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おみく字と元号の話

 日付が変わる前に眠りこけて、冷たくなったこたつの中で目覚めた午前四時。中途半端に冴えてしまった私は、宅急便で受け取ったままの小箱を開けることにした。
 THE LETTER PRESSのオンラインストアで購入した、震災でも落ちなかったという活字の「おみく字」だ。届くまで中身はわからない。

 宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』と、小川洋子の『バタフライ和文タイプ事務所』を思い出しながら、丁寧な梱包を解き、包み紙をそっとめくる。
 初めて目にする活字は想像よりも小さくて、少しひんやりとしていた。
 おみく字は楷書体の「令」だった。下部が「マ」の方だ。印刷物でよく見る活字(下部が「ア」)の方が見慣れているせいで、しばらく考え込んでしまった。
 そういえば現在の元号の「令和」にもまだ慣れていない。
 私の人生は平成しか知らなかったから、元号改正といえば平成と書かれた額物を掲げている写真のイメージしかない。
 平成三十一年に令和元年になったから、三十二、三、四――と、未だに自分が共に過ごした元号を基準にしている。

 令和も今年で四年目だ。いつかはこちらの方が身に馴染むのだろう。
 しかし次の元号に変わってもしばらくの間は、今の平成のように令和を引きずりそうな気がしてならない。

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