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レインメーカー≠ラリアット〜その技の違いについて〜

オカダがレインメーカーを封印し、代わりに今まで変形のレインメーカーとして使ってきたバリエーションが全て実況も含めて「ラリアット」に統一されたことによる混乱がネット上でも見受けられます。マネークリップを新たにフィニッシャーにしたことによって、今まで当たり前のようにあったレインメーカーの満足感を求める「レインメーカー難民」からすると、ややスッキリしない流れなのかもしれません。なので今回はそのモヤモヤを払う一助になることを祈りつつ、以前書いたレインメーカー考察を少しブラッシュアップして「ラリアット」と「レインメーカー」の技としての違い、そもそも「レインメーカー」とはどういう技なのか?を考察していきたいと思います。

オカダのフィニッシュホールドとして絶対的な位置にあり、代名詞でもあるレインメーカー。和名では「変形短距離首折り弾」などと呼称されていますが、この技は既存のラリアットとは大きく違う点がいくつかあります。

まず正調式のレインメーカーは単発の技ではなく、相手の背後からリストをクラッチする独特のハンマースルーから放たれるショートレンジ式の「アックスボンバー」を呼称するものであり、これはプロレス独自の「複合技」の一つです。まずは基本のおさらいとして、動作確認の意味も込めて一つ一つ紐解いていきましょう。

1.「タメ」

レインメーカーの予備動作として、相手の背後に回りつつ右手首を掴むという動作があるのですが、この時に注目したいのはオカダの体勢です。ワールドで過去映像を確認してもらうと分かりやすいのですが、公称191cmのオカダが相手の背後に隠れる程度に腰を沈めており、下半身の「タメ」を意識しているのが分かりますね。腰を沈めて踏ん張るのはスープレックス系の技と同系統の動作でありながら、レインメーカーの場合は短距離走のクラウチングスタートのような感じで、後の踏み込みに繋げるための大事な初動とも言えます。加えて片腕を捉えているため相手の反撃もままなりません。ここからの切り返しは中邑がよく見せていた振りかぶっての後頭部でのヘッドバッドや各種関節技ぐらいで、一度この体勢になるとほぼ強制的に次に書く「崩し」が入るため、切り返しのタイミングも限定的になるわけです。

2.「崩し」

腰を落として足でマットに根を張りつつ、次に相手の右肩をプッシュしてバランスを崩し、同時に帯を解くように身体をくるりと反転させるわけですが、これは投げでいう所の「崩し」にあたる動作なわけで、オカダ曰く「全体を10とするならこの回す段階は7ぐらい」とのことであり、レインメーカーがレインメーカーであるために絶対に必要な動作なわけですね。単なる魅せ要素だけではなく、相手を引きつける速度や仕掛ける速度を調整しつつ、悟られないようタイミングをズラしているわけです。

この時も相手のリストはクラッチしたままとなりますが、相手のリストを掴んでのコントロールはプロレスの技術の一つであり、ロープ渡りことオールドスクールの時に逃さないようにリストを捻って極めてるのと同じ理屈なわけですね。

実際、力任せのイメージがありがちなラリアットではあるのですが、技の仕組みを見ていくと、レインメーカーとは虚をつき不意打ちのように相手の意識を刈り取る技で、力強さの付き纏うラリアット系の技のイメージに、回転というしなやかさを加えることで、全く別系統の新しいイメージの技に塗り替えた点がレインメーカーの凄い所なのです。

3.「踏み込みと叩きつけ」

そして最大限にまで腕を引き絞り、相手との距離が離れた瞬間、腕を振りかぶって首を狙って大きく踏み込んでいくわけなのですが、ここに「ラリアット」と「レインメーカー」の最大の違いがあります。
写真で比較すると分かりやすいのですが、まずは色々と物議を醸しているオカダのラリアット。その一つであるローリング・ラリアットを見てみることにしましょう。数年前に観戦に行った時の自前の写真で、二階席から撮ったため若干の見辛さがあるのですがご容赦ください。

