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晩秋のピクニック

こちらの国はすでに晩秋へと向かっていて、色づいた木ノ実や葉っぱもだいぶ散ってしまい、地面には落ち葉が降り積もっている。
最高気温は10度を切り最低気温はマイナスの日も…。
ニット帽にマフラーに手袋、厚手のダウンジャケットも着始めた。

天気の良い朝は仕事前に、タンブラーに一人分のコーヒーを淹れ、近くの島へ散歩して一人コーヒータイムをすることにしている。
夏の間の賑わいが嘘のように静まりかえった島の中を歩き、白樺の木陰にあるいつものベンチに座ると、タンブラーの飲み口を開けて熱い珈琲をちびちびと飲む。
海辺にあるカフェは夏の間だけ開いている店ばかりで、今は次の夏が来るまでクローズしてしまった。

ハマナスの茂みに覆われるように置かれているベンチは、周りから隠されている感じがして落ち着く。
この国の島や海辺にあるベンチはいつも、全て海の方を向くように置かれている。
よく見ると、島の中に点在するベンチの幾つかには他にも人が座っているけれど、それぞれ離れて座り、ひとり静かに海を眺め寛いでいる。
ひとりを満喫している人、ひとりで居る人の邪魔をしない、というのがこの国の民の流儀なのだ。
それが自分には心地良い。

朝の新鮮な空気を深く吸い込んで、海を眺めながらイヤホンで音楽を聴いたり、このnoteも時々海辺のベンチに座って書いている。


トラムやバスの中で隣の席が空いていても、座ってくる人はこの国では稀だ。
パーソナルスペースが広いというか、適度に人と距離を取りたい、という人が多いのだ。
以前、世界の人々をスナップしたWebニュースで、この国の民がバスを待つ様子が話題になったこともあった。みんな隣の人との間を2メートル以上は空けて横一列に並んでいたからだ(この時はパンデミック前)。
隣との間が空き過ぎだろ(失笑)と世界中の人から揶揄されていたが、その後
パンデミックになってからは、この国の標準が世界の標準になった。
ついに俺たちの時代が来たぜ、と皮肉ったりしている民もいた。


少し離れた岩場でピクニックしているカップルが見える。
あ、島に来る前に寄ったスーパーからずっと前を歩いていた大学生らしきカップルだ、と気づいた。
女の子の方は頭に黒いマフラーをほっかむりしていたので、パッと見、アラブ系移民の子かと思ったがこの国の民だった。ウインドブレーカーの下に重ね着してジャージの下にも何か履いているようで、全体的にモコモコと着膨れしている。
男の子の方は、首にマフラーをぐるぐる巻きにして、厚手のセーターに何故かロングスカート、その下にこれまたジャージを履いている。
スカートの下にジャージって、自分の高校時代も暖房のない教室が寒くて、冬はこんな姿で過ごしていたな…。なんせ女子校だったもんで、全く男子の目を気にしなくてよかった。
少し後ろからついて歩きながら、二人とも妙に厚着してるなと思って見ていたが、ピクニックするための防寒対策だったのか、と納得した。
二人は岩場にブランケットを敷くとスーパーで買ったパンやジュースを出し、並んで座りながら、何がそんなに可笑しいのかしきりにキャッキャと笑っている。
おお、若いなぁ、寒そうだけど楽しそうだな…さすがにカップルは、この国の民もピッタリくっついて座るんだな、と過ぎし日に想いを馳せ、少し眩しかった。

今週この国の学校は、秋休みだった。
ちなみに春・夏・秋・冬休みの他にもスキー休みというのが2月にあり、この国の学校はしょっちゅう休みになる。大人も大部分は一緒に休みになる。
息子がもっと小さかった頃は、秋休みには森へキノコ採りに行ったりもしたが、今じゃ息子にキノコ採りに行く?と聞いても「絶対行かない」と言われ、夫を誘っても「疲れるし、寒いし、森なんて行きたくねぇし」と断られる。インドア派でほとんど自然に関心のない夫と息子。
アンタ達はそれでも森の民の子孫なのか…?
あ〜あ、つまらない。うちの家族にはガッカリだよ。
私はキノコが大好きなのに。秋はキノコ採りに行きたいのに!
そして森で焚き火して、ソーセージとマシュマロ焼いて食べたいのに!

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美味しいキノコ
これは毒キノコ
これも触ってはいけないくらい猛毒。毒がある方が見た目はメルヘンで可愛い雰囲気なのだ


こうなったら、ソロピクニックとかソロハイキングするしかないのか?

鬱蒼とした森へ行きたい私なのだが、冬になったらそれこそ遭難しかねないので、なかなかひとりで行く勇気は出ない。


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