人生、転職、やり直しゲーム 第1章

【引っ越し】

俺は、
クーラーを効かせた車で会社に出向き、
自分の車を駐車場に置いた。
ダンプがスタンバイしていた。
既に集まっていた他の課の若い社員達に俺は言った。

「皆、休みの日にサビ残で引っ越しの手伝いをさせてすまない。
午後からの優順さんの家は延期になったから、
午前中の鴨葱さんの家だけ頼む」

総務課と設計課と建築課の若いヤツらと
会社のダンプに乗り込み鴨葱さんの家に向かった。

鴨葱さんは、ちゃんと家具や荷物を3種類に仕分けしていた。
家が建つまでの仮住まいのアパートに持っていく荷物、
会社で預かる荷物、
捨てる荷物。

農作業に使うものは、畑の横の小屋に入っていた。

俺達は、まず、
住宅付きアパートを立てている間、鴨葱さんが住む、
パワハラパレスのアパートに運ぶ荷物をダンプに積んだ。
鴨葱さんが入居する
パワハラパレスのアパートの鍵を開けて、
家具なんかを運んだ。
重い…
台車が使えない段差のある玄関から先は2人で持ち上げた。
俺の部屋と同じ作りの、夏に死ぬほど暑い、
パワハラパレスのメゾネットアパートだ。
玄関開けたら直ぐ階段。
2階に上る階段が狭くて急だ。
若い奴がうっかり壁にタンスの角をこすって
白いクロスが破れ、下地のクリーム色の壁が顔を出した。

若い奴は悪びれず言った。
「おっと、安普請アパートはこれだからなぁ。
俺はこんなアパート死んでも買わないけどな」
別の社員は言った。
「おいおい、買ってくれる馬鹿がいるから俺らの給料が出るんだよ」
俺も続けて言った。
「そうだ。その馬鹿がいなくなったら、
俺らは失業するんだぞ。
俺は馬鹿発見器だ。
まず、営業トークで洗脳して老害をその気にさせて、
手数料で割高の建物代金をいただく。
さらに、
この、隣の部屋から咳が丸聞こえの安普請賃貸住宅を
家の無い馬鹿に貸し付けて
家賃を毎月を巻き上げているんだぞ
感謝してくれ」


軍手の中の手が汗だらけだ。
冷蔵庫のコンセントを入れ、
テレビの設定も済ませた。
「荷物は重いし暑いなぁ。
熱中症で死にそうだ」
社員の1人がペットボトルのお茶を
喉をゴキュゴキュ鳴らして飲んだ。

次に会社で預かる荷物を会社の倉庫に運んだ。
桐のたんすや屏風。
職人の手作りものだ。
若い奴が、会社のドアにタンスの角をがんがんぶつけて
あちこち傷を作ったが、
このタンスは元々古いし、
黙ってりゃバレないだろう。
会社の倉庫に運び終わると、
俺たちはまた、鴨葱さんの家に戻った。

ダンプから降りるとき、一人のバカ社員が調子に乗って言った。
「老害の荷物、多いですねぇ」
馬鹿野郎!すぐそこに、鴨葱さんがいるのに!
俺は、バカ社員を拳で殴り倒し、
デカ声で叫んでごまかした。
「廊下の荷物を全部運んで、ダンプの後ろに置け!」

ダンプの大型ゴミ収拾所に持っていく、
処分する家電や家具だ。
子どもの学習机や、
昔話の舌切り雀に出てきそうなツヅラ、
古いクーラーやタンスなんかをダンプに詰めた。
子どもの習い事だったのか、
剣道の鎧や竹刀、野球の金属バットもあった。

「新人共見ておけ。
ロープを、この、万力縛りって結び方でトラックに固定すると、
大きい荷物がズレにくく、
事故防止になるんだ」
「無能さん詳しいっすね」
「俺が新人の頃、
課長に教えて貰った」
恫喝のしかたや、都合の悪いことを客に教えない営業も一緒にな。

俺は、頃合を見計らって、
若い奴らに聞こえないように
鴨葱さんに言った。

「結構、量がありますねぇ、
料金は10万円かかります」

「ええっ、まだ金がかかるべか?」

「すいません、
以前のお話より量が多くて。
大型ゴミは、今
無料でひきとってくれないんですよ。
中間処理場で解体して、圧縮、埋め立てるのに
キロ単位の重さに応じて
大型ゴミ回収業者に金を払わないといけません。
結構な量処分しますしね」

本当は、
パワハラパレスで年間契約している
中間処理施設は、
俺たち引っ越しの手伝いはタダで使えるのだが、
鴨葱さんは渋々10万円を財布から出してくれた。
金を受け取っているのが、
会社の連中にバレたら大変だ。

「無能さん」
手伝いの若い奴が1人、俺に話しかけてきた。
10万円は手に持っている。
どうする?

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