これがオカダの「ラリアット」です。かつては実況もファンも含めて、オカダのラリアットをレインメーカーの派生技として○○レインメーカーと読んでいた時代があり、このローリング・ラリアットも仕掛けにレインメーカーの予備動作を使っていたため「ローリング・レインメーカー」と呼ばれていた時期がありました。しかし改めて見るとこの技はレインメーカーの動作をフェイントに用いこそしていますが、技の性質を見てもこれは明確に「ラリアット」と定義することができます。当時は掴んでいた手を離すという、レインメーカーとやや性質の異なる技でしたので、レインメーカーの括りに入ることにやや疑問があったのですが、数年越しで謎が解けましたね。

まず写真のオカダの「足」に注目してください。振り抜いた右腕とは逆の左足を踏み込むことで、腰の回転を活かしつつ真横に振り抜いているのが分かりますね。仕掛けこそ変則的でありながら、これは「ラリアット」の打ち方です。あくまでレインメーカーが認知されているからこその技であり、そこからさらにタイミングをズラすというオカダらしい一発となっています。

では次に、同試合においてもフィニッシャーとなっている「レインメーカー」のほうの写真と見比べてみましょう。

オカダの足を見れば一目瞭然ですね。正調の「レインメーカー 」では振りかぶった「右腕」に合わせて、同時に大きく「右足」を踏み込んでおり、所謂「ナンバ歩き」に代表されるような、腕と足が順列(同側型動作)になっていますね。ここが「ラリアット」と「レインメーカー 」の最大の違いであり、レインメーカーが「ラリアット」ではなく「アックスボンバー」とされる所以でもあります。

ここでアックスボンバーという技についておさらいなのですが、まずこの技には2種類あり、元祖であるハルク・ホーガンの使う「ホーガン式」と大森隆雄の使う「大森式」が存在します。ラリアットとの違いは鋭角に腕を曲げ、肘の裏側を顔面に当てる……とのことなのですが、レインメーカーを打つ前の写真を見ると、腕の角度はちゃんとオカダもこれに従っているんですよね。あと「ホーガン式」は相手の首元から上を飛ばすように打つのに対し、「大森式」は大きく踏み込んで上から下に叩きつける格好となっています。タイチのアックスボンバーやオカダがレインメーカーとして使ってるこれらは、性質では「大森式」のアックスボンバーであり、元々ドリー・ファンク・Jr.のエルボースマッシュのインパクトをヒントに改良された技なので、同じくエルボースマッシュを得意とするオカダもこの技に行き着いたのかもしれませんね。

寄り道はここまでで、技の違いに話を戻しましょう。もう一つ、写真のオカダの腕の軌道に注目してください。これが踏み込みのステップが違う理由なのですが、腰の回転で打つラリアットは技の軌道が首元を目掛けた「真横」なのに対し、レインメーカーは相手の首を真上から真下のマットへと全体重を掛けて叩きつける軌道となっています。右足を踏み込む最大の理由はこの全体重を乗せるためであり、それによって高角度から相手の後頭部を体重を乗せてマットに叩きつけることができるため、レインメーカーが必殺技として成立してる理由ですね。片腕を捉えていることによる受け身のズラしに加え、オカダ自身の高身長を十二分に活かした技が「レインメーカー」という技なのです。喰らった相手が一回転することが多いのも、受け手が後方に身体を流すことでマットに叩きつけられるダメージを緩和しているわけで、単なる見栄えの良さだけではないのですよ。そこにはちゃんとした「リアリティ」があるのです。

4.攻防の集約

レインメーカーという技が画期的かつ、その性質として興味深い点の一つに、密着状態における相手との攻防の集約にあります。分類上は打撃技でありながら初動が組技という特異性により、フィニッシュ時の両者の間隔が短くなるために攻防がスピーディになるんですよね。また相手による切り返しも基本的にこの間合いで発生するため、観客の視点もそこに集約される上、ここから様々な攻防のパターンが無限拡張的に生まれていきます。考えれば考えるほどよく練り込まれた技であり、それがオカダの試合の高揚感に繋がるわけですね。

5.オカダがラリアットと使い分けする理由について

オカダというレスラーが面白いのは、体格の良さに相反して、相手の力を逆利用する合気道的なスタイルを好んでいる所にあり、混乱の元となっている「ラリアット」の使い方にもその思想が如実に表れています。

既存のラリアットのイメージは前述した通りの力技であり、突進力を活かした直線的な動きの技なのですが、オカダはラリアットを使いながらも、一番ポピュラーな使い方である、走り込んでのラリアットや走ってきた相手へのカウンターでのラリアットなどは不思議と使用しないんですよね。近年好んで使用しているのは、逆さ押さえ込みの体勢から打つラリアットで、これはレインメーカーの「崩し」の技術を応用したラリアットであり、ここにオカダの非凡なセンスを感じます。

