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初めてのアンティーク着物が愛おしい

 先月、外出先でアンティーク着物をお迎えした。
 着物の他にも骨董、生活雑貨、アクセサリーなど様々に扱っているリサイクルとアンティークのお店で、数年前にふらりと立ち寄ってから何度か訪れている。良心的な価格帯や押し売りのない接客、Instagramに投稿されるコーデも私好みだ。
 その日は以前お迎えした着物と帯の里帰りコーデだったから、折角なら顔を出したかった。あとは流し見程度の軽い気持ちで、だ。
「着物一枚に帯三本」という言葉はあるけれど、ついついワンピース感覚で選んでしまった着物だけで箪笥が圧迫されている。

着物と帯セットで三千円だった。最近のお気に入り。

 店員さんと軽く立ち話をしてから、単衣の着物や浴衣、半幅帯などをざっと物色した。特に惹かれるものはなさそうだ。
「今日は夏物をお探しですか?」
「えぇ」
「それならこれがおすすめですよ。アンティークなんですけど——」
 店員さんはトルソーを指差した。
 立湧や網目とも違う薄黄色と青紫の柄に、星を散らしたようなラメ。アンティークを着る人は大抵持っている柄らしい(私の手持ちはポリやウールのリサイクル着物と洗える浴衣だ)
 着付けられたトルソーを見てもしっくり来なかった。むしろ派手だと思っていたのに、羽織ってみると不思議と馴染んでしまった。鏡の中の自分は目尻を下げていた。
 それでも気がかりだった着付けやお手入れについて訪ねたら、襦袢代わりのノースリーブワンピースから着物クリーニング店の選び方まで丁寧に教えてくれた。
「ワンシーズンだけと割り切るのもアリ」と言われてホッとした。
 箪笥の事情もすっかり忘れた私は、財布から三千円を出していた。
 側から見れば甘っちょろいのだろう。相手だって商売だとはわかっているけれど、自分から選ばないようなものと巡り合えるのが嬉しいのだ。

 自宅のハンガーに掛けながら、生地の軽さと薄さに息が漏れた。シワや擦り切れそうなやわさも愛おしかった。
 愛おしいと感じるのはおかしいのかもしれないけれど、それでも胸がきゅっと締め付けられる。前の持ち主はどんな人で、どんな帯や小物と合わせたのだろうか。
 これから私と一緒にどこに行こうか。


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