフォール。執念の一勝をもぎ取りました。

やはりコロナ罹患からの誤嚥性肺炎の代償が大きいのか、試合後に立てないぐらい飯伏は消耗していましたね。完全にスタミナ切れのようにも見えましたが、以前のような迷いや悲壮感はさほど感じず、ファン目線で見れば心配であることに変わりはないのですが、生きようとする意志のほうを強く感じました。3連覇しなければもうあとはない。しかしながらこの病み上がりなら取れなくても誰も責めない。でもだからこそ、這いつくばってでも勝つ必要がある。かつての飯伏幸太を取り戻しつつ、カミゴェの応用を増やすという進化。そして前人未到の記録へと、飯伏の戦いはまだ始まったばかりなのです。

◼️第5試合 30分1本勝負 Aブロック公式戦
鷹木信悟 vs ザック・セイバーJr.

今大会のベストバウトです。むしろ単純な試合のクオリティなら年間ベストバウトに入れても構わないでしょう。剛vs柔という分かりやすい構図が成り立ちながらも、そこは完全無欠のチャンピオンである鷹木信悟。ザックの関節技に対する回答は素晴らしく、ハイスピードグラウンドとでもいうべき驚異的な対応力を見せましたね。

ザックの試合、もといスタイルはパズルのような緻密さがありますが、そうしたチェスの盤上にそのまま将棋盤を連結させて指しているかのような拡張性。これこそが「最先端」の試合であり、同日に話題となったAEWに対しての強烈な対抗意識すら感じます。アイディア感溢れる切り返しの数々に演舞要素をあまり感じなかったというのも二人の凄みではあるのですが、対ザック戦で鷹木以上に「強さ」を押し付けた選手も他にいませんね。こうした振る舞いに嫌味さを感じないのも鷹木の持つ特異性だとも思うのですが、やや陰惨な雰囲気になりがちな関節技に対しての苦しみが、競技性を感じる無駄のない爽やかさへと昇華させた手腕は天晴れとしか言いようがありません。対するザックも鷹木の猛攻を真正面から受け切りつつ、関節技で打開していく攻略法が実に面白く、その過程でジワジワと両腕を痛めつけていくロジカルさも素晴らしいものですね。

打撃と関節という分かりやすい対比ながら、この試合の真骨頂は互いの「組み」にあったようのも思います。組んだその瞬間から攻防が始まり、切り返しの果てに互いの技で帰結する。それでいながらサブミッションの攻防にちゃんとロープの距離感というリアリズムがしっかりと含まれており、また一撃必殺の関節技と体力を奪う絞め技、降伏を迫るストレッチ系の複合サブミッションの使い分けも見事であり、技の性質×ロープまでの距離感×互いのダメージという感じに、一つの無限連鎖した攻防が指数関数的に複雑さを増し、観客の脳髄に直接叩き込まれていくような、そんな爽快感のある難解さに酔いそうになってしまいましたね。

最後はラストオブザドラゴン狙いの鷹木を胴絞めスリーパーで捕獲。なおも抱え上げた鷹木に横十字架固めから卍固めへ移行し、そのまま引きずり込んでのグラウンド卍固めへ。さらに三角絞めで落とそうと試みるザックをバスターで叩きつけようとして立ち上がった鷹木の一瞬の隙をつき、変化式の腕ひしぎ逆十字固めで鷹木から一瞬でタップを奪いました。極まっているはずの関節技を耐え続けるというシチュが、一々脳内補正を必要とするためどうにも苦手なのですが、これこそがまさに関節技のリアルですよね。そうした一撃必殺の関節技でありつつも、抱え切るのに時間を要したのはこの試合を通じての腕攻めがあったからであり、また一度はバスターで叩きつけられたからこそ二度目はその隙をついたという文脈も生まれているわけです。この文脈の「融合」ぶりは実に素晴らしく、ザックはまさに超一流のレスラーですよ。そしてこの幕引きだからこそ「果たし合い」感が生まれたとも言えますね。

敗れた鷹木信悟なのですが、ギブアップという屈辱の憂き目を味わっても、その闘志は衰えることは知らず、負けても完全無欠のチャンピオンであることに変わりはありません。いちいちウェットにならないのが鷹木の長所であり、負けは負けでありながら、この借りはいずれしっかりと返す。この一勝はIWGP世界ヘビーへの直通でありながら、短期間で内藤と鷹木の両者からギブアップを奪ったザックの"ロスインゴキラー"ぶりもヤバいですよ。もうIWGPの常連でいいじゃないですか。鷹木vsザック。第二ラウンドも期待します。

なんというか、鷹木vsザックは純粋に超ハイクオリティの試合を見せつけられることによる興奮を味わいましたね。予備知識なく見せられた名画がブッ刺さったときのような、大して興味のないブランドものの服を着てみたときのような普段の生活で接することのない肌触りであるとか、そうした“最高品質"を叩きつけられたような、そんな呆然とした面持ちになりました。好みの試合か否か、好きか嫌いか、もうそんなことすらちっぽけに思えるぐらい、達人同士の試合は凄いのだな……と。今はそれしか言えないです。新日本プロレスには色々と思うところもありますが、こういうところはやっぱり凄いですよね。





三日目もなんとか感想を書くことができました。KENTAvs裕二郎、鷹木vsザック・セイバーJr.。この二試合の「熱」は凄まじかったです。ではでは、次も楽しみにしていきましょう。今日はここまで。