あとはレインメーカーの初動をフェイントに使いつつ、回転した遠心力で叩き込む前述のローリング・ラリアットや、相手のリストを掴んで引きずり起こしてのリストクラッチ式のショートレンジラリアットも好んで使いますが、どのラリアットも上半身の力で強引になぎ倒すのではなく、体勢を崩したり遠心力を使ったり、ショートレンジ〜起き上がりこぼし式の場合は、手首を極めてグルグルと相手の周囲を歩くことで相手の体勢をコントロールしたりと、細かな部分にオカダのこだわりとテクニックが垣間見えます。こういうのを見ても分かる通り、オカダは「理合」の人なのですね。

オカダがラリアットと使い分けしだした理由は諸説ありますが、一つはやはりラリアットとの「差別化」なのではないかと思っております。オカダのレインメーカーも今でこそ絶対的なフィニッシャーとして認知されていますが、使い出した当初は批判が多く、特にハンセンや長州力のラリアットの衝撃を直に味わった直撃世代のオールドファンからはすこぶる評判が悪く、オカダのような細腕でやっても説得力が無いと言われていたんですよね。オカダ自身、束ねたバットをへし折ったりと、往年のガイジンレスラーのような化物アピールをしたり、ファレの巨体をツームストンで叩きつけたりと、地力はそれなりにあり決して非力ではないのですが、ここはやはりラリアットという技に付随する「力」や「パワーファイター」としての使い手のイメージの問題なのでしょう。

前述の技の仕組みを振り返ってみれば分かる通り、ラリアットとレインメーカーは似て非なる別の技です。しかしレインメーカーを封印してラリアットを使うことによるファンの混乱や、僕ら自身も変則的なラリアットをレインメーカーと呼んでいた前科があるため、知らず知らずのうちにレインメーカーを同系統の、ラリアットの延長戦上の技として捉えていたフシがあります。勿論、完全に別技とまでは言いませんが、ラジコンとダイコンぐらい性質の違う技であり、ここに来てのラリアットとレインメーカーの使い分けと明確な定義付けは、そうしたイメージを改めて更新し、絶対的な必殺技として改めてレインメーカーを知らしめるための野心なのかもしれませんね。

あと、よくある批判として、なぜレインメーカーを出さないのにラリアットを出すのか? についてなのですが、これに関してはそうですね……。ブロディがキングコングニードロップとギロチンドロップを併用していたのと同じ理由だと僕は受け取っております(笑)「レインメーカーかラリアットか分かりにくい!」という声もありますが、この来るか!来るか!と見せかける「焦らし」もまたプロレスの面白い所であり、いざ本家本元のレインメーカーを解禁した時の爆発力を思うと凄く楽しみじゃないですか? ひょっとしたらレインメーカーの初動に入っても、そこからまさかのドロップキックであったり、YOSHI-HASHI戦で出したランニング・ネックブリーカー・ドロップである「原型」のレインメーカーを出すかもしれませんし、観客の思いを他所にまだまだ焦らされるかもしれません。それもまた楽しみの一つですし、あえて封印したことで、あの定番となったレインメーカーポーズが明確な解禁の意味を持ったので、それも凄く楽しみですね。

オカダの語ってた「賛否両論」がありますが、これはKOPWのことだけではなく、ひょっとしたらレインメーカーの封印や新たなフィニッシャーであるマネークリップの使用も見据えての発言だったのかもしれません。つくづく悪戯っ子というか、反骨心があるというか……これだけの実績を経てもなお、オカダは「満足」していないんですね。末恐ろしい選手です。

今回はここで終わりです。レインメーカーとラリアットについてのモヤモヤは多少なりとも晴れたでしょうか? 分かりにくい人は、背後から相手のリストをクラッチして反転させて放つ型のみが正調の「レインメーカー」それ以外は「ラリアット」というざっくり認識でもいいかもしれません。しかしやはり本家レインメーカーの解禁が待たれるのも事実で、その解禁の日は一緒に燃え上がっていきましょう。ではでは。今日はまだG-1の更新がありますので一旦休憩。またお会いしましょう。お疲れ様でした。