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国語授業力向上 教材研究にのめりこむ ―調べることが楽しいー

1  イソップを調べる

 イソップ物語は身近なので、できたのは新しいと思いがちだが実は古い。少しばかりの古さでない。紀元前のふるさである。イソップ物語の作者であるイソップという人物については、大昔の人なので、残された様々な文献に頼るしかない。結論から言うと、史実としてのイソップはおよそ紀元前六〇〇年前後に生まれ、紀元前五五〇年頃に殺されているという。紀元前一世紀ごろに書かれたであろう「イソップの生涯」という伝記本がある。また、アリストテレスの「サモス人の法制」に一部分にアイソポス(イソップ)の記述がある。さらに、プラトンの弟子たちによっても資料がのこっている。


 ここまで調べただけで、イソップがアリストテレス、プラトンへ影響を与えたことがわかる。童話作家だと思っていたイソップがギリシアを代表する哲学者たちに、何らかの影響を与えたことを知り、さらにイソップの教材研究にのめりこんでいった。
 アリストテレス、プラトンだけではなかった。
なんとソクラテスが死刑を待つ獄中で、イソップの話を詩に読み込んでいたというのだ。ソクラテスはイソップの話を覚えていたということになる。
 イソップを調べていくと、イソップについてのほんの一、二行の情報が気にかかる。
作家・哲学者の職業意識が会間見える。哲学者であるプラトンは、ソクラテスが作家のようなことをすることをよく思っていなかったらしい。哲学者と作家の当時の職業意識なのだろうか。
また、少し調べただけで、イソップの話は「童話」「寓話」「物語」「説話」の様々な言い方が出ている。ジャンルがあまりにも広い。それぞれに使い分けがあり、出版物もそれぞれの意味を持っているに違いないのだが、授業としては一体どう呼ぶことがふさわしいのだろう。
 出版物を見ても、「イソップ童話」「イソップ寓話」「イソップ物語」どのタイトルでも出版されている。
 戦後、川端康成が翻訳した本だけでも 戦後、川端康成が翻訳した本だけでも

1956年 トッパンの絵物語イソップ123 トッパン印刷
1957年 世界幼年文学全集1 イソップ物語 宝文館
1968年 イソップ 1.2.3 フレーベル
1977年 いそっぷどうわ 岩崎書店

がある。
  授業の中で「イソップ」の本をなんて呼べばよいのか。出発点から立ち往生である。
 結局「伊曾保物語」との関連から、分かりやすいほうがよいと考え「イソップ物語」と決める。
 こんな調子だから、模擬授業の流れを考えることなど、はるかかなたのことである。
調べても調べても「一応の区切り」がつかない。
 夜、原稿を書いていても、原稿のパソコンのまどを小さくして、ついインターネットを開いてしまう。
 インターネットで最初にしたことは、イソップ関連の本をネット注文することからだった。子どもの読むイソップ物語ではない。イソップの研究に関する本を見つけることだった。本屋にいってもこうは簡単に見つからないだろう。
どの本がいいかはほとんど分からない。とりあえず六冊ほど注文する。
しばらく原稿を書く。のびをするついでにまたインターネットをひらき、「イソップ」について調べる。その繰り返しの毎日が続く。キーワードをあれこれ入れ調べてみる。本ではなかなか見つからないことが多くある。貴重な情報が次々に手に入る。
 「伊曾保物語」を授業することに決めて、「伊曾保物語」と「イソップ」についての情報を集める。少しずつ知識はふえていくが「点」でしかない。一つ一つの情報がばらばらで、授業の組み立ては全く見通しがつかない。

2 「今昔物語」登場

 ちょうど「伊曾保物語」の授業にしようと決めたころ、向山氏から電話が入った。電話の用件の聞かれたことに答えた後、「チャンスの女神」が微笑んだ。「向山先生、ひとつお聞きしていいですか?」大胆にも、アドバイスをもらおうと、声を発していた。

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