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サンドイッチと初めてのレシピ本

 バイト先の近所にある本屋で、初めてレシピ本を買った。スーパーによくある食材と味出し素材を組み合わせて、手間なく簡単に作れるレシピを沢山紹介していた。
 17歳の私は人生初の恋人に夢中だった。同じバイト先で働く年上で、とにかく嫌われたくない一心で盲目だった。
 何度目かのデートで水族館に行くことになった。手料理が食べたいと言われて、朝から張り切ってサンドイッチを二種類作った。
 今だから言えるけれど、うずらの卵を目玉焼きにするのは間違いだったし、デコチョコはチョコレートソースの代わりにはならない。定番のやり方で作ればいいものを、感覚でやったり独創性を求めるのがよくなかった。
 自分では失敗したつもりはなかったけれど、「人間の食べる物ではない」と怒られた。さすがに泣いた。
 クッキー、マカロン、プリン、ケーキなどお菓子作りは得意だったけれど、おかずはまずまずだった。食べられるけど普通。
 そんな苦いエピソードがあったから、せめて人並みに作れるようになって見返したいと決心した。かといって料理の基礎本を選ばないところが私らしい。
 恋人とは色々あって数年後に別れた。手料理とは関係ない理由だった。

 浅草花やしきでリベンジした写真が残ってた。たまごとハムチーズかな。

 あれから十数年。おうちごはんの域からは抜け出せないけれど、「人間の食べる物」までには成長したと思う。泣いて謝っていたあの頃よりも逞しくなった。おともだちパンチをお見舞いしてもいい。
 初めて買ったレシピ本はまだ本棚にあって、マンネリがちな時に参考にしている。表紙は日焼けして付箋もボロボロだけれど、大切な一冊だ。
 今は自信を持って人に振る舞えるようになりたい。これから17歳の私を救ってあげるんだ。

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