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火星人

 仕事を終えて最寄りの駅に着いてからも、夕食の献立が決まらない。
 階段を駆け下りずにエスカレーターで立ち止まり、目の前に見えるスーパーまで時間を稼いだ。カレーは木曜日に食べたし、リゾットも違う。かといって麺類の気分でもない。
 結局難しく考えずに、具沢山のスープでお腹を満たすことにした。小鍋でキムチと野菜と豚肉のスープを、電子レンジで台湾風豆乳スープ(シェントウジャン)を作った。スープが二品あることに気付いたのは、ランチョンマットの上に皿を並べた後だった。
 なんだか締まりに欠ける。再び台所に立ち、休日の朝食用に残していたレモンとパセリのウインナーの袋を開けた。
 たこさんウインナー、火星人は火の元から生まれる。三口コンロの厨房、廊下を背にした台所、時には自然に囲まれた屋外で。
 地球人の見た目がそれぞれ違うように、火星人も様々だ。
 実家の火星人は茶色で、黒ごまであしらわれたつぶらな瞳が可愛かった。大人になった今でも赤い火星人は憧れだ。
 六本足も意外と難しい。一本を二等分にしてから切り込みを入れた方がよかったかもしれない。
 足の幅も個性のひとつだと自分に言い訳をして、玉子焼き用のフライパンに火を点けた。

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